魔王からの贈り物

綾森れん

文字の大きさ
6 / 19

06、無邪気な復讐劇。ただし対象には効いている模様

しおりを挟む
 突然現れた変な一行に、夕樹は息を止めて目を丸くした。しゃっくりもいっぺんに止まった。

「美紗?」

 こわごわ呼びかける夕樹に、今日は「おねえちゃんとお呼び」とは言わない。

「あたしはこの世の闇と悪をべる魔王様だ。お前の大事なものは、あたしの手の中だ」

 夕樹は、ふんと鼻を鳴らした。
「六年生にもなって馬鹿みたい。美紗は幼稚だねえ」

 と、涙も忘れてからから笑う。美紗の額に青筋が浮かぶ。
「昨日もおとといも、お前の代わりにあたしが怒られてやったのに」

「それは美紗がうまく立ち回らないからでしょ?」

 要領の悪いあたしがいけないってこと?

 怒りに拳を振るわせる美紗の頭上で、魔王がささやいた。
「そろそろやってしまえ」

 美紗はにやっとしてそれにこたえる。今まで夕樹に隠して持っていたモンスターカードを、目の前で折り曲げる。しかもきらきらしている、夕樹の特に大切にしているやつだ。

「あ~、ぼくのゴールドカード!」

 美紗はにたにたと、さも嬉しそうに笑いながら紙飛行機にして窓から放り投げた。
「飛んでけぇっ」

「おいらも手伝う!」

 と河童も飛行機を折り始める。

「返してよ!」

 と走り寄る夕樹の頭に魔王が乗り移り、飛び跳ねたり蹴ったり大暴れする。

「美紗をいじめるな、愚か者め」

 夕樹は頭を振ってわめきだした。

 美紗が折った最後の一枚のゴールドカードに飛び乗って、魔王は意気揚々、

「次は主犯格の娘だ!」

「おーっし!」

 美紗は革袋から羽を出して黒飛こくひを呼ぶ。河童と二人、黒飛の背に飛び乗って、床に散らばったモンスターカードを涙目で拾い集める夕樹に捨てぜりふ。

「三年生にもなってめそめそして。夕樹はお子さまだねえ」

 黒飛が羽ばたき、二階の窓から大空へ躍り出る。紙飛行機に乗って魔王もすぐ横を飛ぶ。

「黒飛、あの家だよ」

 住宅街の赤い屋根を指さし、河童の河太郎かわたろうには、かついだ袋の中から「岡野くんアルバム」を探させる。

 黒飛は閉めきった窓ガラスを豪快に割って、真希の部屋に降り立った。クーラーの風が涼しい室内は、魔王の部屋に負けず劣らず散らかっている。大切な写真がみつからず、真希は放心したように座り込んでいた。一呼吸置いて、窓ガラスの割れる派手な音に気付き、慌てて振り返る。

「よう」

 片手をあげた美紗に真希は息をんだ。だが深呼吸ひとつで、すぐにいつもの彼女に戻った。

「なにその気持ちの悪いペットは」

 きつい一言に黒飛はきゅんと鳴いて、黒い羽に戻ってしまう。

「黒飛さん、毛並みきれいだよう」

 河太郎かわたろうが羽を撫でながら一生懸命なぐさめるのを一瞥いちべつして、真希は低い声でつぶやいた。

「あんたも気持ち悪いんだよ」

「そうかい」

 と問うたのは美紗の頭に乗った魔王だ。これには驚いて真希も口をつぐむ。

「あんたのいとしい彼のほうが、よっぽど気持ち悪いと思うが?」

 ふいと投げ捨てるのは、岡野孝史の写真。

「なんであんたが持ってんの」

 と、宙を漂う写真を慌てて手に取り、きゃっと悲鳴をあげる。隣からのぞきこんだ美紗は大笑い。魔王も頭上で大笑い。いつの間にいたずらしたのか、アップで写った岡野くんは、髭と皺を書かれた上に、真っ赤な口紅をつけられ口裂け女みたいだ。河童の河太郎ものぞきこみ、一同笑い転げる。

「ふざけんなよ」

 とにらみつける真希に、

「まだまだあるぜ」

 と魔王が写真をばらまく。どれもこれも変な顔の岡野くん。真希はいちいちご丁寧に悲鳴をあげるから、魔王は楽しくてしょうがない。

「あたしも書きたい!」

「おいらも!」

 河太郎が持っていた残りの写真にも、真希のペンを勝手に使って、二人は落書きを始める。

「やめてよ!」

 と、写真を奪い返そうとした真希を、後ろからくちばしがつついた。振り替えれば、笑い声につられて姿を現した、烏の黒飛。その巨体にひるんだ真希の服を、あっという間にくちばしで破いた。

