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第6巻 OLユリカの初出張★大阪男子と食いだおれっ♡
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快晴の青空に白いベイブリッジが美しい弧を描いている。
午前11時。佐伯は横浜にあるマリーナに車を停めた。
駐車場で待っていたダークスーツ姿の男が、佐伯の姿をみとめて駆け寄ってきた。
「佐伯龍二さんですか」
その男の案内で、停泊しているクルーザーに乗り込む。
「待ってたよ、龍二ぃ。元気そうじゃね―か」
船内に入ると、白いスーツに柄シャツ、派手なスカーフといういかにもなコーディネートの男が、サロンのソファーの中央にどっかりと座り、左右に二人ずつ女性をはべらせている。女は四人とも巻き髪にドレス姿で、ひと目で水商売関係とわかる。
「お久しぶりです、伊勢崎さん」
「何年ぶりだ?5年か?6年か?」
「……5年、ですかね」
伊勢崎はにたりと嗤う。
「もうそんなになるんだなァ――あいつが死んでから」
「……」
佐伯は笑えなかった。苦い思い出が蘇る。
(――マリエ……)
「いい女だったよなァ」
伊勢崎が立ち上がった。佐伯に顔を近付けて囁く。
「あん時お前らがおかしな真似しなけりゃ、あいつも死なずに済んだのになァー」
佐伯は答えない。
伊勢崎はデッキに上がる階段を顎で指した。
「――おい、外出ろ。いい風だぜ」
デッキに出ると、強い風に髪が乱される。
きらきらと輝く波を蹴立てて、クルーザーは疾走している。
「商売の話だ。お前に貸してた一億とあの女を交換させろ」
「……伊勢崎さんとこには、いい女の子たくさんいるじゃないですか。なにも弱小事務所のウチから引き抜かなくても」
「わかってねェなァ。俺はあの女が欲しいんだよ。最近ちょっと新しい商売始めたんだが、借金まみれの女はどうもね、良くないんだよ。弱みがあると諦めも早いし抵抗もしない。それじゃァ面白くないんだよねェー」
「聖けしかけたのも、伊勢崎さん、あんたですか」
「俺の悪い癖でさァー、欲しいと思ったら手に入れないと気がすまないんだよなァー」
「……何、させる気ですか」
「いやなに、ちょっとした会員制サービスだよ。VIP向けの。政治家とか、芸能人とか……彼女にも悪い話じゃないと思うけどねェー」
「そういや、あんた電話で、SMがどうとかって言ってましたよね」
「まァ、そういうのもあるかもな」
「彼女はそういうの、できないですよ」
「わかってねェなァ、龍二ぃ。ああいう女はな、やだやだって泣きながら悦んでんだよ。もっと虐めてくださいってな」
「……あいつは、そういうんじゃない」
「何言ってんだよ龍二。俺がなにも知らないで話してると思うか?」
伊勢崎は再び室内への階段を降りていった。佐伯も後に続く。
「あの女、だいぶ頭イカれてるぜ。お前、気付いてんだろ?ほんとは」
伊勢崎はテーブルの上に置いてあった一冊の雑誌を手に取ると、それで佐伯の胸をポンポンと叩いた。
「借金もなァんもないのに、誰にでも股開くような女はな。大抵イカれてんだよ。お前、あいつの過去とか聞いたか?」
「……いえ」
佐伯はちらりと雑誌に目を走らせた。それは古い週刊誌だった。
「だから甘えんだ、お前はよ」
ピ、と音がして、テレビのモニターがつく。
佐伯は思わず顔を背けた。
「例の隠し撮りだよ。みろよ、ほら、イヤだイヤだいいながら、よがりまくってんじゃねぇか。ハハッ」
電話越しに聞くより、遥かに生々しいユリカの喘ぎ声が、船内に響く。
「予定調和のヌルいAVなんかより、こっちの方がずっとそそるぜェ……そう思わねェか?え、龍二」
「……止めてください。一億は、俺が返しますから」
「だーかーらァー、もういらねーんだよ。てめーが払う一億よりこの女一匹の方が、断然面白いからなァー」
伊勢崎はぽちぽちとボリュームを上げた。
佐伯は伊勢崎に掴みかかった。しかしその拳が伊勢崎に当たる前に、佐伯は手下の男たちに押さえ込まれた。
*****
「ユリカさん、そろそろ着きますよ」
「んーっ……」
マネージャーの武藤さんに起こされて、あたしは伸びをした。
「間もなく新大阪です。JR線、地下鉄線はお乗り換えです……」
車内アナウンスが流れている。
朝6時発の新幹線で、あたしは大阪に来ていた。
前日、残業で終電近くまで会社にいたので、家では3時間くらいしか眠れていなかった。武藤さんが買っておいてくれたおにぎりに手もつけないまま、爆睡していた。
「わあ、もう着いたの!?富士山見損ねた……」
