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06、無邪気な復讐劇。ただし対象には効いている模様
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突然現れた変な一行に、夕樹は息を止めて目を丸くした。しゃっくりもいっぺんに止まった。
「美紗?」
こわごわ呼びかける夕樹に、今日は「おねえちゃんとお呼び」とは言わない。
「あたしはこの世の闇と悪を統べる魔王様だ。お前の大事なものは、あたしの手の中だ」
夕樹は、ふんと鼻を鳴らした。
「六年生にもなって馬鹿みたい。美紗は幼稚だねえ」
と、涙も忘れてからから笑う。美紗の額に青筋が浮かぶ。
「昨日もおとといも、お前の代わりにあたしが怒られてやったのに」
「それは美紗がうまく立ち回らないからでしょ?」
要領の悪いあたしがいけないってこと?
怒りに拳を振るわせる美紗の頭上で、魔王がささやいた。
「そろそろやってしまえ」
美紗はにやっとしてそれに応える。今まで夕樹に隠して持っていたモンスターカードを、目の前で折り曲げる。しかもきらきらしている、夕樹の特に大切にしているやつだ。
「あ~、ぼくのゴールドカード!」
美紗はにたにたと、さも嬉しそうに笑いながら紙飛行機にして窓から放り投げた。
「飛んでけぇっ」
「おいらも手伝う!」
と河童も飛行機を折り始める。
「返してよ!」
と走り寄る夕樹の頭に魔王が乗り移り、飛び跳ねたり蹴ったり大暴れする。
「美紗をいじめるな、愚か者め」
夕樹は頭を振ってわめきだした。
美紗が折った最後の一枚のゴールドカードに飛び乗って、魔王は意気揚々、
「次は主犯格の娘だ!」
「おーっし!」
美紗は革袋から羽を出して黒飛を呼ぶ。河童と二人、黒飛の背に飛び乗って、床に散らばったモンスターカードを涙目で拾い集める夕樹に捨てぜりふ。
「三年生にもなってめそめそして。夕樹はお子さまだねえ」
黒飛が羽ばたき、二階の窓から大空へ躍り出る。紙飛行機に乗って魔王もすぐ横を飛ぶ。
「黒飛、あの家だよ」
住宅街の赤い屋根を指さし、河童の河太郎には、かついだ袋の中から「岡野くんアルバム」を探させる。
黒飛は閉めきった窓ガラスを豪快に割って、真希の部屋に降り立った。クーラーの風が涼しい室内は、魔王の部屋に負けず劣らず散らかっている。大切な写真がみつからず、真希は放心したように座り込んでいた。一呼吸置いて、窓ガラスの割れる派手な音に気付き、慌てて振り返る。
「よう」
片手をあげた美紗に真希は息を呑んだ。だが深呼吸ひとつで、すぐにいつもの彼女に戻った。
「なにその気持ちの悪いペットは」
きつい一言に黒飛はきゅんと鳴いて、黒い羽に戻ってしまう。
「黒飛さん、毛並みきれいだよう」
河太郎が羽を撫でながら一生懸命なぐさめるのを一瞥して、真希は低い声で呟いた。
「あんたも気持ち悪いんだよ」
「そうかい」
と問うたのは美紗の頭に乗った魔王だ。これには驚いて真希も口をつぐむ。
「あんたのいとしい彼のほうが、よっぽど気持ち悪いと思うが?」
ふいと投げ捨てるのは、岡野孝史の写真。
「なんであんたが持ってんの」
と、宙を漂う写真を慌てて手に取り、きゃっと悲鳴をあげる。隣からのぞきこんだ美紗は大笑い。魔王も頭上で大笑い。いつの間にいたずらしたのか、アップで写った岡野くんは、髭と皺を書かれた上に、真っ赤な口紅をつけられ口裂け女みたいだ。河童の河太郎ものぞきこみ、一同笑い転げる。
「ふざけんなよ」
とにらみつける真希に、
「まだまだあるぜ」
と魔王が写真をばらまく。どれもこれも変な顔の岡野くん。真希はいちいちご丁寧に悲鳴をあげるから、魔王は楽しくてしょうがない。
「あたしも書きたい!」
「おいらも!」
河太郎が持っていた残りの写真にも、真希のペンを勝手に使って、二人は落書きを始める。
「やめてよ!」
と、写真を奪い返そうとした真希を、後ろからくちばしがつついた。振り替えれば、笑い声につられて姿を現した、烏の黒飛。その巨体にひるんだ真希の服を、あっという間にくちばしで破いた。
「きゃあぁ!」
今までに増す悲鳴をあげた真希を振り返り、
