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第9章
ライオンとの小旅行②
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周りが急にざわめく。ちらりと視線だけ上げるときれいな金髪の男のひとが手を振った。
「先輩。目、こすらないで。赤くなりますよ」
秋彦からハンカチをするりと取り谷崎が優しく秋彦の涙を拭う。
秋彦が顔を上げると、周りはまたざわめく。
『可愛いくない?』
『やだー可愛い!外人さんははモデルかな?』
『今時のBLみたいな奴?絵になるー!』
周りのざわつきが恥ずかしい。
そんな、大層なものじゃないのに。
「た、谷崎くん?髪型変えたんだ。
前髪あると印象全然違うね。
外国の映画俳優さんみたい。
今日はコンタクトしてないの?」
照れ臭そうに谷崎は頭をかいた。
「念入りにトリートメントなんて、慣れないことしたらこんなことになって……。
あ、カラコン一応持っては来てます。
つけたほうがいいですか?」
「ううん。僕、谷崎くんの目、好き」
「あ、あと、遅れてスミマセン。まだ駅弁買う時間とかありますよね?」
「大丈夫」
秋彦は、はらこめしを。
谷崎は牛肉が上に乗ったお弁当と、イカの中にご飯が詰まったお弁当を買った。
電車での長旅。
ガタンゴトンと規則正しく揺れる電車の振動が心地よい。
駅弁を食べながら窓の外を見ると田んぼが見えた。谷崎もじっと見て目を細めていた。
金色が谷崎の髪と重なる。
「稲穂の金色が、谷崎くんの髪の色みたい。瞳は夏空」
秋彦が笑ってそう言うと、
「嬉しいです。本当に綺麗ですね。関東平野は広いですね。大将にもガキだった頃、同じこと言われました」
持ちよったお菓子を食べながら、お喋りを楽しむ。谷崎と話すと自然と秋彦の顔は緩む。
やはり灯火のようだ。
秋彦は谷崎を見つめる。
秋彦を明るい出口へ導く灯り。あたたかな。やさしい光だ。
一回乗り換えをしに、ひと気が無い駅に降り、古ぼけた階段を上り降りする。
ホームのむっとする暑さにあたったような谷崎に秋彦はシャーベット状に凍らせておいたペットボトルのスポーツ飲料をちょんっと首にくっつけた。
辺りは緑と田園。
あるのは蝉時雨。
ミンミンゼミが競うように鳴いていた。
「冷たっ!ビックリした!」
「蝉すごいでしょ。ミンミンゼミの声聴くと、体感温度上がるってホントかも」
秋彦には、ずっと笑顔が固かったように見えた谷崎がやっといつものように笑ったように見えた。
「飲んで。冷たいから、美味しいよ」
手渡されたペットボトルを谷崎は受け取り、喉をならす。
「冷えてる!美味しい。先輩も!」
交代で飲み、あっという間にペットボトルは空になる。
「あの、俺、手作りで作ったお茶…マイボトルなんすけど、良かったら」
自信なさげに差し出されたのは、
よく冷えたミントティー。
「すごく美味しい。僕ミントティー大好きなんだ。ありがとう」
はい、と秋彦は谷崎にボトルを手渡す。
谷崎も味わいながら飲む。
「冷えますね。口も身体も」
谷崎は左右を気にして誰もいないのを確認してから秋彦に口づけた。
「ミントの味します。あと先輩の味も」
「僕の味?」
「ええ。甘い焼き菓子みたいな。抱きしめたときと同じ匂い。甘くてあったかい味」
「谷崎くんの味はイメージだけどソーダみたい」
電車を待つ間、キスを繰り返す。
心地よく、溶けてしまいそうな谷崎のキス。
力が抜けて、谷崎に身体を支えるように抱きしめられながらも求めてしまう。
谷崎のキスは何も考えなくさせる。
ことあるごとにちらついた、別れを告げられたあのひとの影さえも。
今日ずっと、早く消さなくては。