「そのイベントは一時間半くらい前に終わってます」
「まじかー……」
がっくり。
武藤さんは何事にもクールで、受け答えはいつも淡々としている。
「新大阪駅でこっちのスタッフと合流するはずなんですが……」
在来線への乗り換え改札の手前できょろきょろしていると、改札の向こうで手を振っている二人組が目に入った。
「ユリカさんですよね?俺、カメラマンの梅屋敷いいます!」
「僕、鮫洲です。よろしく~」
二人の屈託のない笑顔と、関西弁のふんわりしたイントネーションに、緊張が一気にほぐれた。
「マネージャーの武藤です。こちらがユリカさん」
「よろしくおねがいします」
あたしたちも挨拶する。
「うわ、めちゃくちゃかわええやん!ええなぁ鮫やん!」
「ほんまや、めちゃくちゃきれいやわ!」
いきなり二人がかりで絶賛された。
「えと、あの、その」
「梅やん押し過ぎや。ユリカさん困っとるわ」
「何言うてん。べっぴんさん褒めんのは礼儀やん。むしろ鮫やんが真顔で迫るから引いたんやわ。きんも!」
二人のトークが止まらない。しかも思い切り早口で喋りながら梅屋敷さんはもうカメラを構えている。
「あ、武藤さん、もう撮っちゃってええですか?出張で着いたところゆう設定で」
「結構ですよ。どうぞ」
さすが武藤さん。ぶれない。流されない。
「はい、じゃユリカさん、ちょっと撮りながら行きますね!自然な感じでキャリー引いて歩いてきてください」
あたしは梅屋敷さんの指示通りにする。
「はいカットー!ほいじゃ次は大阪城に移動しますー。今日のルートは、大阪城からのなんばからの新世界からのあべのハルカスでキスシーンですー」
「ってかめっちゃ観光コースやけど、何の出張なん?」
鮫洲くんは同い年くらいに見える。梅屋敷さんは……少し上かな?
「えーと、『ユリカ、出張先でナンパされて、そのままホテルへ』……って、仕事どうした!?ユリカ!」
あたしは新幹線で読みそこねた薄っぺらい台本を読んで、思わずツッコミを入れた。
「お、ユリカちゃん、いいツッコミやねー!大阪に染まってきたんちゃう?」
「あはは!って、さすがに染まるの早すぎるわ!」
「せや、そのノリや!完璧やで!」
なんだかもう、ほのぼのしすぎているんですが。こんなんでほんとにいいのかな?
大阪城に着くと、早速鮫洲くんがナンパしてきた。
「ねぇねぇ、今日お仕事?うわ、めっちゃかわいいなぁお姉さん。東京の人?あ、やっぱり?そうちゃうかなー思たんや。なんちゅうの?気品ゆうの?てか、なぁなぁ、もうたこ焼き食べた?お好み焼きは?まだ?だめやんか!しゃあないなー、もう、今から僕がおいしいとこ連れてくわ。どう?」
いきなり鮫洲くんがまくしたてる。その間あたしはというと、
「あ、え、あ、はい、え?ええ、いや……はい、あははー、ううん、うん、え?えええ??あ、はい」
相槌を打つのでせいいっぱい。はじめてのパターンだな、これ。
そんなわけで、あたしたちは大阪城をバックにソフトクリームをなめ、グリコの看板をバックにたこ焼きをほおばり、通天閣をバックに串カツを食べ、ビリケンさんの足の裏をナデナデして、お土産にキーホルダー買って、あべのハルカスまでたどり着いた。
鮫洲くんは面白くて、優しくて、なんだか本当に彼氏と観光デートしているみたいだ。梅屋敷さんも盛り上げ上手で、カメラを回していない時は始終鮫洲くんと掛け合い漫才みたいになっている。
あたしはずっと笑い通しだった。
「わーあ、すごい高ーい!」
展望台から眺める景色は、快晴だった。今日は全国的にいいお天気みたいだ。
「ここ、日本一やねんで~」
「いい景色……」
遥か遠くを、キラリと太陽を反射して飛行機が飛んでいる。
「あー、今日は楽しかったなぁ。ありがとう鮫洲く……」
「ほんま楽しいなぁ!あ、ねぇユリカちゃん、パインアメて知っとる?あの穴あいとるやつ。そいでな、ここな、パインアメソフトゆうてな」
またしても鮫洲くんは食い気味にまくしたて、カフェの方へ行こうとする。あたしは慌てて彼のサマーカーディガンの裾を引っ張った。
「ごめん鮫洲くん……あたし、もう食べられないよ……」
あたしは9割がた本音で言う。だいぶガチで食いだおれな半日だった。
「あ、ほんま?そら残念やわぁ~」
「ほんと、今日はありがとね!」
「何、もうおしまいなん?僕もっと一緒にいたいなぁー……」
そう言いながら、鮫洲くんはあたしの顔に手を触れた。
そのまま、大阪のパノラマをバックにキスをする。
「……な、もちょっと一緒にいよ?ええやろ?」
小声で言った鮫洲くんの声が、ソフトクリームより甘ったるくて。
「……うん」