「ふっ、ダサイ下着だ」
と魔王が呟いた。
悲鳴を聞きつけて、階下から足音が近付くが、美紗たちは構わず落書きを続ける。
「どうしたの、真希ちゃん!」
部屋に飛び込んだのは、ちょうど遊びに来た明美だった。大混乱の室内を目にした途端、悲鳴も息も呑み込んで廊下に尻餅をついた。
「おぬし、ちょうどいいところに来たな」
美紗の頭上で明美に向き直った魔王を指さし、口をぱくぱくさせるので、
「かっこわるいからやめてよ、明美」
と真希に嫌な顔をされた。
「この便箋を探していたようだな」
便箋と封筒を束にして、魔王は小さな体で旗みたいに振ってみせる。明美は、どうして、と呟いたようだ。
「なかなか趣味の悪い便箋だ。さすが、そこの女に恋をしているだけのことはある」
魔王の言葉を聞きつけて、美紗たちから写真を取り返そうと奮闘していた真希は、言葉を失った。明美は、違う違うと必死で手を振るが、恥ずかしいのか怒っているのか、顔が真っ赤なのでまるで信憑性がない。必死で笑いをこらえている魔王に明美は消え入りそうな声で、
「返してください」
とだけ言った。
「いいだろう。ほれ」
と、魔王は一枚だけを床に落とした。明美が慌てて拾い上げた便箋には、血塗られた字で、魔王の身長よりも大きく、「I Loveみさ」とつづられている。明美が目を見開いたのを見て、魔王は、くははっと大喜び。
「もう少し返してやろうか」
と二枚三枚落っことす。どれもこれも、赤黒い液でどろりと「I Loveみさ」。
ついにすべての写真を真希に奪還されて、つまらなそうに顔をあげた美紗は、床に散らばる便箋に気が付いて、目を輝かせた。一枚を手に取り、
「なんて素敵な字体! 色もとってもきれい。それにこの匂い、お刺身みたいにかぐわしい匂いがする……」
便箋を顔に近付けうっとりとする。
「気に入ったか?」
「うん、とっても! この熊柄の便箋は好きじゃないけど」
「熊は臭いからな」
と、二人してディ●ニーキャラクターをこき下ろす。
「あたしもお礼に書いてあげるね!」
と、魔王が抱える便箋を一枚手に取り、真希のペンを勝手に借りると、血塗られた字体を懸命にまねて、「愛らぶ魔王ちゃん♥」、封筒まで勝手に使い、黒飛の頭に座った魔王に手渡す。
「勝手に使わないでよ。それ真希ちゃんからのプレゼントなんだよ」
後ろでぼそぼそ言う声は完全に無視。だが、太い針のような真希の言葉は、放っておけなかった。
「やめな、明美。友だちいない歴十一年のやつに分かるわけないから。あれ? 十二年に更新されたんだっけ?」
狐に似た、きれいだけどいじわるい目が笑っている。美紗は精一杯怖い目をしてにらんだ。
「誕生日は明日だもん」
パーティーは、お父さんもお母さんも仕事がない日曜日に開いたから、プレゼントの色鉛筆も昨日もらったのだ。
「あと一日じゃどうなるものでもないでしょ」
鼻で笑って振り返り、真希はいやぁ、と叫んだ。美紗と河童から取り返して、部屋の隅に重ねておいた岡野くんの写真に、一つ目烏がフンをしていた。美紗はすぐに笑い声を取り戻す。
地上が珍しいのか、窓から身を乗り出していた河太郎が、
「何やら人が集まってきましたなあ」
と、感心したような声を出す。悲鳴と騒音を聞きつけて、通りがかる人が何事かと上を見上げる。そのままとどまる人もあり、次第に人垣が大きくなると、近所の住人までもがわざわざ家から出てきて見上げ、人垣は大きくなるばかり。みな、何かがなくなり探すうち、災難に遭ったのが自分だけではないと知るのだろう。町には台風のときみたいな国政選挙のときのような、もしくはオリンピックのときみたいな非日常の空気が流れ出していた。
「美紗?」
こわごわ呼びかける夕樹に、今日は「おねえちゃんとお呼び」とは言わない。
「あたしはこの世の闇と悪を統べる魔王様だ。お前の大事なものは、あたしの手の中だ」
夕樹は、ふんと鼻を鳴らした。
「六年生にもなって馬鹿みたい。美紗は幼稚だねえ」
と、涙も忘れてからから笑う。美紗の額に青筋が浮かぶ。
「昨日もおとといも、お前の代わりにあたしが怒られてやったのに」
「それは美紗がうまく立ち回らないからでしょ?」
要領の悪いあたしがいけないってこと?
