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03、魔王代理の仕事始め
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川沿いの道を走り丘を駆け上がり、二人は町を見下ろせる高台へ来た。すぐそこに小学校の屋根と体育館が見える。
「このへん一帯にうちの学校の奴らが住んでるんだ。いくよ」
と笛を構える。
「くっくっくっ。やってしまえやってしまえ」
いざ術をかけるとなると、自分でやるにせよ美紗がやるにせよ、こんな楽しいことはない。人々の困った顔を思い浮かべると笑いが込み上げる。
美紗は銀の魔笛に息を吹き込んだ。
ピュロロロロとこうもりが鳴いて、小さな竜巻が生まれた。ぐるんぐるんと回って次第に大きく速くなる。泥酔した人みたいに、あちらこちらの木にぶつかって向きを変え美紗と魔王に突進した。
「うわあ!」
美紗は慌てて頭の上の魔王を支えてやる。
「くっくっ。愚か者め。お前の大切なものも、私の城へ吹き飛ばされるぞ」
美紗は両手をまじまじと見て、それからあたりを見回した。夏の林に蝉の声がこだましている。ここは魔王の城じゃない。
「吹き飛ばされてないよ?」
きょとんとした目で見上げる美紗と、不思議そうに見下ろす魔王の目があった。
竜巻は丘を下って町を吹き荒れている。だんだん大きく黒くなってゆく。黒く見えるのは、みんなの大切なものを巻き込んで吹き荒れているせいだろう。
しばらくすると竜巻は空高く舞い上がり、それから一直線に落下して姿を消した。
「竜巻が仕事を終えたようだ。私たちも城へ向かおう。袋の中に黒い羽が入っていたろう」
「これ?」
と、まだ乾ききらない羽を頭上の魔王に見せた。小さな魔王が大きな羽を手に乗せ、ふっと吹くと、羽が空へと舞い上がった。宙回転したと思ったら、大きな烏が姿を現した。くちばしの上に大きな一つ目を持った烏は濡れた羽を震わせて、ギャアと一声恐ろしげに鳴いた。
「おい黒飛、私を城まで連れてゆくのだ。この小娘も一緒に乗せてやれ」
魔王の声を聞いた途端、一つ目の大烏はおとなしく地上に降りてきた。魔王を頭に乗せて、美紗は烏にまたがる。
「よし行け」
魔王が命ずると烏は空へと舞い上がった。風に乗り、ゆるやかに上昇する。汗ばんだ額に風が気持ちよい。
「町が見える!」
足下の町は、見慣れぬ騒動に包まれているようだ。竜巻に荒らされて庭から根こそぎ持ってゆかれた木もあれば、車のなぎ倒された駐車場もある。
「きゃはは、みんなあたしのお怒りに触れたんだ!」
歓声をあげる美紗に、
「魔王の役は楽しいだろう」
「うん、とっても! これが仕事なの?」
「そうさ。毎日気ままに悪さをするのだ。私を諫められる者などいない。誰に縛られることもない。天使どもさえいなければ、すべての者が私の臣下だ」
「最高じゃん!」
「そのとおり!」
上空で烏の黒飛は翼を止めた。
「急降下するぞ」
耳元で魔王がささやく。一呼吸置いて、黒飛はほぼ垂直に地上を目指した。ぐんぐんと近付くのは、川――いや、車の通る大きな橋だ。その橋桁の影に黒飛のくちばしは吸い込まれてゆく。
「ぶつかる」
美紗がぎゅっと目を閉じたとき、ふと風の匂いが切り替わった。湿った風が、なめるように頬を冷やす。恐る恐る目を開けると、頭上には紫の雲が低く立ちこめ、下には石の町が広がっている。大小様々な四角い家には、煮すぎた豆腐みたいにぽつぽつと小さな窓があき、寄り集まって坂の多い町を形成していた。
「私の国だ」
頭の上から、満足そうな声が聞こえる。
「そしてあれが、私の城だ」
