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君ハ龍ノ運命のヒト【第1章】

ミズチの湯浴み⑨

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ミズチのオニキスのような黒い艶のある瞳。吸い込まれるようだと思う。うっすら潤んだその瞳から、目を逸らすことが出来ない。私はクッと口唇を噛んでから、ミズチを睨むような視線と声音で言った。

「ミズチが私を『好きだ』っていうのは私があなたを助けてご馳走を作ってあげたからよ」

 ミズチは傷ついた顔をした。

「美雨は、美雨だから!このヒトだって思った!美雨は運命のヒト!オレには解る!」

 私はそれには答えず、
「プリンのマグカップ、食べ終わったなら水に浸しておいて」

と言い、ミズチから逃げた。暫くして、女衆が湯浴みの支度をしていると、ミズチの力が戻り、安定して人型を取れるようになった。そう、男衆から知らせがあった。

  ***

鬼多見の家の屋敷の風呂は広い。神様の多くは結構、この家のお風呂の水質が好きだ。ここの水は富士山の伏流水だからだと思う。

私は略式的な潔斎と、御祓をして婆様とミズチを洗う。格好は巫女装束だ。膝まで湯に浸かる。後ろ向きだから顔は解らないが、ミズチは人型になると百七十無い位。

今時では小柄な身長で、腰まである真っ直ぐな黒髪、均整のとれた俊敏そうな筋肉だった。白い肌襦袢姿のミズチは神様の気高さと美しさがあった。

婆様が私のアイコンタクトを汲んでくれ、ミズチの前側の脚を洗ってくれた。私は後側。腱の方。

脚も、背中も同じくらい真っ白な、きめ細い肌だった。私は今まで淡々と神様たちを洗ってきた。神様たちの湯あみに私情を持ち込んだことはない。

道に迷った布袋様や、雄々しい毘沙門天様。湯殿で満遍なく洗い、お湯をかける。淡々としたものだった。恥部も垣間見ることもある。猛々しい風神様などは『まあ、やはりご立派』とは思わなくもないが、やはり淡々と作業をするように、感情はなく仕事だと思い、冷めていた。

簡単に言えばこの鬼多見家の屋敷は神様の休憩所。簡単に言えば接待つきビジネスホテルでもある。満足して、早く天へ帰ってもらう。それが私達の仕事だ。

────────────《続》
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