ほんとに、普通にデートしてるみたい……。
「ユリカちゃん、かわいいなぁー……」
「やんっ……」
まだ明るいホテルの一室で、鮫洲くんはあたしを脱がせて躰中にキスをする。
「んっ、やん……」
ちゅ、ちゅ、ちゅっ、と、音を立てて。
「きれいやわー、ユリカちゃん……」
鮫洲くんの口唇が、あたしの肩や、おへそや、太腿の内側や、かかとをついばんでいく。
「あんっ……」
「ほんま、食べちゃいたい」
「……食べてるじゃない、今」
「うん。おいしい」
鮫洲くんはにっこりと笑う。
「……ね、鮫洲くん」
あたしは鮫洲くんの頬の輪郭を撫でながら言った。つるりとなだらかな頬。すうっと通った鼻筋。ふっくらした口唇。一重まぶたの大きな目。……きれいな顔だ。
「ん?」
「あたしも、鮫洲くん……食べていい?」
鮫洲くんは、きらきらした瞳でまっすぐにあたしを見つめた。
「ええよ」
あたしは鮫洲くんの服を脱がせて、ペニスの先に口づけた。
「んっ」
鮫洲くんのそこがピクッと跳ねる。あたしはそれを口に含んで、丁寧に舐め回した。
窓から差し込む陽光が、ベッドの上のあたしたちを白く発光させる。
「……ユリカちゃん、僕もうガマンできひんわ。いい?」
「……いいよ」
すると鮫洲くんは、あたしの躰をぎゅううっと抱きしめた。
「鮫洲……くん?」
「いや、なんか愛しくなってん」
それであたしはなんだかものすごく、幸せな気分になってしまった。
(愛しいなんて言われたこと、あたしの人生で一度でもあったかな……?)
梅屋敷さんが、静かにあたしたちを撮っている。でもそこには、エロいシーンを撮ってやろうっていうギラギラした視線は微塵もなくって、とても自然で、静かなまなざしだけがあった。
「いくよ……?」
鮫洲くんが優しく念押しして、あたしの脚の間にペニスをあてがった。そして、ゆっくりゆっくり、あたしの中に沈めていく。
「ん……っ」
あたしの内側が、鮫洲くんを包み込んでいくのを感じる。
むりやり突っ込まれるのでも、激しく掻き回されるのでもない。はじめての、不思議な感覚。
「あ……あ……ああんっ……」
――なにこれ。
幸福感が満ちていく。
「あ…………」
うっすらを眼を開くと、白い光の中に鮫洲くんがいた。きれいなカーブを描く頬に、産毛が輝いている。
「鮫洲……くん……」
名前を呼んだのと、鮫洲くんがあたしの奥に届いたのは、ほぼ同時だった。
「……はぁっ……」
鮫洲くんが色っぽい息を吐いて、ゆっくりと動く。
鮫洲くんのそれは、あたしの中をとても控えめに移動する。
しっかり勃起しているのに、違和感がない。それは鮫洲くんがあたしを傷つけないように細心の注意を払っているからだとわかる。あたしの肉のすき間を、あたしの形を変えないように動く。
「あ……ああ……あ……きもちいいよぉ……」
あたしの内側が、鮫洲くんを離したくなくて、ぎゅっと抱き締めるように脈打つ。
すると鮫洲くんのが、抱きしめられた嬉しさでふぅっとふくらむ。
そんなことを繰り返して、あたしと鮫洲くんは深く深く混ざっていった。
いつ、達したのかなんて、もうどうでも良かった。
胎内で抱き合って、肌で感じて、内側と外側の区別がつかなくなって。
そして全部が混ざりあう。白い光の中で。
*****
「お疲れさんでした!ユリカさんめっちゃ良かったよ!めっちゃいい画とれた!ほいじゃ、打ち上げ行こー!」
「え、これから?」
「だって二人、まだお好み焼き食べてへんやん」
あたしと武藤さんは顔を見合わせたが、梅屋敷さんと鮫洲くんがどうしてもというので、行くことにした。
なんばまで移動して、おすすめだというお好み焼き屋さんに入る。
「梅屋敷さんと鮫洲さんは、よく一緒にお仕事するんですか?すごく仲良いですよね」
「よく、てゆうか、俺らコンビやから」
「コンビ?」
「僕ら、孤児やねん」
鮫洲くんが言う。
「ほんで、一緒の施設おったんや」
と、梅屋敷さん。
「俺はカメラやりたくて、でも金がないから学校行けんくて、アシスタントで雇ってくれる師匠について、覚えたんや。んでこいつも役者になりたかってんけど、やっぱり学校も劇団も金かかるしで。気付いたら一緒にこの仕事しとったわ」
「すごい……」
あたしは素直に感動した。そんな話が本当にあるなんて。
「たくましいですね」
武藤さんも無表情のままそう言った。
「好きなことやから、全然大変なことあらへんねん。毎日楽しゅうて楽しゅうてしゃあないねん」
「だから僕ら、仕事で一緒になる女の子にも楽しくなってほしいんですわ。かわいい女の子にはニコニコしててほしいですやん?」
「うん。すごく楽しかったし、とっても気持ちよかった」
