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04、魔王城にお邪魔します!
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近付くと、城にかかった灰色の雲が黒飛のための到着台だと知れた。出迎えの妖怪たちがずらりと並び、
「お帰りなさいませ、魔王様」
と頭を下げた。
「おもてをあげぃ」
居並ぶ妖怪たちは顔をあげ、みな同時に固まった。一つ目や四つ目や、様々な視線がいっせいに美紗へ集中する。
「よう」
と片手をあげる美紗。
「今日一日あたしが魔王様さ。もと魔王はこっち」
と、頭の上を指さす。
「よくぞ無事に御生還なさいました。お喜び申し上げます」
と、大きなトカゲが進み出た。宴の最中いじわる天使に小さくされ連れ去られてしまったのだから、探しに行った家来もいるだろうし、城を守っていた者たちも気を揉んでいただろう。だが魔王は腕組みして皮肉な笑みを浮かべている。
「もうだめかと思っていたな?」
「いえ、まさかそのような。我らが魔王様が、よもや天使なぞに――」
と、なんだかしどろもどろなトカゲさん。
「くははは。私が戻ってきて嬉しいか」
「ははっ、勿論でござります」
「私がいない間は、さぞ羽が伸ばせたろう」
「とんでもござりませぬ」
「では一日ぶりに、仕事を言いつけられたいか」
「ははっ」
魔王は牙を見せて、にたぁっと笑った。
「なに手下いじめてんの?」
小声で非難する美紗を無視して、
「では日が暮れるまでに、屋敷内すべての食人花に餌をやるのだ」
「はっ……」
と額を雲にこすりつける。
「偉大な私の言いつけを守れぬときは、またお前の尻尾を奴らの餌にしてしまうからな」
トカゲはもう、何も言わなかった。
「黒飛、私の部屋までひとっ飛びだ!」
かけ声ひとつ、美紗の髪を手綱がわりに引っ張る。
「痛いよ!」
美紗はぺしっと魔王をはたいた。
舞い上がった黒飛にトカゲは慌てて、
「魔王様、中からゆかれないのですか? せっかく黒いじゅうたん敷きつめたのに」
黒飛は城の最上階を目指す。
「あのトカゲはな」
と魔王が話しかける。
「まったくむしゃくしゃさせるやつだ。本心では私などさっさと天使に殺されればいいと思っているのさ。そのくせいつも頭ばかり下げやがって」
「それで、中から行かないの?」
「中には頭ばかり下げるやつがもっとたくさんいるんだぞ。息が詰まる」
黒飛はあいている窓からすべり込んだ。
「うわおう」
「なんだこれは!」
二人は同時に悲鳴をあげた。黒飛など驚きのあまり、もとの羽に戻ってしまったほどだ。
様々なものが氾濫している。古いレコード、アルバム、宝石箱、楽器、トロフィー、積み重なる向こうから、犬の鳴き声も聞こえる。
グランドピアノの下から、河童が這い出した。
「魔王様ぁ、『銀の魔笛』を使いましたねぇ?」
「使ったが?」
「お城からあふれてしまいますよぉ」
そっか、と美紗は手をたたいた。
「ここにあるもの全部、誰かの一番大切なものなんだ」
「こうして見るとがらくた同然だな」
魔王はふんと鼻を鳴らす。ここに至って、とぼけた河童も黒飛から下りてきたのが魔王ではないと気付いた様子。だが魔王の声は聞こえるのだから、目を白黒させている。
「きさま、何者?」
美紗を指さす河童に、頭の上から魔王が答えた。
「この者は、天使との戦いにおいて手を貸してくれた者だ」
「え、そうじゃなくって」
言いかけた美紗の髪を、魔王が引っ張った。痛いってば、と叫ぼうとして、美紗は気が付いた。木の枝にひっかかってたところを助けられたなんて、この人言えるわけないのか。
魔王は何くわぬ顔で河童を指さし、
「おい河太郎。ここにあるものすべて、ほかの部屋へ持って行け」
河童は悲鳴をあげたが、魔王の金色の目ににらまれて慌てて軽そうなものから運び出す。
