宵闇の山梔子(くちなし)

華周夏

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〖第4話〗

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 叔父さんの家は標高の高い山中で直射日光が強い、光溢れる綺麗な場所だ。風も空気も緑だ。日陰は、涼しい。僕は薄いパソコンや数3のテキスト、ノート、スマートフォンなど確認した。

「叔父さん、お久しぶりです。綺麗な場所ですね」

「夏はね。冬は厳しいよ。雪が降るからね。全て車があれば、の話だね。畑も楽しいよ。薬草園の植物で寒さに弱い子は温室にいるよ」

 温室って言っても私の手づくりだけどね。そう叔父さんは笑う。叔父さんも、前職は医者だった。

「私も惣介と同じ本家の出だったから。画家になるって言って、家を出たときは周りの風当たりが強かったなあ。でも、こんなだからね。皆に嫌われているな」

 と苦笑する。

「惣介は、本家の跡取りだから、周りの期待が大きいし、大変だろう。ゆっくりしていきなさい」

 叔父さんは飄々とした様子で続けた。

「まあ、どう言い繕っても、私は『約束は果たした』と、医師の国家試験を通って、資格を取ってから、此処に引っ込んだ。ズルをした。逃げたんだよ。嫌われて当然だよ。君のお父さんには迷惑をかけた。それと一つ。東屋には行かないで欲しい。約束できるね?」

 叔父さんの目が遊びではない真剣な表情に変わったように見えた。僕は頷いた。まるで叔父さんと、此処にこの夏置いてもらう為に、交わした契約のようだった。

 小高い丘にある東屋は、東屋というより、趣のある小さな家のような建物だ。敢えて無頓着な様子で僕は訊いた。

「何があるの?」

 そう僕が訊くと叔父さんは、

「何もないよ」

 と含み笑いをした。大人特有の嫌な笑い方だ。僕は変に余計な気をまわしすぎて、馬鹿みたいだと思った。
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