氷雨と猫と君

華周夏

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〖第20話〗

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「真波ー!モデルの約束今日だよね。げーっ!また女連れこんでんの?私がいながら浮気するってなしでしょ。ありえなくない?うっわ年増じゃん。あ、お母さん?初めまして、私、佐藤恵理子って言いまーす」

 私と目があった瞬間、恵理子と言う女の子はニヤッと笑った。

 私は完全に『私は真波のお母さんの年齢の女』と言われたのだ。私は玄関に早足で歩き、プラダの靴を履く。

『ショボいババアがプラダ? イキッてんじゃねえよ。ババアは大人しくパートでもしてろっつーの』

 すれ違いざま耳元でそう言われ、動揺して靴を履くのに手間取った。恵理子は真波にじゃれつく猫のようにハグをしていた。

 彼女はしなやかな猫みたいだ。シャム猫みたいな、我儘が似合う可愛い子。そんなものよね。本命の彼女と、偶々拾った年増の女。

 何を期待しているんだろう。彼が私の名前を呼んで、あの女の子の腕を振りほどくこと?お伽噺だわ。

「真波くん。私、拾われて来た時コンビニの袋持ってなかった?」

「うん。お酒、入ってた」

「返して。飲みながら帰る」 

「昼だよ! やめなよ!」

「たまの休日をどう使おうか私の勝手。あなたには関係ない。雪見酒よ」
 
 半ば無理やり恵理子の腕を解き、真波は冷蔵庫から、コンビニエンスストアの袋を取り出し、私に躊躇いがちに渡した。

「ごめん、美雨さん。あいつ馬鹿だから、言っていいことと悪いことの区別がつかないんだ。それに、飲みながら帰るって。身体大丈夫なの?」

心配そうにする真波を、私は見つめて言った。何故だろう。切なくて、気分が悪い。

「あの子は故意に私を貶める言葉を選んで言ったわ。彼女の教育くらいしておきなさい。自分達の恋愛に関係ない年上の女までマウント取ろうとするなってね」
 
 真波を一瞥する。潤んだ声を背中で聴く。

「美雨さん!違うって。そんな、待ってよ!美雨さん!」
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