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〖第18話〗
しおりを挟む僕は初対面の人を挨拶も儘ならないのに、キスがしたいと口唇を目で追い回す変な男だ。
きっとこの少年は、僕に芽吹いた気持ちも抱いた欲も全て解っている気がした。
「お水、ありがと。ご馳走さま。最近晴れ続きだから、身体つらくて。惣介は、山梔子が好きなんだろ?俺、ずっと惣介が十八になる前に、此処に来るのを待ってたんだ。会えないかと思った。会える時間は限られているから。会いたくて、仕方なかった。いつも君は哀しいとき俺を呼ぶ。きっと無意識なんだろうけどね」
少年は嬉しそうに、けれど何処か寂しそうに笑っていた。
僕の目は、少年の細やかな表情を見ることはなく、僕の耳は、少年の想いの中の、切なさすら伴う感情を通り抜け、頭に入ることはなかった。
ただ、どうしようもない羞恥心に襲われた僕に出来たのは、
こんな綺麗な少年が僕に会いたかったなんて思うはずはない。
哀しいとき僕を呼ぶ?まず、この少年に会ったことすらないのに。
全部意地の悪い嘘だ。そう決めつけることだった。
僕は『握手』と微笑みとふわりと包まれた少年の白くて均整の取れた手を、力任せに振りほどいた。
「出ていけよ!出てけ!僕は君なんか好きじゃないよ!訳解んない事ばっかり言って!二度と顔見せるな!お前なんか嫌いだ!そもそも誰だお前。お前なんて知らないよ!」
僕は、少年を、精一杯強がって見据え、睨んだ。震える手は握って隠した。
「惣介……どうして?俺のこと………嫌いになっちゃったの?俺、待ってたのに。ずっと、惣介を、待ってたのに……」
瞳いっぱいに溢れそうなほど涙を貯めた少年は幻のようにふわりと跡形もなく消えてしまった。
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