魔王からの贈り物

綾森れん

文字の大きさ
3 / 19

03、魔王代理の仕事始め

しおりを挟む
 川沿いの道を走り丘を駆け上がり、二人は町を見下ろせる高台へ来た。すぐそこに小学校の屋根と体育館が見える。

「このへん一帯にうちの学校の奴らが住んでるんだ。いくよ」

 と笛を構える。

「くっくっくっ。やってしまえやってしまえ」

 いざ術をかけるとなると、自分でやるにせよ美紗みさがやるにせよ、こんな楽しいことはない。人々の困った顔を思い浮かべると笑いが込み上げる。

 美紗は銀の魔笛に息を吹き込んだ。

 ピュロロロロとこうもりが鳴いて、小さな竜巻が生まれた。ぐるんぐるんと回って次第に大きく速くなる。泥酔した人みたいに、あちらこちらの木にぶつかって向きを変え美紗と魔王に突進した。

「うわあ!」

 美紗は慌てて頭の上の魔王を支えてやる。

「くっくっ。愚か者め。お前の大切なものも、私の城へ吹き飛ばされるぞ」

 美紗は両手をまじまじと見て、それからあたりを見回した。夏の林に蝉の声がこだましている。ここは魔王の城じゃない。

「吹き飛ばされてないよ?」

 きょとんとした目で見上げる美紗と、不思議そうに見下ろす魔王の目があった。

 竜巻は丘を下って町を吹き荒れている。だんだん大きく黒くなってゆく。黒く見えるのは、みんなの大切なものを巻き込んで吹き荒れているせいだろう。

 しばらくすると竜巻は空高く舞い上がり、それから一直線に落下して姿を消した。

「竜巻が仕事を終えたようだ。私たちも城へ向かおう。袋の中に黒い羽が入っていたろう」

「これ?」

 と、まだかわききらない羽を頭上の魔王に見せた。小さな魔王が大きな羽を手に乗せ、ふっと吹くと、羽が空へと舞い上がった。宙回転したと思ったら、大きなからすが姿を現した。くちばしの上に大きな一つ目を持った烏は濡れた羽を震わせて、ギャアと一声恐ろしげに鳴いた。

「おい黒飛こくひ、私を城まで連れてゆくのだ。この小娘も一緒に乗せてやれ」

 魔王の声を聞いた途端、一つ目の大烏はおとなしく地上に降りてきた。魔王を頭に乗せて、美紗は烏にまたがる。

「よし行け」

 魔王が命ずると烏は空へと舞い上がった。風に乗り、ゆるやかに上昇する。汗ばんだ額に風が気持ちよい。

「町が見える!」

 足下あしもとの町は、見慣れぬ騒動に包まれているようだ。竜巻に荒らされて庭から根こそぎ持ってゆかれた木もあれば、車のなぎ倒された駐車場もある。

「きゃはは、みんなあたしのお怒りに触れたんだ!」

 歓声をあげる美紗に、

「魔王の役は楽しいだろう」

「うん、とっても! これが仕事なの?」

「そうさ。毎日気ままに悪さをするのだ。私をいさめられる者などいない。誰に縛られることもない。天使どもさえいなければ、すべての者が私の臣下しんかだ」

「最高じゃん!」

「そのとおり!」

 上空で烏の黒飛こくひは翼を止めた。

「急降下するぞ」

 耳元で魔王がささやく。一呼吸置いて、黒飛はほぼ垂直に地上を目指した。ぐんぐんと近付くのは、川――いや、車の通る大きな橋だ。その橋桁はしげたの影に黒飛のくちばしは吸い込まれてゆく。

「ぶつかる」

 美紗がぎゅっと目を閉じたとき、ふと風の匂いが切り替わった。湿った風が、なめるように頬を冷やす。恐る恐る目を開けると、頭上には紫の雲が低く立ちこめ、下には石の町が広がっている。大小様々な四角い家には、煮すぎた豆腐みたいにぽつぽつと小さな窓があき、寄り集まって坂の多い町を形成していた。

「私の国だ」

 頭の上から、満足そうな声が聞こえる。

「そしてあれが、私の城だ」

 灰色の町の向こうに不気味な古城がそびえていた。黒い壁に蔦が絡まり、ひねくれ曲がった塔が天を指している。烏の黒飛こくひはその城を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...