あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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第1章

カルガモの2人と新しいカルガモ③

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 祥介には秋彦の自分を蔑ろにするような、言葉が痛い。全部自分の不用意な言葉と態度のせいだとは解っている。

「腕も、胸もある。秋彦のこれからの悲しい気持ちも半分にしたい。嫌か?」

「祥介に迷惑を………かけたくないんだよ。僕のせいで嫌なことに巻き込みたくない。嫌な目に遭わせたくない!
それと、さっきも言ったけど………
祥介と家に住んでること、誰にも言ってないから。恥ずかしい疫病神みたいな友達と一緒に住んでるなんて誰も知らない。
それと。
『友達ができたから、少しは学校が息苦しくなくなったよ。
祥介にばかり頼ってたらクラスでの祥介の立ち位置が悪くなっちゃうから。
昔見たみたいな祥介の悲しそうな顔を見るのが僕の一番つらいこと。
だから、シューズのことも悪口も陰口も、嫌がらせも言えなかったんだ。ごめんね、祥介………』
 ──こんな簡単な言葉なのに、
『お夕飯、頑張ったんだよ。
悲しかったよ。そんなに祥介は嫌なの?それに、僕自身、祥介にとっては『恥ずかしい友達』だからかな………。
本当は祥介も嫌だったんだね………。
もう、呼んでも振り向いてくれない?
照れ臭そうに笑う祥介、
好きだったんだけどな。
本当は、同情でも、お荷物って思われていても、祥介の言葉に甘えたいんだ。
昔みたいに暖かくて安心する祥介の胸の中で泣きたいんだよ』」

 ──そう伝えたかった言葉は、まだ、山ほど……。 

「秋彦………ごめん。ごめんな………」 



祥介は繰り返しそう言い突っ伏した秋彦を包むように抱きしめる。涙が込み上げて、じんわりと秋彦の服に滲む。泣いていることを、気取られたくなかった。 

「ごめんな、秋彦、ごめん………」

自分には泣く資格なんてない。一番傷つけたくないひとを、これ以上もなく傷つけた。祥介の今まで築き上げてきた秋彦との関係が全て崩れてしまったように祥介には思えた。

もう、あのまるい声を聞くことはないと思えた。そう思ってた矢先、秋彦は苦しそうに呼吸を乱しながら、 

「もう、謝らないでいいよ。泣かないでいいよ。祥介。もう、いいよ。祥介………ただ、涙が止まらないだけだから。みっともないね」

秋彦は泣きながら、柔らかい声で祥介に言った。祥介は、声を殺して泣いた。
どうして許してしまうんだろう。
泣きながらも、自分を気遣うんだろう。
切なくて、どうしようもなくて、秋彦を抱きしめる腕に力がこもる。暫くして泣き声はやんだ。

そして、秋彦は力なく倒れ込んだ。 いつも、秋彦は祥介が名前を呼ぶと、振り向いて、まるく笑い、祥介の名前を呼びながら、駆け寄った。

きっともう、秋彦のあんな笑顔を向けられることはない。今のあの柔らかい声も、秋彦の最後の優しさだと、祥介は思った。 祥介にあったのは、初めて出来た友達と、秋彦への嫉妬。

そして、新しい世界を手にした秋彦が祥介を忘れ何処かへ行ってしまうのではないかという恐怖感だった。

あんなこと言うつもりじゃなかった。あんな態度をとるつもりじゃなかった。
どうして素直に言えなかったんだろう。

『恥ずかしい』の意味も違ったのに。祥介は、言った。

「ごめんな。ごめんな、秋彦。許してくれ………」

 ──────────── 

秋彦が高一の晩秋。
秋彦の母が倒れた日、たまたま家に来ていた祥介が救急車を誘導し、病院で叔母を呼んだ。
緊張と不安で震える中、秋彦はきちんとした対応なんて、出来なかった。 
秋彦の父は、秋彦が小さいときに事故で亡くなった。
家族で水族館に行って、ペンギンの大きなぬいぐるみを買って貰ったのを秋彦は、ぼんやりと覚えている。自分の貯めていたお小遣いでお揃いで、小さなイルカのマスコットのキーホルダーも買った。もちろん祥介にあげるためだった。 

秋彦の母が集中治療室に入り、医者や看護師が肩を落として出てきたあと、咽びながら、 

『独りぼっちになっちゃった』

と泣く秋彦に温かい缶コーヒーを手渡して、隣でずっと背を撫でながら話を聞いたのも、秋彦が母を亡くした後、塞ぎこむ秋彦を見て『秋彦の傍にいてやりたい』と叔父を説得したのも祥介だった。

そして、今の生活が始まった。 秋彦は覚えている。祥介が自分が幼い頃から、つらいとき、悲しいとき、何度も祥介は秋彦の名前を呼び『大丈夫』と『俺がいるから』と言ってくれたことを。いつも頼りになって、一番の理解者であり、一番の友達だと思っていた。

だから、今日、余計につらくてたまらなかった。言うつもりのなかった意地の悪い気持ちや、疑念が溢れ出た。
秋彦は自分の中にこんな嫌な気持ちがあったなんて、知らなかった。 秋彦の意識が完全にフェードアウトする前に祥介は言っていた。ぐったりする秋彦を抱きしめて、肩を震わせながら、

『秋彦………ごめんな………許してくれ』

繰り返し、繰り返し。こんなに鮮明に祥介が泣くのを秋彦は初めて見た。顔をあげ、

『しょう、ちゃん………』

名前を呼んだ。祥介は顔をあげて、秋彦と視線を合わせた。初めて見る祥介の泣き顔は切なくて、秋彦の胸を痛ませた。
切れ長の二重の瞳。
さらさらの前髪が首にかかる感覚。
触れる涙の冷たい温度。

秋彦の母が集中治療室に入り、医者や看護師が肩を落として出てきたあと、咽びながら、 

『独りぼっちになっちゃった』

と泣く秋彦に温かい缶コーヒーを手渡して、隣でずっと背を撫でながら話を聞いたのも、秋彦が母を亡くした後、塞ぎこむ秋彦を見て『秋彦の傍にいてやりたい』と叔父を説得したのも祥介だった。

そして、今の生活が始まった。 秋彦は覚えている。祥介が自分が幼い頃から、つらいとき、悲しいとき、何度も祥介は秋彦の名前を呼び『大丈夫』と『俺がいるから』と言ってくれたことを。いつも頼りになって、一番の理解者であり、一番の友達だと思っていた。

だから、今日、余計につらくてたまらなかった。言うつもりのなかった意地の悪い気持ちや、疑念が溢れ出た。
秋彦は自分の中にこんな嫌な気持ちがあったなんて、知らなかった。 秋彦の意識が完全にフェードアウトする前に祥介は言っていた。ぐったりする秋彦を抱きしめて、肩を震わせながら、

『秋彦………ごめんな………許してくれ』

繰り返し、繰り返し。こんなに鮮明に祥介が泣くのを秋彦は初めて見た。顔をあげ、

『しょう、ちゃん………』

名前を呼んだ。祥介は顔をあげて、秋彦と視線を合わせた。初めて見る祥介の泣き顔は切なくて、秋彦の胸を痛ませた。
切れ長の二重の瞳。
さらさらの前髪が首にかかる感覚。
触れる涙の冷たい温度。


そのあと、ふわりとした感覚がして意識がぼんやり消えた。 祥介はそっと意識を失った秋彦を抱き上げ、自室のベッドに運び、横たえ、ブランケットをかけた。 
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