宵闇の山梔子(くちなし)〖完結〗

カシューナッツ

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〖第6話〗

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 古い倉橋家の歴史で、何かの縁があってかは分からないが福島の山奥の、人里離れた所に、本家所有の薬草園がある。

 薬草園の世話をする代わりに叔父さんはそこに、お手伝いさんのチヨさんと住んでいる。叔父さんの職業は画家だ。

『倉橋良介』と言えば、著名な日本人の画家の五本の指に入る。叔父さんの絵はどちらかと言ったら海外の評価の方が高い。

 美味しい麦茶を飲みながら話した悩みを叔父さんは真剣に聴いてくれた。

「惣介の悩みは、私を見たら余計に強くなっただろうね。私の自由は身近なひとを傷つけて得た自由だよ。惣介の中にある思いは、全て、周りが決めた逆らえないものへの反発と未消化の、自分自身を持て余してしまうやるせなさだと思う。でも惣介には、本気であの家を捨てる覚悟はないね。惣介はまだ子供だ。本当にやりたいことが見つかったら協力するよ。まあ、ゆっくりしていくといい。それと、流れに私は逆らったが、流れのままも一興だ。哀しいがね」

 叔父さんはそう言い、麦茶を飲み干し、笑みを浮かべた。時間は誰にも平等な時間なはずなのに、僕には平等じゃない。

 高三の夏休み。最後の子供でいられる時間。医者一族の僕の家。スーツの代わりに白衣を着て、病院と言う満員電車の中に押し込められ、終着駅があの世なのは、僕が本家の長男に生まれた宿命だ。

 逃れられない。だから僕は、子供でいられる時間の幕引きにこの場所を選んだ。

 一族でも本家しか知らない、お伽噺のようなこの場所に逃げた。
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