宵闇の山梔子(くちなし)〖完結〗

カシューナッツ

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〖第3話〗

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 不思議にチヨさんと話すと緊張が綻んで、暖かな気持ちになれる。

「そんな、立派だなんて外見だけです。お茶いただきます」

「いいんですよ。そんな気を遣わなくって。お茶、まだありますからね。福島は盆地で暑いけど、猪苗代まで行けば高原で涼しいから。お母さんから聴いてますよ。自分を律することが出きる聡い子だって。惣介ちゃん、頑張っているのね。でも、頑張り過ぎてない? 良介さんの所でゆっくり休んでいって。たまには、羽根を伸ばすのもいいわ」

 家にいればおよそ聞こえない言葉を、チヨさんはさらりと言った。周りは頑張れしか言わない。これ以上何を頑張ればいいのか。押し潰されそうな《長男》という圧力。

 『暑いでしょう』とチヨさんが差し出した軽く凍らせた跡が残る麦茶のペットボトル。細やかな気遣いをしてもらっている。美味しくて、身体に染みる。喉をならして一気に飲むと、まるでテレビのCMみたいな音が出た。

 叔父さんは、奥羽山脈の深い山の中に住んでいる。車は土湯峠に入って行き、螺旋を描くように標高が上がっていく。トンネルを抜ければ耳鳴りのように鼓膜が張りつめる。

 チヨさんはギアチェンジをして山道を上ったり降りたり。奥へ進めば五色沼がある、叔父さんの家の周りには誰もいない、

 きっと誰も来れないと感じさせる山の奥。イタチも、狸も、運が良ければカモシカにも会えるよ、と前に来た時、小学生の頃、聴いた。

 それくらい山深い場所に、まるで俗世を捨てたような叔父に合いたくなったのは、叔父に『自由』を感じたからだと思う。
 
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