怒りに拳を振るわせる美紗の頭上で、魔王がささやいた。
「そろそろやってしまえ」
美紗はにやっとしてそれに応える。今まで夕樹に隠して持っていたモンスターカードを、目の前で折り曲げる。しかもきらきらしている、夕樹の特に大切にしているやつだ。
「あ~、ぼくのゴールドカード!」
美紗はにたにたと、さも嬉しそうに笑いながら紙飛行機にして窓から放り投げた。
「飛んでけぇっ」
「おいらも手伝う!」
と河童も飛行機を折り始める。
「返してよ!」
と走り寄る夕樹の頭に魔王が乗り移り、飛び跳ねたり蹴ったり大暴れする。
「美紗をいじめるな、愚か者め」
夕樹は頭を振ってわめきだした。
美紗が折った最後の一枚のゴールドカードに飛び乗って、魔王は意気揚々、
「次は主犯格の娘だ!」
「おーっし!」
美紗は革袋から羽を出して黒飛を呼ぶ。河童と二人、黒飛の背に飛び乗って、床に散らばったモンスターカードを涙目で拾い集める夕樹に捨てぜりふ。
「三年生にもなってめそめそして。夕樹はお子さまだねえ」
黒飛が羽ばたき、二階の窓から大空へ躍り出る。紙飛行機に乗って魔王もすぐ横を飛ぶ。
「黒飛、あの家だよ」
住宅街の赤い屋根を指さし、河童の河太郎には、かついだ袋の中から「岡野くんアルバム」を探させる。
黒飛は閉めきった窓ガラスを豪快に割って、真希の部屋に降り立った。クーラーの風が涼しい室内は、魔王の部屋に負けず劣らず散らかっている。大切な写真がみつからず、真希は放心したように座り込んでいた。一呼吸置いて、窓ガラスの割れる派手な音に気付き、慌てて振り返る。
「よう」
片手をあげた美紗に真希は息を呑んだ。だが深呼吸ひとつで、すぐにいつもの彼女に戻った。
「なにその気持ちの悪いペットは」
きつい一言に黒飛はきゅんと鳴いて、黒い羽に戻ってしまう。
「黒飛さん、毛並みきれいだよう」
河太郎が羽を撫でながら一生懸命なぐさめるのを一瞥して、真希は低い声で呟いた。
「あんたも気持ち悪いんだよ」
「そうかい」
と問うたのは美紗の頭に乗った魔王だ。これには驚いて真希も口をつぐむ。
「あんたのいとしい彼のほうが、よっぽど気持ち悪いと思うが?」
ふいと投げ捨てるのは、岡野孝史の写真。
「なんであんたが持ってんの」
と、宙を漂う写真を慌てて手に取り、きゃっと悲鳴をあげる。隣からのぞきこんだ美紗は大笑い。魔王も頭上で大笑い。いつの間にいたずらしたのか、アップで写った岡野くんは、髭と皺を書かれた上に、真っ赤な口紅をつけられ口裂け女みたいだ。河童の河太郎ものぞきこみ、一同笑い転げる。
「ふざけんなよ」
とにらみつける真希に、
「まだまだあるぜ」
と魔王が写真をばらまく。どれもこれも変な顔の岡野くん。真希はいちいちご丁寧に悲鳴をあげるから、魔王は楽しくてしょうがない。
「あたしも書きたい!」
「おいらも!」
河太郎が持っていた残りの写真にも、真希のペンを勝手に使って、二人は落書きを始める。
「やめてよ!」
と、写真を奪い返そうとした真希を、後ろからくちばしがつついた。振り替えれば、笑い声につられて姿を現した、烏の黒飛。その巨体にひるんだ真希の服を、あっという間にくちばしで破いた。
「きゃあぁ!」
今までに増す悲鳴をあげた真希を振り返り、
「ふっ、ダサイ下着だ」
と魔王が呟いた。
悲鳴を聞きつけて、階下から足音が近付くが、美紗たちは構わず落書きを続ける。
「どうしたの、真希ちゃん!」
部屋に飛び込んだのは、ちょうど遊びに来た明美だった。大混乱の室内を目にした途端、悲鳴も息も呑み込んで廊下に尻餅をついた。
