AV嬢★OLユリカシリーズ

道化の桃

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OFF 〜consciencestricken

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 昔の夢を見た。


 大学時代に同じ映研にいた平沼が十年ぶりに連絡してきたのは、佐伯がAV業界にいるとどこかで噂を聞いてきたためらしい。
 高円寺のガード下の小汚い居酒屋で再会した平沼は、懐かしさと共にどことなくちぐはぐな印象を佐伯に与えた。
「元気だったか?確か証券会社だったよな。外資だっけ?」
 ビールと串焼きで乾杯して、近況を尋ねる。
「ああ、あそこは辞めたんだよ。今はベンチャーにいる。大手と違って無駄がないし、儲かればそれだけ実入りもいいからな」
「へえ……すごいな」
 佐伯はつとめて笑顔で言った。平沼に限ったことではないが、うっかり自分の境遇と比べてしまうとため息しか出ない。有名大学だっただけあって、友人は皆いい会社でそれなりの立場にいた。
「佐伯はどうなの?なんか会社やってるって聞いたけど」
 どこから聞いたんだそんな話、と佐伯は心の中で呟きながら、苦々しくビールを流し込む。新卒で入った番組制作会社が倒産してから、大学の友人たちとはほとんど連絡を絶っていたというのに。
「いやー、そんないいもんじゃないよ。前の会社がつぶれた後に、つなぎのつもりでバイトしてた会社の社長が脳出血で倒れて、成り行きで引き継いじまって……おかげで毎月火の車だよ」
「しかし、もったいないよな。俺らの代では唯一マスコミに入ったのに」
「倒産しちまったらどうしようもないよな。まぁ、時代ってやつ?真面目なドキュメンタリーなんてもう流行らないってことだろうな」
 佐伯は自嘲気味に笑い、タバコに火をつけた。
 3杯目のビールを飲んでいる時、平沼が身を乗り出して来た。どうやら本題はここかららしい。
「あのさ……折り入って頼みがあるんだ。今のお前の会社って、あれだろ?いわゆる……」
「アダルトビデオの事務所だよ」
 今更気取っても仕方がない。佐伯は率直に言った。
「そ、それって、たとえば女優さんとかも、いたりするわけ?」
「まあ、いるっちゃいるよ。なんで?愛人紹介とかなら断るぜ」
 半分冗談で佐伯は言ったが、平沼の話はもっと深刻だった。
「いや、実は俺の知り合いの子を、雇ってほしいんだよ」
「……え?」
 平沼は、一枚のディスクをテーブルに置いた。ラベルにはなにも書かれていない。
 その中に映っていたのが、マリエだった。

 平沼とは改札で別れを告げた。
「佐伯は?」
「事務所が中野だから、歩いて帰るわ」
「そうか。じゃあな!」
 ホームへの階段を上りかけて、平沼は思い出したように振り向いた。
「あ、そうだ、奥さん元気?学生結婚したマドンナ!」
「マドンナって……お前、表現が古いんだよ。とっくに離婚したよ!」
 大声で何てことを言わせるんだ。
「そうか。――それは――った」
『……もなく~1番線に~各駅停車~高尾行きが……』
 平沼の声が駅のアナウンスにかき消される。
「なんだって!?」
 佐伯は大声で聞き返したが、平沼は手を振ってホームへと消えていった。

 後日、平沼の紹介で面接に来たマリエは、なるほどいい女だった。
 だがひとつ、問題があった。
 マリエは今いるプロダクションに借金があるという。佐伯はすぐに平沼に電話した。
「そんなもん肩代わりできねぇぞ、うちは」
「大丈夫、それは俺が払うから」
 雑居ビルの非常階段で、声を潜めて話す。
「じゃあお前がそのプロダクションに直接払ってやりゃいい話だろ?」
「とにかく非道い会社なんだよ。エ、SMとか、し、縛ったり、叩いたりとか、やめてくれって言っても、監禁して、毎日続けたりするんだ。渡したDVD、観たか?なあ、あんなとこにいたらマリエが死んじまうよ。だから、一日も早く助け出したいんだ。頼むよ」
 まったくしょうのない話である。
 後から考えたら、この時突っぱねておけばよかったのだ。十年の日陰暮らしの末に声を掛けてくれた懐かしい友人に、ついほだされたと言ってしまえばそれまでだが、とにかく佐伯は断りきれずに平沼の要望を聞き入れてしまった。

