何様?俺様、お兄様〜義兄に落ちる10のステップ〜

桜屋敷 櫻子

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Step1

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 スッと御沙希さんの手……らしきものが、私の頬を撫でた。ゴツゴツしていて、大きな手。細くて長い指が唇に触れて、まるでキスでもされているような気分になる。そういった意味合いでの接触だと、泥酔していても分かる。拒否する気にはなれなかった。寂しくて、辛くて、自業自得なのに、誰かに縋りたかった。マスターがもう一度、御沙希さんに注意をする。良くない、と。



 しかし、私の方がマスターに言葉を返してしまった。いいんです、と。呂律が回っていない私に、マスターは溜め息を吐きながら新しいカクテルを差し出した。これが最後の一杯だからね。そう言ってマスターが私に出してくれたカクテルは、キラキラして見えた。涙のせいだった。御沙希さんが、私の肩を抱く。突然のことに驚いたけど、やはり、拒否する気にはなれなかった。



 御沙希さんのフレグランスが、香る。花と柑橘を混ぜたような、不思議な香り。





 「失恋?」



 「……はい」



 「似たようなもんだわ」





 傷心中。そう言いながら私から離れた御沙希さんは、ちっとも傷心中には見えなかった。涙で歪んだ私の視界に映る御沙希さんは悪戯に微笑んでいる。新しい玩具を見つけた、とばかりに。そして、私の手からカクテルを奪っていく。そのカクテルを一気に飲み干して、御沙希さんはマスターに呆れられる。悪酔いするよ、と。



 御沙希さんは水でも飲み干したかのような顔で、マスターに、特濃一杯、と言う。やれやれ、とマスターは新しいカクテルを作る。シェイカーを振るうマスターをぼんやりと見ながら、私は少しだけ冷静になって考えていた。失礼だけど、こんな個人経営の怪しいバーで泥酔しながら見知らぬ男性に口説かれるとは、何も学習していないんじゃないだろうか、私は。隣の席の御沙希という男に良いようにされて、はい、おしまい。



 オチが見えている。見え見え過ぎる。





 「……あの、私、帰りますね」



 「そんなデロデロで帰れんの?」



 「えーっと……」





 そんなデロデロで。言われてしまうと、何も言い返せない。そして、御沙希さんはマスターから特濃のカクテルを受け取り、一口、口に含むと、私の腕を引っ張った。御沙希さんと顔が近付いた、と思ったら、次の瞬間には口付けられていた。そして、口移しでカクテルを飲ませられる。濃くて、甘くて、カクテルの酔いはすぐに回った。御沙希さんの声が妙に響いて聞こえる。俺がおかわり奪っちゃったからお詫び、と。





 「なぁ、お前、名前は?」



 「ん、……みさき」



 「俺の名前じゃねぇって」



 「わたしも、みさき」





 マスターが吹き出した。御沙希さんがマスターを睨む。



 御沙希さんが、しっかりと私の身体を抱く。酔いが醒めるまで、俺が介抱してやるよ。そんな言葉がぐわんぐわんと響いて聞こえる。マスターの声も聞こえた。火遊びを火種にしてどうするんだい。火遊び?火種?一つだけ分かっていることがある。御沙希さんに口移しで飲まされた特濃のカクテルは、私には強過ぎた。



 もう、何も考えられなくなくなってきた。
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