「それ、最っ高の褒め言葉っすわ!」
なんだか素敵だなぁ。こんなふうに仕事できたら、ほんとに楽しいだろうな。
武藤さんが腕時計を確認した。
「佐伯さん、遅いなぁ」
「え、佐伯さん来るの?」
あたしは思わず聞き返してしまった。佐伯が来るなんて聞いてない。
「ええ、なんか昼間は用事があって来られないけど、夜には来るかもって言ってたんです。そろそろ連絡あると思うんですけど」
「誰?」
梅屋敷さんが聞いてきた。
「うちの事務所の代表です」
武藤さんが答える。
「わざわざ?」
「東京から?」
「わーお、過保護!」
過保護、のところで梅屋敷さんと鮫洲くんの声が揃った。ほんとに漫才コンビみたいに息が合っている。
「ほんとは今朝も、ユリカさん一人で来てもらって僕は東京にいるはずだったんですよ。佐伯さんが着いてけって言うから来ましたけど」
「ええー!?そういうものなの?」
あたしはびっくりした。撮影の日は大抵武藤さんが着いてきてくれていたので、それが普通だと思ってた。
「そうですよ。梅屋敷さんに任せておけば問題ないですから。ユリカさん副業で顔バレNGだから普通なら予算つかないんです。でもユリカさん、時々撮影で気絶しちゃうじゃないですか。佐伯さん心配してんですよ」
「あー……ごめんなさい……」
「別にいいですけどね。それだけいい作品撮れてるんでしょうから。でも僕の宿泊費は出てないので、終電までに帰りますんで。ユリカさんはホテル取ってありますんで、どうぞゆっくりしていってください」
「うわあ、えらい率直なマネージャーさんやねぇ!」
「武藤くん、もう俺おごるから飲も!終電まで!」
大阪コンビはご機嫌で、全員分のビールのおかわりをオーダーした。
その時、武藤さんの携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
武藤さんは席を立って、電話に出ながら外に出ていった。
「ねぇねぇ、ユリカちゃんは彼氏とかおんの?」
「いないですよ。別れたその日にこの仕事始めたんで」
「おおー!激しい!」
「やるねぇー!」
「いやー、なんの弾みだったんですかねー。あはは」
あの当時は、こんなふうに笑い話にできる日が来るなんて思ってもいなかったな。
「じゃ、今は好きな男とかいてへんの?」
「うーん、好きとかじゃないんだけど、ちょっと気になってる人は……」
「おるんか!」
二人が身を乗り出す。ほんとこの二人、血が繋がってないのが不思議なくらい息ぴったり。
「いや、ほんと、気になってるってそういう意味じゃないから!ただちょっと、会うたびに色々言われてて」
あたしは言葉を選びながら、聖さんの話をした。
でもそれを聞いた二人は、複雑な顔をした。
「いやそれ……なんか嫌~な雰囲気やで」
梅屋敷さんが声を潜める。
「……やっぱそう思う?」
「男優がコナかけてくるのは、大抵はなぁ……」
「うん、下心や、それ」
鮫洲くんも同意した。
「下心?」
「そもそもな、男優は女優の子口説いたらあかんねんやんか。だって他の男とセックスすんのが仕事なんやで?そんな仕事、彼氏できたら嫌んなるに決まってるやん」
それは彼氏が男優じゃなくても変わらないんじゃないかと思ったけど、黙っていた。
「女の子が足洗って、借金とかあったら全部返して、結婚でもしようっていう覚悟があるなら別やけど」
あたしは考え込んだ。
「借金とかはないんだけど……」
聖さんのは、あたしと結婚したいとか、そういう感じではないとはうっすらわかる。
そこへ武藤さんが足早に戻ってくる。
「ちょっと、すみません。僕すぐ東京帰らないといけなくなったんで、ここのお代……」
「ええでええで、俺ら持つから!でもいきなりどないしたん?」
梅屋敷さんがすぐ立ち上がって、武藤さんの荷物をまとめるのを手伝う。
「すみません。あの、佐伯さんが……入院したって」
「……え?」
あたしは、楽しかった今日一日の熱がすぅっと冷めていくのを感じた。
「詳しいことはわからないんですが、今横浜の病院だそうで、僕ちょっと行きますね。ユリカさん、ホテルわかりますよね?一人でいけます?」
「――あたしも、帰る」
梅屋敷さんと鮫洲さんは新大阪駅まで送ってくれた。
「ユリカちゃん、縁があったらまた撮らしてや!エロじゃないのも撮れるから!鮫やんは不満やろけどな」
「ちょっと、何ゆうてんねん。僕かて役者なれたら見に来てほしいわ。お互いがんばろな、ユリカちゃん」
「うん、今日はありがとう!またいつか!」
新幹線のデッキで、武藤さんが予約していたホテルにキャンセルの電話をしてくれている。