 マリエのプロダクションと交渉して、移籍の契約が済み、平沼からの入金を待っていた時だった。
 佐伯の事務所に警察が来た。
 ちょうどビデオの編集で三日間事務所に泊まって作業していた時で、ニュースを見ていなかった。
「平沼利正さんのご遺体から、あなた名義の借用書の写しが出てまいりまして」
 平沼はマリエを道連れに、自殺したのだ。二人は稚内わっかないまで逃げていた。
 一億は平沼が会社から横領したもので、それがばれての逃避行の末の心中だった。
 少し考えたら分かるはずだった。証券ベンチャーがどれだけ儲かるのか、平沼がAV業界に疎いのと同じくらい、佐伯には分からない世界だった。高円寺で平沼と再開した時の違和感。高価な海外ブランドのスーツを着ているのに、襟の折返しは日焼けで色褪せ、どことなくくたびれた雰囲気が漂っていた。ズボンのプレスは崩れ、若い頃流行した細身のシルエットは今の平沼の体型に合っていず、シャツに糊も効いていない。ブランド物の財布は領収書で膨らみきり、胸のボールペンは何の変哲もない事務用のものだった。
 平沼は一億なんて金は持っていなかったのだ。
「なんでだ、平沼……。死なせないために、逃がしたんじゃなかったのかよ?」
 だがもう答えるものはいない。
 佐伯は警察に、一億の借金の経緯と、借金のことで平沼を脅迫していなかったか、会社から横領していたことを知らなかったか(つまり佐伯が指示して横領させてはいなかったか)、かなり細かく事情聴取を受けた。ぐったりして警察署を出たところで、伊勢崎の車が待っていた。
「災難でしたねェー、佐伯さん――」
 そいつは平沼に渡されたマリエのDVDに写っていた男だった。
「いい女だったでしょォー?マリエは」
 タバコの煙を佐伯に吹き付けながら、伊勢崎はにたにたとわらった。
「ま、あんたの立場に同情はしますがね。一億と利子についてはきっちり支払ってもらいますよ」
 マリエは移籍したあとで死んだので、結局、佐伯は伊勢崎への借金を飲まざるを得なかった。社長はまだ存命だったし、社員もいた。佐伯の不手際でつぶすわけにはいかなかった。
 だが、毎月売上の中から借金を返済しながら、佐伯は思う。
(死なれるくらいなら、一億なんて払ってやっても良かった)
 数少ない友人も、綺麗な女も死んで、結局借金だけが残った。