灰色の町の向こうに不気味な古城がそびえていた。黒い壁に蔦が絡まり、ひねくれ曲がった塔が天を指している。烏の黒飛はその城を目指した。
「このへん一帯にうちの学校の奴らが住んでるんだ。いくよ」
と笛を構える。
「くっくっくっ。やってしまえやってしまえ」
いざ術をかけるとなると、自分でやるにせよ美紗がやるにせよ、こんな楽しいことはない。人々の困った顔を思い浮かべると笑いが込み上げる。
美紗は銀の魔笛に息を吹き込んだ。
ピュロロロロとこうもりが鳴いて、小さな竜巻が生まれた。ぐるんぐるんと回って次第に大きく速くなる。泥酔した人みたいに、あちらこちらの木にぶつかって向きを変え美紗と魔王に突進した。
「うわあ!」
美紗は慌てて頭の上の魔王を支えてやる。
「くっくっ。愚か者め。お前の大切なものも、私の城へ吹き飛ばされるぞ」
美紗は両手をまじまじと見て、それからあたりを見回した。夏の林に蝉の声がこだましている。ここは魔王の城じゃない。
「吹き飛ばされてないよ?」
きょとんとした目で見上げる美紗と、不思議そうに見下ろす魔王の目があった。
竜巻は丘を下って町を吹き荒れている。だんだん大きく黒くなってゆく。黒く見えるのは、みんなの大切なものを巻き込んで吹き荒れているせいだろう。
しばらくすると竜巻は空高く舞い上がり、それから一直線に落下して姿を消した。
「竜巻が仕事を終えたようだ。私たちも城へ向かおう。袋の中に黒い羽が入っていたろう」
「これ?」
と、まだ乾ききらない羽を頭上の魔王に見せた。小さな魔王が大きな羽を手に乗せ、ふっと吹くと、羽が空へと舞い上がった。宙回転したと思ったら、大きな烏が姿を現した。くちばしの上に大きな一つ目を持った烏は濡れた羽を震わせて、ギャアと一声恐ろしげに鳴いた。
「おい黒飛、私を城まで連れてゆくのだ。この小娘も一緒に乗せてやれ」
魔王の声を聞いた途端、一つ目の大烏はおとなしく地上に降りてきた。魔王を頭に乗せて、美紗は烏にまたがる。
「よし行け」
魔王が命ずると烏は空へと舞い上がった。風に乗り、ゆるやかに上昇する。汗ばんだ額に風が気持ちよい。
「町が見える!」
足下の町は、見慣れぬ騒動に包まれているようだ。竜巻に荒らされて庭から根こそぎ持ってゆかれた木もあれば、車のなぎ倒された駐車場もある。
「きゃはは、みんなあたしのお怒りに触れたんだ!」
歓声をあげる美紗に、
「魔王の役は楽しいだろう」
「うん、とっても! これが仕事なの?」
「そうさ。毎日気ままに悪さをするのだ。私を諫められる者などいない。誰に縛られることもない。天使どもさえいなければ、すべての者が私の臣下だ」
「最高じゃん!」
「そのとおり!」
上空で烏の黒飛は翼を止めた。
「急降下するぞ」
耳元で魔王がささやく。一呼吸置いて、黒飛はほぼ垂直に地上を目指した。ぐんぐんと近付くのは、川――いや、車の通る大きな橋だ。その橋桁の影に黒飛のくちばしは吸い込まれてゆく。
「ぶつかる」
美紗がぎゅっと目を閉じたとき、ふと風の匂いが切り替わった。湿った風が、なめるように頬を冷やす。恐る恐る目を開けると、頭上には紫の雲が低く立ちこめ、下には石の町が広がっている。大小様々な四角い家には、煮すぎた豆腐みたいにぽつぽつと小さな窓があき、寄り集まって坂の多い町を形成していた。
「私の国だ」
頭の上から、満足そうな声が聞こえる。
「そしてあれが、私の城だ」
灰色の町の向こうに不気味な古城がそびえていた。黒い壁に蔦が絡まり、ひねくれ曲がった塔が天を指している。烏の黒飛はその城を目指した。
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