どんなに気が急いても、新幹線に乗ってしまえばもうできることはない。あたしは窓の外の暗闇を見つめながら、もどかしい思いでいっぱいになっていた。
午前11時。佐伯は横浜にあるマリーナに車を停めた。
駐車場で待っていたダークスーツ姿の男が、佐伯の姿をみとめて駆け寄ってきた。
「佐伯龍二さんですか」
その男の案内で、停泊しているクルーザーに乗り込む。
「待ってたよ、龍二ぃ。元気そうじゃね―か」
船内に入ると、白いスーツに柄シャツ、派手なスカーフといういかにもなコーディネートの男が、サロンのソファーの中央にどっかりと座り、左右に二人ずつ女性をはべらせている。女は四人とも巻き髪にドレス姿で、ひと目で水商売関係とわかる。
「お久しぶりです、伊勢崎さん」
「何年ぶりだ?5年か?6年か?」
「……5年、ですかね」
伊勢崎はにたりと嗤う。
「もうそんなになるんだなァ――あいつが死んでから」
「……」
佐伯は笑えなかった。苦い思い出が蘇る。
(――マリエ……)
「いい女だったよなァ」
伊勢崎が立ち上がった。佐伯に顔を近付けて囁く。
「あん時お前らがおかしな真似しなけりゃ、あいつも死なずに済んだのになァー」
佐伯は答えない。
伊勢崎はデッキに上がる階段を顎で指した。
「――おい、外出ろ。いい風だぜ」
デッキに出ると、強い風に髪が乱される。
きらきらと輝く波を蹴立てて、クルーザーは疾走している。
「商売の話だ。お前に貸してた一億とあの女を交換させろ」
「……伊勢崎さんとこには、いい女の子たくさんいるじゃないですか。なにも弱小事務所のウチから引き抜かなくても」
「わかってねェなァ。俺はあの女が欲しいんだよ。最近ちょっと新しい商売始めたんだが、借金まみれの女はどうもね、良くないんだよ。弱みがあると諦めも早いし抵抗もしない。それじゃァ面白くないんだよねェー」
「聖けしかけたのも、伊勢崎さん、あんたですか」
「俺の悪い癖でさァー、欲しいと思ったら手に入れないと気がすまないんだよなァー」
「……何、させる気ですか」
「いやなに、ちょっとした会員制サービスだよ。VIP向けの。政治家とか、芸能人とか……彼女にも悪い話じゃないと思うけどねェー」
「そういや、あんた電話で、SMがどうとかって言ってましたよね」
「まァ、そういうのもあるかもな」
「彼女はそういうの、できないですよ」
「わかってねェなァ、龍二ぃ。ああいう女はな、やだやだって泣きながら悦んでんだよ。もっと虐めてくださいってな」
「……あいつは、そういうんじゃない」
「何言ってんだよ龍二。俺がなにも知らないで話してると思うか?」
伊勢崎は再び室内への階段を降りていった。佐伯も後に続く。
「あの女、だいぶ頭イカれてるぜ。お前、気付いてんだろ?ほんとは」
伊勢崎はテーブルの上に置いてあった一冊の雑誌を手に取ると、それで佐伯の胸をポンポンと叩いた。
「借金もなァんもないのに、誰にでも股開くような女はな。大抵イカれてんだよ。お前、あいつの過去とか聞いたか?」
「……いえ」
佐伯はちらりと雑誌に目を走らせた。それは古い週刊誌だった。
「だから甘えんだ、お前はよ」
ピ、と音がして、テレビのモニターがつく。
佐伯は思わず顔を背けた。
「例の隠し撮りだよ。みろよ、ほら、イヤだイヤだいいながら、よがりまくってんじゃねぇか。ハハッ」
電話越しに聞くより、遥かに生々しいユリカの喘ぎ声が、船内に響く。
「予定調和のヌルいAVなんかより、こっちの方がずっとそそるぜェ……そう思わねェか?え、龍二」
「……止めてください。一億は、俺が返しますから」
「だーかーらァー、もういらねーんだよ。てめーが払う一億よりこの女一匹の方が、断然面白いからなァー」
伊勢崎はぽちぽちとボリュームを上げた。
佐伯は伊勢崎に掴みかかった。しかしその拳が伊勢崎に当たる前に、佐伯は手下の男たちに押さえ込まれた。
*****
「ユリカさん、そろそろ着きますよ」
「んーっ……」
マネージャーの武藤さんに起こされて、あたしは伸びをした。
「間もなく新大阪です。JR線、地下鉄線はお乗り換えです……」
車内アナウンスが流れている。
朝6時発の新幹線で、あたしは大阪に来ていた。
前日、残業で終電近くまで会社にいたので、家では3時間くらいしか眠れていなかった。武藤さんが買っておいてくれたおにぎりに手もつけないまま、爆睡していた。
「わあ、もう着いたの!?富士山見損ねた……」
「そのイベントは一時間半くらい前に終わってます」
「まじかー……」
がっくり。
武藤さんは何事にもクールで、受け答えはいつも淡々としている。
「新大阪駅でこっちのスタッフと合流するはずなんですが……」