 平沼のあの時の言葉が蘇る。高円寺の駅で、佐伯が離婚したよと言った時。
 そうか。それは良かった。と。そう言ったのだ、あいつは。

   *****

「……おい武藤、なんでこいつまでいるんだ?」
 眠りから覚めた佐伯は、あたしの顔を見て開口一番そう言った。
 新横浜で新幹線を降りて、病院に着いたのは23時近かった。
 佐伯の顔を見たとたんに緊張の糸が切れて、涙が出てきた。だいたい今日は朝から忙しすぎた。
「しかもなんで泣いてんだよこいつは」
「知りませんよ。佐伯さんの顔が怖かったんじゃないですか」
 武藤さんがしれっと答える。確かに、佐伯の顔は痣と包帯に覆われて、見ているだけで痛々しい。
「大げさなんだよ。転んだはずみでグラスが割れて、ちょっと切れただけだ」
「明日には退院できるそうですね。必要なのは着替えだけですか?」
「ああ、事務所にあるやつ、適当に頼む」
「……なんで着てた服がびしょ濡れなんですか」
 ベッドの脚元に置いてあるポリ袋を見て、武藤さんが言った。ポリ袋には佐伯のスーツが入っている。
「……汚れたから、洗ったんじゃねぇか?」
「水で?」
「……」
「にしては、磯臭いですけどね」
「……」
「誰とめたんですか」
「うるせえな。海に落ちたんだよ」
「横浜まで泳ぎに来たんですか?」
「……」
「バカですか?」
「うるせえな。酔ってたんだよ」
「海に落ちたことじゃなく、すぐバレる嘘つくことにバカですかって言ったんです」
「口の減らねぇ野郎だな」
「おかげさまで」
「だいたいおま……おい、大丈夫か?」
 あたしの異常に先に気づいたのは佐伯だった。
「ひくっ……」
「おい、ユリカ!?」
 息が詰まる。
「はぁっ……はぁっ……ハッ、ハッ、……」
 呼吸がどんどん速くなる。酸素が入ってこない。苦しい。
 海で溺れるイメージが、霞んだ視界にオーバーラップする。息ができない。
「息、吐け、ユリカ!」
「ユリカさん、ゆっくりでいいんで、息、吐いてみてください」
 あたしはそのままベッドに突っ伏した。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハーッ、ハーッ……」
「吐いてー、吐いてー、吸ってー、吐いてー……」
 武藤さんが背中をさすりながら、ゆっくりと話しかけてくる。
 背中をさすってもらっているうちに、だんだん息ができるようになってきた。
「ナースコール鳴らすか?」
 佐伯が聞く。あたしは首を振った。
「だいじょうぶ……です」
「どうしたんだよ、いきなり」
「疲れたんじゃないですか?早朝移動でしたし」
 武藤さんが言った。
「ごめんなさ……もう、平気です」
「よく起きるんですか?」
「……たまに。あの、海とか血とか、苦手で」
 武藤さんと佐伯が顔を見合わせた。

「まあ、大事なくてよかったです。じゃ、終電あるんで僕帰りますね。明日着替え持って迎えに来ます」
「あー、待って武藤。明日さ、電車で来て」
「なんでですか」
「すぐそこのマリーナに俺の車が」
「……佐伯さん、酔って海に落ちたんでしたっけ?」
「あー……」
 武藤さんは呆れたように溜め息をついた。
「……キーください。明日、車拾ってから来ますから」
「すまん……」
「ユリカさんは、家どこでしたっけ?僕川崎なんでまだ電車ありますけど」
「……幡ヶ谷」
 武藤さんがすぐに調べてくれる。
「終電、終わってますねぇ……過呼吸のこともあるし、今晩はここに泊まらせてもらえばいいんじゃないですか?」
「ちょっと待て。俺を寝かせない気か」
「じゃあたし、待合にいます」
「バカ。余計心配だろうが」
「じゃ、僕はこれで」
 武藤さんはドアを開けて帰ろうとする。
「おい武藤!見捨てる気か?こいつどーすんだよ!?」
「どっちも大人なんだから勝手にどうにかしてください。それとも僕んちにユリカさん連れ帰って泊めればいいですか?健康な男子の僕とひと晩過ごすより、ケガして動けない佐伯さんのほうが彼女も安心かと思いますけど。ちなみにここから都心までタクシー使ったら、大阪で浮かせた宿泊費の3倍はかかりますよ」
「~~~~~~~っ、帰りやがれっ!」
「お大事にー」

 病室には、あたしと佐伯さんが取り残された。看護師さんに頼んで、簡易ベッドを入れてもらう。
「……どうだった?大阪」
 聞かれてあたしは、大阪での撮影を思い出した。なんだかもう何日も前のことのようだ。
「すっごく楽しかったー!」
 一瞬、ここが病院だとか佐伯がケガしていることだとかを忘れて、あたしは言った。
「梅鮫コンビ、いいだろ」
「うん!すっごく」
 あたしは鮫洲くんのふわふわしたセックスを思い出した。
「あ……っ」
「ん?」
「……なんでもないです……」
 あたしは恥ずかしくて下を向いた。思い出したら、あたしの内側がピクンと反応してしまったからだ。
 佐伯はそれ以上聞かずに、黙ってあたしの頭を撫でた。あたしはますます赤面する。
 佐伯は鮫洲くんがああいうセックスするってわかってて、あたしを大阪に行かせたのかな。
「……なぁ、聞いていいか?」
 佐伯が、言いにくそうに切り出した。
「なんですか?」
「……やっぱいいや」
「え……?」
「なんでもねぇよ。さっさと寝ろ」
 佐伯が明かりを消したので、あたしも簡易ベッドに潜り込んだ。