そう思ってきた。
けれど、そう思えば思うほど最後の瞳を潤ませ振り返る姿が、脳裏をよぎった。
──────────続
「先輩。目、こすらないで。赤くなりますよ」
秋彦からハンカチをするりと取り谷崎が優しく秋彦の涙を拭う。
秋彦が顔を上げると、周りはまたざわめく。
『可愛いくない?』
『やだー可愛い!外人さんははモデルかな?』
『今時のBLみたいな奴?絵になるー!』
周りのざわつきが恥ずかしい。
そんな、大層なものじゃないのに。
「た、谷崎くん?髪型変えたんだ。
前髪あると印象全然違うね。
外国の映画俳優さんみたい。
今日はコンタクトしてないの?」
照れ臭そうに谷崎は頭をかいた。
「念入りにトリートメントなんて、慣れないことしたらこんなことになって……。
あ、カラコン一応持っては来てます。
つけたほうがいいですか?」
「ううん。僕、谷崎くんの目、好き」
「あ、あと、遅れてスミマセン。まだ駅弁買う時間とかありますよね?」
「大丈夫」
秋彦は、はらこめしを。
谷崎は牛肉が上に乗ったお弁当と、イカの中にご飯が詰まったお弁当を買った。
電車での長旅。
ガタンゴトンと規則正しく揺れる電車の振動が心地よい。
駅弁を食べながら窓の外を見ると田んぼが見えた。谷崎もじっと見て目を細めていた。
金色が谷崎の髪と重なる。
「稲穂の金色が、谷崎くんの髪の色みたい。瞳は夏空」
秋彦が笑ってそう言うと、
「嬉しいです。本当に綺麗ですね。関東平野は広いですね。大将にもガキだった頃、同じこと言われました」
持ちよったお菓子を食べながら、お喋りを楽しむ。谷崎と話すと自然と秋彦の顔は緩む。
やはり灯火のようだ。
秋彦は谷崎を見つめる。
秋彦を明るい出口へ導く灯り。あたたかな。やさしい光だ。
一回乗り換えをしに、ひと気が無い駅に降り、古ぼけた階段を上り降りする。
ホームのむっとする暑さにあたったような谷崎に秋彦はシャーベット状に凍らせておいたペットボトルのスポーツ飲料をちょんっと首にくっつけた。
辺りは緑と田園。
あるのは蝉時雨。
ミンミンゼミが競うように鳴いていた。
「冷たっ!ビックリした!」
「蝉すごいでしょ。ミンミンゼミの声聴くと、体感温度上がるってホントかも」
秋彦には、ずっと笑顔が固かったように見えた谷崎がやっといつものように笑ったように見えた。
「飲んで。冷たいから、美味しいよ」
手渡されたペットボトルを谷崎は受け取り、喉をならす。
「冷えてる!美味しい。先輩も!」
交代で飲み、あっという間にペットボトルは空になる。
「あの、俺、手作りで作ったお茶…マイボトルなんすけど、良かったら」
自信なさげに差し出されたのは、
よく冷えたミントティー。
「すごく美味しい。僕ミントティー大好きなんだ。ありがとう」
はい、と秋彦は谷崎にボトルを手渡す。
谷崎も味わいながら飲む。
「冷えますね。口も身体も」
谷崎は左右を気にして誰もいないのを確認してから秋彦に口づけた。
「ミントの味します。あと先輩の味も」
「僕の味?」
「ええ。甘い焼き菓子みたいな。抱きしめたときと同じ匂い。甘くてあったかい味」
「谷崎くんの味はイメージだけどソーダみたい」
電車を待つ間、キスを繰り返す。
心地よく、溶けてしまいそうな谷崎のキス。
力が抜けて、谷崎に身体を支えるように抱きしめられながらも求めてしまう。
谷崎のキスは何も考えなくさせる。
ことあるごとにちらついた、別れを告げられたあのひとの影さえも。
今日ずっと、早く消さなくては。
そう思ってきた。
けれど、そう思えば思うほど最後の瞳を潤ませ振り返る姿が、脳裏をよぎった。
──────────続
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