40 / 152
39話 彼の理由
しおりを挟む『はい解毒のお薬です飲ませて』
仕事が早いギルドマスターはさっさとレイニーの症状を診ると調薬を済ませ、俺たちに粉薬を差し出した。
「苦い?」
「はい、あーん」
「イや」
シャックさんが嫌がるレイニーの口を開けて【スキル:ひきよせ】で胃に流し込んだ。
「まずい~」
「飴あげるから食べていいぞ」
「わーい」
「何で飴がそんなにたくさんあるの?」
「城の窓から美味そうに飴を喰ってる子供が見えたから」
解毒剤が効いたのかレイニーが眠そうにしていたので、鞄から毛布を出して寝かせた。何でも入る鞄のおかげで一緒に枕も出してやれる。
だがレイニーが起きても解毒薬の効果が現れなければ今夜の宿すら取れるか怪しい。
子供がえりしてしまったレイニーは、ミサイルの発射スイッチそのものだ。
「そういえば、国王!!」
「ん?」
「俺たちホンイツさんの様子とか見ずに城を出たんだけど……あいつもレイニーと同じ薬を吸っていたら、あいつも子供みたいに泣いていたら……嫌だなと」
「あのゴミカスが泣いている分にはいいけど、あんな状態で城から出られたら厄介なのは確かだね」
「ここ頼む」
「は? 君1人で行かないでよ危ない」
「俺の力じゃレイニーを移動させるのも大変だし……なら【スキルカード:ドール】」
シャックの言う通り俺1人では心許ないので、今の俺にできる限り巨大に作ったトラウマ人形にレイニーをくくりつけて連れていくことに。
亀甲縛りなら落ちないかなと昔の趣味を生かした。
久しぶりの結び方だったが上手くいった。
「君、運送業でもしていた人?」
「いや趣味で美少女フィギュアを縛ってた」
「嘘が吐けない人なの?」
「ちょっと変わった性癖ぐらい誰しもあるだろ」
そうして俺たちは今朝ぶりにホンイツ国王のいる城に戻ってきたのだが、国王は18禁のお見せできない姿だ。アニメなら確実にモザイク。
どうしようか悩んだが、このまま放置したら風邪をひきそうのは間違いないだろう。
風呂場に連れていき、とりあえずお湯で洗ってからソファーに転がした。
人形のように亀甲縛りしていたレイニーがちょうどお目覚めだ。
「……うん?」
「良かったーやっと起きたねこのクソ王子」
「シャックさんの幻覚が見えるのですが……」
「さっき会ったよね僕たち」
「覚えていないのですけども、あと何で私は縛られているのでしょうか……?」
レイニーの様子が戻ったようなので縄を解いたのだが、当のレイニーはかじった人参が苦かった時のような顔。
亀甲縛りをしていた縄の痕がくっきりレイニーの身体に残っていた。
俺は水責めにあった。
「がぼがぼ」
「他にやり方あったでしょう」
「ごぼぼぼ(ごめんて)」
口の中の水が弾けた。
スキルだとか言葉にして唱えなくても唐突に【スキル:水】を発動できるレイニーの強さが今までのレイニーの苦しみ。
つらい思いをすればするほどスキルは強くなるというこの世界の摂理を知った今は、何だか強い人ほどむなしく感じる。
「ああ、薬の影響で私まで記憶が飛んだのですね」
「シャックさんと本気でバトルしだすし」
「本気じゃなかったよ、甘噛み程度」
「あんな威力がある、確か――きょだいのりしお?」
「そんなポテトチップスみたいな技名じゃなかったけど?」
「私が本気を出したらこの国はもう海に沈んでいます」
ミサイルの発射スイッチが正気に戻ってくれて本当に良かった。
友達が大変な目に遭った国とはいえ、無辜の人々が犠牲になるのは勘弁してほしい。
苺飴とかおいしそうに食べ歩いているあの少女たちまで水に沈んだともなれば本物のトラウマ必須。
「そういえばシャックさんはどうして魔王討伐をやめたんだ?」
「唐突だな」
「いやティラノさんから聞いて前から気になってて」
「そういう時は人に話せない事情があるものですよ」
「ごめん」
レイニーが討伐をやめたのはノアのことがあったから。シャックさんにもトラウマがあるのかもしれない。
しかし別に隠されもせず。
「お金がなくて討伐に参加してる余裕がないだけだよ」
だからカミノは国から補助金を出しているのかと、俺は今頃納得していた。
1
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる