氷雨と猫と君

華周夏

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〖第7話〗

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 私に夢中だったなら、よそ見なんてする暇はない。もしよそ見しても火遊びだ。

「好きだったのになあ。好き、だったんだけどなあ」

  *三*

 直樹との一番楽しかった思い出は、一緒に残業した、パソコンにデータを打ち込みながら、顔を見合わすのもまだ、照れ臭くて、お互いを意識し合うだけの付き合って3ヶ月ぐらいの間柄の頃。

 5年も付き合って、一番楽しかったのはつきあって3ヶ月なんて笑える。初々しい学生時代の延長線のような恋の始まりだった。勿論、身体の関係もあると、また別な楽しみがあるけれど。

 あの時の彼は、もう、若くはないのに、頬を染め、私に話しかけた。

「夕飯、俺の保存食、食べますか?広東麺なんです」

 直樹がデスクの一番下の大きな引き出しを開けると整然と並べられた大量のカップ麺。

「隠してあるの? すごい量!」

 笑いながら、そのとき初めて食べた広東麺のカップ麺が温かくて、美味しくて。

 あの給湯室のお湯で作ったカップの広東麺は、付き合ってから行った、私が彼の誕生日祝いにサプライズに企画した高級イタリアンより、

 三回目の一緒に過ごすクリスマスに、二人で奮発してデパートで買ったチーズより美味しかった。

 直樹は自分から家事をするタイプではなかったから、そう言えば、私は泊まりに行く度に家事をしていた。

 掃除して直樹が喜んでくれたから部屋を片付けた。

 料理もいつも私が作った。
 
 直樹が褒めてくれて、喜んでくれたから、彼が私を特別に必要としているような気がしたから作った。それで良かった。
 
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