「おぬし、ちょうどいいところに来たな」
美紗の頭上で明美に向き直った魔王を指さし、口をぱくぱくさせるので、
「かっこわるいからやめてよ、明美」
と真希に嫌な顔をされた。
「この便箋を探していたようだな」
便箋と封筒を束にして、魔王は小さな体で旗みたいに振ってみせる。明美は、どうして、と呟いたようだ。
「なかなか趣味の悪い便箋だ。さすが、そこの女に恋をしているだけのことはある」
魔王の言葉を聞きつけて、美紗たちから写真を取り返そうと奮闘していた真希は、言葉を失った。明美は、違う違うと必死で手を振るが、恥ずかしいのか怒っているのか、顔が真っ赤なのでまるで信憑性がない。必死で笑いをこらえている魔王に明美は消え入りそうな声で、
「返してください」
とだけ言った。
「いいだろう。ほれ」
と、魔王は一枚だけを床に落とした。明美が慌てて拾い上げた便箋には、血塗られた字で、魔王の身長よりも大きく、「I Loveみさ」とつづられている。明美が目を見開いたのを見て、魔王は、くははっと大喜び。
「もう少し返してやろうか」
と二枚三枚落っことす。どれもこれも、赤黒い液でどろりと「I Loveみさ」。
ついにすべての写真を真希に奪還されて、つまらなそうに顔をあげた美紗は、床に散らばる便箋に気が付いて、目を輝かせた。一枚を手に取り、
「なんて素敵な字体! 色もとってもきれい。それにこの匂い、お刺身みたいにかぐわしい匂いがする……」
便箋を顔に近付けうっとりとする。
「気に入ったか?」
「うん、とっても! この熊柄の便箋は好きじゃないけど」
「熊は臭いからな」
と、二人してディ●ニーキャラクターをこき下ろす。
「あたしもお礼に書いてあげるね!」
と、魔王が抱える便箋を一枚手に取り、真希のペンを勝手に借りると、血塗られた字体を懸命にまねて、「愛らぶ魔王ちゃん♥」、封筒まで勝手に使い、黒飛の頭に座った魔王に手渡す。
「勝手に使わないでよ。それ真希ちゃんからのプレゼントなんだよ」
後ろでぼそぼそ言う声は完全に無視。だが、太い針のような真希の言葉は、放っておけなかった。
「やめな、明美。友だちいない歴十一年のやつに分かるわけないから。あれ? 十二年に更新されたんだっけ?」
狐に似た、きれいだけどいじわるい目が笑っている。美紗は精一杯怖い目をしてにらんだ。
「誕生日は明日だもん」
パーティーは、お父さんもお母さんも仕事がない日曜日に開いたから、プレゼントの色鉛筆も昨日もらったのだ。
「あと一日じゃどうなるものでもないでしょ」
鼻で笑って振り返り、真希はいやぁ、と叫んだ。美紗と河童から取り返して、部屋の隅に重ねておいた岡野くんの写真に、一つ目烏がフンをしていた。美紗はすぐに笑い声を取り戻す。
地上が珍しいのか、窓から身を乗り出していた河太郎が、
「何やら人が集まってきましたなあ」
と、感心したような声を出す。悲鳴と騒音を聞きつけて、通りがかる人が何事かと上を見上げる。そのままとどまる人もあり、次第に人垣が大きくなると、近所の住人までもがわざわざ家から出てきて見上げ、人垣は大きくなるばかり。みな、何かがなくなり探すうち、災難に遭ったのが自分だけではないと知るのだろう。町には台風のときみたいな国政選挙のときのような、もしくはオリンピックのときみたいな非日常の空気が流れ出していた。
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