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〖第9話〗
しおりを挟む裏道を抜けて山間に入る。空気も清々しい緑色ではないかと言うほど爽やかな湿度だ。
「いつもの寄り道?」
「良介さんは、多分まだ家の片づけ中ですし、少し足を延ばすだけでいい温泉があるんですよ。惣介ちゃんもきっと気に入るわ」
湯あたりをするからとチヨさんを除いて父と温泉に入りに行くことになった。車で足を伸ばし、飯坂町につく。
父は、
『熱いから惣介には無理じゃないか?』
と笑っていた鯖湖湯はかなり熱いと評判らしい。しかし、このお湯は熱いせいか頭がスッキリすると父が言う。
確かにかけ湯をして湯船に入った時の、ビリビリっとくるような熱さと弾けるように目が覚める感覚があって、お湯に浸かると目が覚める感じがした。
お湯から出て、車に戻った僕たち二人に、チヨさんは紙パックの冷たいイチゴ牛乳を手渡した。
叫ぶように、蝉が鳴いていた。叔父さんの家に着くと、父は僕を放ったらかしで叔父さんと話し込んでいた。
チヨさんは僕を気にかけ、
『もう少ししたら皆で冷たいゼリーを食べましょうね』
チヨさんは、庭の小さなベンチに座る僕を残して、勝手口から台所に入っていった。
夏の高原。皆賑やかなのに、此処だけ静かだ。此処でも誰もいない。幼い僕はいつも独りだった。
普段なら、絶対にしない駄々をこねてまでここに来たのに、いつもと同じだ。無駄に広い家。お洒落と言われる家。けれど家には音がない。
カードキーの家の中には僕以外、誰もいないのだ。
僕がするのは勉強。僕が周りから望まれていることは、ひたすら勉強をすること。これから偏差値と言うものを上げて、いい学校に入ること。それが僕のすること。
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