宵闇の山梔子(くちなし)〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
18 / 31

〖第18話〗

しおりを挟む

 僕は初対面の人を挨拶も儘ならないのに、キスがしたいと口唇を目で追い回す変な男だ。

 きっとこの少年は、僕に芽吹いた気持ちも抱いた欲も全て解っている気がした。

「お水、ありがと。ご馳走さま。最近晴れ続きだから、身体つらくて。惣介は、山梔子が好きなんだろ?俺、ずっと惣介が十八になる前に、此処に来るのを待ってたんだ。会えないかと思った。会える時間は限られているから。会いたくて、仕方なかった。いつも君は哀しいとき俺を呼ぶ。きっと無意識なんだろうけどね」

 少年は嬉しそうに、けれど何処か寂しそうに笑っていた。

 僕の目は、少年の細やかな表情を見ることはなく、僕の耳は、少年の想いの中の、切なさすら伴う感情を通り抜け、頭に入ることはなかった。

 ただ、どうしようもない羞恥心に襲われた僕に出来たのは、

 こんな綺麗な少年が僕に会いたかったなんて思うはずはない。
 哀しいとき僕を呼ぶ?まず、この少年に会ったことすらないのに。

 全部意地の悪い嘘だ。そう決めつけることだった。

 僕は『握手』と微笑みとふわりと包まれた少年の白くて均整の取れた手を、力任せに振りほどいた。

「出ていけよ!出てけ!僕は君なんか好きじゃないよ!訳解んない事ばっかり言って!二度と顔見せるな!お前なんか嫌いだ!そもそも誰だお前。お前なんて知らないよ!」

 僕は、少年を、精一杯強がって見据え、睨んだ。震える手は握って隠した。

「惣介……どうして?俺のこと………嫌いになっちゃったの?俺、待ってたのに。ずっと、惣介を、待ってたのに……」

 瞳いっぱいに溢れそうなほど涙を貯めた少年は幻のようにふわりと跡形もなく消えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...