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〖第19話〗
しおりを挟むそれから宵闇と月に似合う甘い香りは、しなくなった。悲しい顔が蘇る。
透明な声も。あんなつらい顔を見たことがない。そして、そうさせたのは自分だという消せない事実が、最後に少年が溢した涙が、僕を罪悪感でがんじがらめにする。
僕はあの少年を、怒鳴った。意地悪く馬鹿にされたという歪んだ一方的な劣等感。
そして本当は、あの少年の素直な笑顔に言葉に、隠しておきたかった柔らかな初めて誰かに抱いた感情
─恋と呼ぶであろうもの─
を見抜かれただろう羞恥心を覚えたからだった。あの少年は、一方的になじった僕を咎めるような言い方はしなかった。
潤んだ碧色の瞳を記憶に残して消えてしまった。
「叔父さん…訊いて良い?」
「ああ」
叔父さんは籐椅子にかけ、本を読んでいた。
「好きの定義は?どういう感情を『好き』って言うの?」
「難しいね」
そう言い、叔父さんは眼鏡を外し、本を机に開いて置いた。叔父さんは笑わなかった。
「しかし、何でまた急に。誰か好きな人でも出来たのか?」
「夢だったのかなぁ。顔と声しか覚えてないんだ。でも思い出すんだよ。思い出すたびに悲しくて、涙が出るんだ。あの子、泣いてた。傷つけた。可哀相なことした。謝りたいんだ。でも、名前も解らないんだ」
僕は一連の出来事と僕が抱いた気持ちを叔父さんに、包み隠さず話した。
「恥ずべきことじゃない。そう言う感情を『好き』や『恋』という所にカテゴライズされると私は思うよ」
「叔父さん。僕、変なのかな。おかしいのかな。男の子に一目惚れなんて」
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