「美紗、町の奴らの困っている顔が見たくはないか?」
「見たい見たい!」
美紗は飛び上がって歓声をあげた。
「それがおもしろいんだもん!」
「お帰りなさいませ、魔王様」
と頭を下げた。
「おもてをあげぃ」
居並ぶ妖怪たちは顔をあげ、みな同時に固まった。一つ目や四つ目や、様々な視線がいっせいに美紗へ集中する。
「よう」
と片手をあげる美紗。
「今日一日あたしが魔王様さ。もと魔王はこっち」
と、頭の上を指さす。
「よくぞ無事に御生還なさいました。お喜び申し上げます」
と、大きなトカゲが進み出た。宴の最中いじわる天使に小さくされ連れ去られてしまったのだから、探しに行った家来もいるだろうし、城を守っていた者たちも気を揉んでいただろう。だが魔王は腕組みして皮肉な笑みを浮かべている。
「もうだめかと思っていたな?」
「いえ、まさかそのような。我らが魔王様が、よもや天使なぞに――」
と、なんだかしどろもどろなトカゲさん。
「くははは。私が戻ってきて嬉しいか」
「ははっ、勿論でござります」
「私がいない間は、さぞ羽が伸ばせたろう」
「とんでもござりませぬ」
「では一日ぶりに、仕事を言いつけられたいか」
「ははっ」
魔王は牙を見せて、にたぁっと笑った。
「なに手下いじめてんの?」
小声で非難する美紗を無視して、
「では日が暮れるまでに、屋敷内すべての食人花に餌をやるのだ」
「はっ……」
と額を雲にこすりつける。
「偉大な私の言いつけを守れぬときは、またお前の尻尾を奴らの餌にしてしまうからな」
トカゲはもう、何も言わなかった。
「黒飛、私の部屋までひとっ飛びだ!」
かけ声ひとつ、美紗の髪を手綱がわりに引っ張る。
「痛いよ!」
美紗はぺしっと魔王をはたいた。
舞い上がった黒飛にトカゲは慌てて、
「魔王様、中からゆかれないのですか? せっかく黒いじゅうたん敷きつめたのに」
黒飛は城の最上階を目指す。
「あのトカゲはな」
と魔王が話しかける。
「まったくむしゃくしゃさせるやつだ。本心では私などさっさと天使に殺されればいいと思っているのさ。そのくせいつも頭ばかり下げやがって」
「それで、中から行かないの?」
「中には頭ばかり下げるやつがもっとたくさんいるんだぞ。息が詰まる」
黒飛はあいている窓からすべり込んだ。
「うわおう」
「なんだこれは!」
二人は同時に悲鳴をあげた。黒飛など驚きのあまり、もとの羽に戻ってしまったほどだ。
様々なものが氾濫している。古いレコード、アルバム、宝石箱、楽器、トロフィー、積み重なる向こうから、犬の鳴き声も聞こえる。
グランドピアノの下から、河童が這い出した。
「魔王様ぁ、『銀の魔笛』を使いましたねぇ?」
「使ったが?」
「お城からあふれてしまいますよぉ」
そっか、と美紗は手をたたいた。
「ここにあるもの全部、誰かの一番大切なものなんだ」
「こうして見るとがらくた同然だな」
魔王はふんと鼻を鳴らす。ここに至って、とぼけた河童も黒飛から下りてきたのが魔王ではないと気付いた様子。だが魔王の声は聞こえるのだから、目を白黒させている。
「きさま、何者?」
美紗を指さす河童に、頭の上から魔王が答えた。
「この者は、天使との戦いにおいて手を貸してくれた者だ」
「え、そうじゃなくって」
言いかけた美紗の髪を、魔王が引っ張った。痛いってば、と叫ぼうとして、美紗は気が付いた。木の枝にひっかかってたところを助けられたなんて、この人言えるわけないのか。
魔王は何くわぬ顔で河童を指さし、
「おい河太郎。ここにあるものすべて、ほかの部屋へ持って行け」
河童は悲鳴をあげたが、魔王の金色の目ににらまれて慌てて軽そうなものから運び出す。
「美紗、町の奴らの困っている顔が見たくはないか?」
「見たい見たい!」
美紗は飛び上がって歓声をあげた。
「それがおもしろいんだもん!」
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