   *****

 薄暗い部屋に、そこだけスポットライトが当たっている。
 ハーフのように色素の薄いマリエが、産婦人科で使う内診台に荒縄で縛り付けられている。そこに、ハンディドリルの先に巨大な張型のついたドリルバイブが、激しく暴れながら近付いていく。
「いや……あ……あ……」
 恐怖で目を見開いたマリエの局部に、ドリルバイブが押し当てられる。
「……っ」
 明らかに大きすぎるバイブが、ぶるぶると震えながら少しずつ少しずつ、マリエの中に入っていく。
「あっ……はぁっ……はぁっ……」
 マリエは声も出せずにそれを受け入れる。バイブの動きに合わせて、マリエの躰も小刻みに揺れた。
「あああああっ、ああああああああっ、あああああああ」
 ぶるぶると内側から震わせられて、マリエは叫んだ。
「あああ、ああああ、ああああ、……」
 それは何分間にも渡って続いた。マリエはその間ずっと震えていた。まるで壊れたおもちゃのように、ぶるぶる震え続ける。この女はもう死んでいて、バイブを抜いたら動かなくなるんじゃないかな、とさえ思う。
 マリエの声がだんだん弱くなった頃、ようやくバイブが抜かれた。もう何度も絶頂していたらしく、膣からは透明な液体が溢れてくる。マリエはぐったりとして、やっぱり本当に死んだんじゃないかと思えてくる。
 だが、すぐにまたバイブがマリエに近付いていき、紅く腫れた陰部に再び押し付けられる。するとまたマリエは叫びだすのだ。ぶるぶると震えながら。陰毛は綺麗に剃られ、白い肌の中でそこだけ紅く染まった膣が、グロテスクな生き物のようなそれを、為すすべもなくずぶずぶと飲み込んでいく。
 巨大バイブに揺さぶられるマリエの乳首に、別の器具が押し当てられる。小ぶりなそれは、やはりぶるぶると震えている。
「あああああ、あああああーっ!あああああーっ!あああああーっ!」
 マリエの声がひときわ大きくなる。見開いた両眼からだらだらと涙が流れ、口からも泡立った唾液が零れている。
 それは三十分以上繰り返された。
 そして唐突にシーンが変わる。
 今度は、鉄格子の檻の中に、両脚を大きく広げた状態で宙吊りに縛り上げられたマリエがいる。口にはボールギャグがはめられ、目隠しをされている。
 先程のドリルバイブが、今度は肛門に押し当てられる。
「うううーーっ、ううーーっ!」
 危険を察知したマリエが涎を垂れ流しながら激しく叫ぶ。だがバイブは激しくピストンしながら無慈悲に肛門を押し拡げていく。あまりに太く、動きが激しいために、肛門は裂けて出血している。
 ドリルバイブを肛門に挿れたまま、膣にもバイブが挿れられる。
 散々嬲られた末、人形のようなマリエの身体が複数の男たちに犯されていく。真っ赤に腫れ上がった膣にも、血を流す肛門にも、何人も、何人も。
 終わりのない責め苦に、マリエは悲鳴を上げ続ける。

 その悲鳴がユリカの声に聞こえた気がして、佐伯は夢から覚めた。

 嫌な汗をかいている。ふと横を見ると、簡易ベッドでユリカがすやすやと眠っていた。
 カーテンのすき間から差し込んだ朝日が、病室に白い帯を投げかけている。
 佐伯はふうっと息を吐いた。
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