「きゃあぁ!」

 今までに増す悲鳴をあげた真希を振り返り、

「ふっ、ダサイ下着だ」

 と魔王が呟いた。

 悲鳴を聞きつけて、階下から足音が近付くが、美紗たちは構わず落書きを続ける。

「どうしたの、真希ちゃん!」

 部屋に飛び込んだのは、ちょうど遊びに来た明美あけみだった。大混乱の室内を目にした途端、悲鳴も息も呑み込んで廊下に尻餅をついた。

「おぬし、ちょうどいいところに来たな」

 美紗の頭上で明美に向き直った魔王を指さし、口をぱくぱくさせるので、

「かっこわるいからやめてよ、明美」

 と真希に嫌な顔をされた。

「この便箋を探していたようだな」

 便箋と封筒を束にして、魔王は小さな体で旗みたいに振ってみせる。明美は、どうして、と呟いたようだ。

「なかなか趣味の悪い便箋だ。さすが、そこの女に恋をしているだけのことはある」

 魔王の言葉を聞きつけて、美紗たちから写真を取り返そうと奮闘していた真希は、言葉を失った。明美は、違う違うと必死で手を振るが、恥ずかしいのか怒っているのか、顔が真っ赤なのでまるで信憑性がない。必死で笑いをこらえている魔王に明美は消え入りそうな声で、

「返してください」

 とだけ言った。

「いいだろう。ほれ」

 と、魔王は一枚だけを床に落とした。明美が慌てて拾い上げた便箋には、血塗られた字で、魔王の身長よりも大きく、「I Loveみさ」とつづられている。明美が目を見開いたのを見て、魔王は、くははっと大喜び。

「もう少し返してやろうか」

 と二枚三枚落っことす。どれもこれも、赤黒い液でどろりと「I Loveみさ」。

 ついにすべての写真を真希に奪還されて、つまらなそうに顔をあげた美紗は、床に散らばる便箋に気が付いて、目を輝かせた。一枚を手に取り、

「なんて素敵な字体! 色もとってもきれい。それにこの匂い、お刺身みたいにかぐわしい匂いがする……」

 便箋を顔に近付けうっとりとする。

「気に入ったか?」

「うん、とっても! この熊柄の便箋は好きじゃないけど」

「熊は臭いからな」

 と、二人してディ●ニーキャラクターをこき下ろす。

「あたしもお礼に書いてあげるね!」

 と、魔王が抱える便箋を一枚手に取り、真希のペンを勝手に借りると、血塗られた字体を懸命にまねて、「愛らぶ魔王ちゃん♥」、封筒まで勝手に使い、黒飛の頭に座った魔王に手渡す。

「勝手に使わないでよ。それ真希ちゃんからのプレゼントなんだよ」

 後ろでぼそぼそ言う声は完全に無視。だが、太い針のような真希の言葉は、放っておけなかった。

「やめな、明美。友だちいない歴十一年のやつに分かるわけないから。あれ? 十二年に更新されたんだっけ?」

 狐に似た、きれいだけどいじわるい目が笑っている。美紗は精一杯怖い目をしてにらんだ。
「誕生日は明日だもん」

 パーティーは、お父さんもお母さんも仕事がない日曜日にひらいたから、プレゼントの色鉛筆も昨日もらったのだ。

「あと一日じゃどうなるものでもないでしょ」

 鼻で笑って振り返り、真希はいやぁ、と叫んだ。美紗と河童から取り返して、部屋の隅に重ねておいた岡野くんの写真に、一つ目烏がフンをしていた。美紗はすぐに笑い声を取り戻す。

 地上が珍しいのか、窓から身を乗り出していた河太郎が、

「何やら人が集まってきましたなあ」

 と、感心したような声を出す。悲鳴と騒音を聞きつけて、通りがかる人が何事かと上を見上げる。そのままとどまる人もあり、次第に人垣が大きくなると、近所の住人までもがわざわざ家から出てきて見上げ、人垣は大きくなるばかり。みな、何かがなくなり探すうち、災難に遭ったのが自分だけではないと知るのだろう。町には台風のときみたいな国政選挙のときのような、もしくはオリンピックのときみたいな非日常の空気が流れ出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

処理中です...