在来線への乗り換え改札の手前できょろきょろしていると、改札の向こうで手を振っている二人組が目に入った。
「ユリカさんですよね?俺、カメラマンの梅屋敷いいます!」
「僕、鮫洲です。よろしく~」
二人の屈託のない笑顔と、関西弁のふんわりしたイントネーションに、緊張が一気にほぐれた。
「マネージャーの武藤です。こちらがユリカさん」
「よろしくおねがいします」
あたしたちも挨拶する。
「うわ、めちゃくちゃかわええやん!ええなぁ鮫やん!」
「ほんまや、めちゃくちゃきれいやわ!」
いきなり二人がかりで絶賛された。
「えと、あの、その」
「梅やん押し過ぎや。ユリカさん困っとるわ」
「何言うてん。べっぴんさん褒めんのは礼儀やん。むしろ鮫やんが真顔で迫るから引いたんやわ。きんも!」
二人のトークが止まらない。しかも思い切り早口で喋りながら梅屋敷さんはもうカメラを構えている。
「あ、武藤さん、もう撮っちゃってええですか?出張で着いたところゆう設定で」
「結構ですよ。どうぞ」
さすが武藤さん。ぶれない。流されない。
「はい、じゃユリカさん、ちょっと撮りながら行きますね!自然な感じでキャリー引いて歩いてきてください」
あたしは梅屋敷さんの指示通りにする。
「はいカットー!ほいじゃ次は大阪城に移動しますー。今日のルートは、大阪城からのなんばからの新世界からのあべのハルカスでキスシーンですー」
「ってかめっちゃ観光コースやけど、何の出張なん?」
鮫洲くんは同い年くらいに見える。梅屋敷さんは……少し上かな?
「えーと、『ユリカ、出張先でナンパされて、そのままホテルへ』……って、仕事どうした!?ユリカ!」
あたしは新幹線で読みそこねた薄っぺらい台本を読んで、思わずツッコミを入れた。
「お、ユリカちゃん、いいツッコミやねー!大阪に染まってきたんちゃう?」
「あはは!って、さすがに染まるの早すぎるわ!」
「せや、そのノリや!完璧やで!」
なんだかもう、ほのぼのしすぎているんですが。こんなんでほんとにいいのかな?
大阪城に着くと、早速鮫洲くんがナンパしてきた。
「ねぇねぇ、今日お仕事?うわ、めっちゃかわいいなぁお姉さん。東京の人?あ、やっぱり?そうちゃうかなー思たんや。なんちゅうの?気品ゆうの?てか、なぁなぁ、もうたこ焼き食べた?お好み焼きは?まだ?だめやんか!しゃあないなー、もう、今から僕がおいしいとこ連れてくわ。どう?」
いきなり鮫洲くんがまくしたてる。その間あたしはというと、
「あ、え、あ、はい、え?ええ、いや……はい、あははー、ううん、うん、え?えええ??あ、はい」
相槌を打つのでせいいっぱい。はじめてのパターンだな、これ。
そんなわけで、あたしたちは大阪城をバックにソフトクリームをなめ、グリコの看板をバックにたこ焼きをほおばり、通天閣をバックに串カツを食べ、ビリケンさんの足の裏をナデナデして、お土産にキーホルダー買って、あべのハルカスまでたどり着いた。
鮫洲くんは面白くて、優しくて、なんだか本当に彼氏と観光デートしているみたいだ。梅屋敷さんも盛り上げ上手で、カメラを回していない時は始終鮫洲くんと掛け合い漫才みたいになっている。
あたしはずっと笑い通しだった。
「わーあ、すごい高ーい!」
展望台から眺める景色は、快晴だった。今日は全国的にいいお天気みたいだ。
「ここ、日本一やねんで~」
「いい景色……」
遥か遠くを、キラリと太陽を反射して飛行機が飛んでいる。
「あー、今日は楽しかったなぁ。ありがとう鮫洲く……」
「ほんま楽しいなぁ!あ、ねぇユリカちゃん、パインアメて知っとる?あの穴あいとるやつ。そいでな、ここな、パインアメソフトゆうてな」
またしても鮫洲くんは食い気味にまくしたて、カフェの方へ行こうとする。あたしは慌てて彼のサマーカーディガンの裾を引っ張った。
「ごめん鮫洲くん……あたし、もう食べられないよ……」
あたしは9割がた本音で言う。だいぶガチで食いだおれな半日だった。
「あ、ほんま?そら残念やわぁ~」
「ほんと、今日はありがとね!」
「何、もうおしまいなん?僕もっと一緒にいたいなぁー……」
そう言いながら、鮫洲くんはあたしの顔に手を触れた。
そのまま、大阪のパノラマをバックにキスをする。
「……な、もちょっと一緒にいよ?ええやろ?」
小声で言った鮫洲くんの声が、ソフトクリームより甘ったるくて。
「……うん」
ほんとに、普通にデートしてるみたい……。
「ユリカちゃん、かわいいなぁー……」
「やんっ……」
まだ明るいホテルの一室で、鮫洲くんはあたしを脱がせて躰中にキスをする。
「んっ、やん……」
ちゅ、ちゅ、ちゅっ、と、音を立てて。
「きれいやわー、ユリカちゃん……」
鮫洲くんの口唇が、あたしの肩や、おへそや、太腿の内側や、かかとをついばんでいく。
「あんっ……」
「ほんま、食べちゃいたい」
「……食べてるじゃない、今」
「うん。おいしい」
鮫洲くんはにっこりと笑う。
「……ね、鮫洲くん」
あたしは鮫洲くんの頬の輪郭を撫でながら言った。つるりとなだらかな頬。すうっと通った鼻筋。ふっくらした口唇。一重まぶたの大きな目。……きれいな顔だ。
「ん?」
「あたしも、鮫洲くん……食べていい?」
鮫洲くんは、きらきらした瞳でまっすぐにあたしを見つめた。
「ええよ」
あたしは鮫洲くんの服を脱がせて、ペニスの先に口づけた。
「んっ」
鮫洲くんのそこがピクッと跳ねる。あたしはそれを口に含んで、丁寧に舐め回した。
窓から差し込む陽光が、ベッドの上のあたしたちを白く発光させる。
「……ユリカちゃん、僕もうガマンできひんわ。いい?」
「……いいよ」
すると鮫洲くんは、あたしの躰をぎゅううっと抱きしめた。
「鮫洲……くん?」
「いや、なんか愛しくなってん」
それであたしはなんだかものすごく、幸せな気分になってしまった。
(愛しいなんて言われたこと、あたしの人生で一度でもあったかな……?)
梅屋敷さんが、静かにあたしたちを撮っている。でもそこには、エロいシーンを撮ってやろうっていうギラギラした視線は微塵もなくって、とても自然で、静かなまなざしだけがあった。
「いくよ……?」
鮫洲くんが優しく念押しして、あたしの脚の間にペニスをあてがった。そして、ゆっくりゆっくり、あたしの中に沈めていく。
「ん……っ」
あたしの内側が、鮫洲くんを包み込んでいくのを感じる。
むりやり突っ込まれるのでも、激しく掻き回されるのでもない。はじめての、不思議な感覚。
「あ……あ……ああんっ……」
――なにこれ。
幸福感が満ちていく。
「あ…………」
うっすらを眼を開くと、白い光の中に鮫洲くんがいた。きれいなカーブを描く頬に、産毛が輝いている。
「鮫洲……くん……」
名前を呼んだのと、鮫洲くんがあたしの奥に届いたのは、ほぼ同時だった。
「……はぁっ……」
鮫洲くんが色っぽい息を吐いて、ゆっくりと動く。
鮫洲くんのそれは、あたしの中をとても控えめに移動する。
しっかり勃起しているのに、違和感がない。それは鮫洲くんがあたしを傷つけないように細心の注意を払っているからだとわかる。あたしの肉のすき間を、あたしの形を変えないように動く。
「あ……ああ……あ……きもちいいよぉ……」
あたしの内側が、鮫洲くんを離したくなくて、ぎゅっと抱き締めるように脈打つ。
すると鮫洲くんのが、抱きしめられた嬉しさでふぅっとふくらむ。
そんなことを繰り返して、あたしと鮫洲くんは深く深く混ざっていった。
いつ、達したのかなんて、もうどうでも良かった。
胎内で抱き合って、肌で感じて、内側と外側の区別がつかなくなって。
そして全部が混ざりあう。白い光の中で。
*****
「お疲れさんでした!ユリカさんめっちゃ良かったよ!めっちゃいい画とれた!ほいじゃ、打ち上げ行こー!」
「え、これから?」
「だって二人、まだお好み焼き食べてへんやん」
あたしと武藤さんは顔を見合わせたが、梅屋敷さんと鮫洲くんがどうしてもというので、行くことにした。
なんばまで移動して、おすすめだというお好み焼き屋さんに入る。
「梅屋敷さんと鮫洲さんは、よく一緒にお仕事するんですか?すごく仲良いですよね」
「よく、てゆうか、俺らコンビやから」
「コンビ?」
「僕ら、孤児やねん」
鮫洲くんが言う。
「ほんで、一緒の施設おったんや」
と、梅屋敷さん。
「俺はカメラやりたくて、でも金がないから学校行けんくて、アシスタントで雇ってくれる師匠について、覚えたんや。んでこいつも役者になりたかってんけど、やっぱり学校も劇団も金かかるしで。気付いたら一緒にこの仕事しとったわ」
「すごい……」
あたしは素直に感動した。そんな話が本当にあるなんて。
「たくましいですね」
武藤さんも無表情のままそう言った。
「好きなことやから、全然大変なことあらへんねん。毎日楽しゅうて楽しゅうてしゃあないねん」
「だから僕ら、仕事で一緒になる女の子にも楽しくなってほしいんですわ。かわいい女の子にはニコニコしててほしいですやん?」
「うん。すごく楽しかったし、とっても気持ちよかった」
「それ、最っ高の褒め言葉っすわ!」
なんだか素敵だなぁ。こんなふうに仕事できたら、ほんとに楽しいだろうな。
武藤さんが腕時計を確認した。
「佐伯さん、遅いなぁ」
「え、佐伯さん来るの?」
あたしは思わず聞き返してしまった。佐伯が来るなんて聞いてない。
「ええ、なんか昼間は用事があって来られないけど、夜には来るかもって言ってたんです。そろそろ連絡あると思うんですけど」
「誰?」
梅屋敷さんが聞いてきた。
「うちの事務所の代表です」
武藤さんが答える。
「わざわざ?」
「東京から?」
「わーお、過保護!」
過保護、のところで梅屋敷さんと鮫洲くんの声が揃った。ほんとに漫才コンビみたいに息が合っている。
「ほんとは今朝も、ユリカさん一人で来てもらって僕は東京にいるはずだったんですよ。佐伯さんが着いてけって言うから来ましたけど」
「ええー!?そういうものなの?」
あたしはびっくりした。撮影の日は大抵武藤さんが着いてきてくれていたので、それが普通だと思ってた。
「そうですよ。梅屋敷さんに任せておけば問題ないですから。ユリカさん副業で顔バレNGだから普通なら予算つかないんです。でもユリカさん、時々撮影で気絶しちゃうじゃないですか。佐伯さん心配してんですよ」
「あー……ごめんなさい……」
「別にいいですけどね。それだけいい作品撮れてるんでしょうから。でも僕の宿泊費は出てないので、終電までに帰りますんで。ユリカさんはホテル取ってありますんで、どうぞゆっくりしていってください」
「うわあ、えらい率直なマネージャーさんやねぇ!」
「武藤くん、もう俺おごるから飲も!終電まで!」
大阪コンビはご機嫌で、全員分のビールのおかわりをオーダーした。
その時、武藤さんの携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
武藤さんは席を立って、電話に出ながら外に出ていった。
「ねぇねぇ、ユリカちゃんは彼氏とかおんの?」
「いないですよ。別れたその日にこの仕事始めたんで」
「おおー!激しい!」
「やるねぇー!」
「いやー、なんの弾みだったんですかねー。あはは」
あの当時は、こんなふうに笑い話にできる日が来るなんて思ってもいなかったな。
「じゃ、今は好きな男とかいてへんの?」
「うーん、好きとかじゃないんだけど、ちょっと気になってる人は……」
「おるんか!」
二人が身を乗り出す。ほんとこの二人、血が繋がってないのが不思議なくらい息ぴったり。
「いや、ほんと、気になってるってそういう意味じゃないから!ただちょっと、会うたびに色々言われてて」
あたしは言葉を選びながら、聖さんの話をした。
でもそれを聞いた二人は、複雑な顔をした。
「いやそれ……なんか嫌~な雰囲気やで」
梅屋敷さんが声を潜める。
「……やっぱそう思う?」
「男優がコナかけてくるのは、大抵はなぁ……」
「うん、下心や、それ」
鮫洲くんも同意した。
「下心?」
「そもそもな、男優は女優の子口説いたらあかんねんやんか。だって他の男とセックスすんのが仕事なんやで?そんな仕事、彼氏できたら嫌んなるに決まってるやん」
それは彼氏が男優じゃなくても変わらないんじゃないかと思ったけど、黙っていた。
「女の子が足洗って、借金とかあったら全部返して、結婚でもしようっていう覚悟があるなら別やけど」
あたしは考え込んだ。
「借金とかはないんだけど……」
聖さんのは、あたしと結婚したいとか、そういう感じではないとはうっすらわかる。
そこへ武藤さんが足早に戻ってくる。
「ちょっと、すみません。僕すぐ東京帰らないといけなくなったんで、ここのお代……」
「ええでええで、俺ら持つから!でもいきなりどないしたん?」
梅屋敷さんがすぐ立ち上がって、武藤さんの荷物をまとめるのを手伝う。
「すみません。あの、佐伯さんが……入院したって」
「……え?」
あたしは、楽しかった今日一日の熱がすぅっと冷めていくのを感じた。
「詳しいことはわからないんですが、今横浜の病院だそうで、僕ちょっと行きますね。ユリカさん、ホテルわかりますよね?一人でいけます?」
「――あたしも、帰る」
梅屋敷さんと鮫洲さんは新大阪駅まで送ってくれた。
「ユリカちゃん、縁があったらまた撮らしてや!エロじゃないのも撮れるから!鮫やんは不満やろけどな」
「ちょっと、何ゆうてんねん。僕かて役者なれたら見に来てほしいわ。お互いがんばろな、ユリカちゃん」
「うん、今日はありがとう!またいつか!」
新幹線のデッキで、武藤さんが予約していたホテルにキャンセルの電話をしてくれている。
どんなに気が急いても、新幹線に乗ってしまえばもうできることはない。あたしは窓の外の暗闇を見つめながら、もどかしい思いでいっぱいになっていた。
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