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2章 領都
14 ジョシュア
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「ほうほう、君があの食事を作ったという人間か、思っていたよりも若いな。……いやいや、やはり既成概念を打ち破るには若さも必要ということかもしれんな」
部屋に入って自己紹介をしたら、すぐにもこんな感じに話しかけられた。
この人はジョシュアさん、シェリルバイト子爵家の当主でレイジとミーナが生まれ育った村もシェリルバイト子爵領に属しているらしい。
要するに、調合師やウィリアムさんの直属の上司というか雇い主だ。
「いえいえ、若輩者でお恥ずかしい限りです。高貴な方とお話しするのも初めてのことですので不快な言動があるかもしれませんが広い心で見逃していただければ幸いです」
「いやなに、どうしてなかなか話せるじゃないか、謙遜することはないよ。それに君の作った食事……料理、とか言ったかね。普段食べている野菜があれほど複雑な味わいになるだなんて素晴らしい発見だよ」
「すべては神様のお導きですので、感謝も賞賛も神様に捧げるべきものかと」
正直、神様がくれた食堂と異界のレシピがなければ俺はこの世界では粉ふきいも一つまともには作れなかっただろうしな。
何より、食材鑑定が使えなかったら斑芋の毒で早々に死んでいただろうな。
「ふむ、神様か。ウィリアムからも聞いていたが本当に神の加護持ちなのか」
「ええ、それは見たこともない食事、見たこともない食器を見ていただければ理解していただけるかと」
この世界には野菜に熱を通すなんて考えはないし、金属製のカトラリーや調合用とは違う形の鍋など存在もしないはずだ。
「まあ、そうだな。私も領主などを長くやってはいるがあんなカトラリーは見たこともないし、食事至っては聞いたこともない。そして、ウィリアムから聞いたのだが、あの食事を食べると能力が上がるとか」
「ええ、神様の狙いとしては食事の質を向上させるのもそうなのですが、この世界の人間の能力値が低すぎることも危惧していたのです」
「なるほどなあ。ということは君たちは私よりも能力が高いということかね」
『個体名:ジョシュア・シェリルバイト 種族:人間 性別:男 年齢:四十三歳 天職:騎士 食用:可 雑食性のために臭みがあることが多い。食用可能だが臭み取りに時間と手間がかかる。同種族の食肉は禁忌とされているので推奨はしない
ステータス 力:1 素早さ:1 頑健さ:2 器用:48 知力:23 運:1』
確認のために食材鑑定してみればジョシュアさんの鑑定結果はこんな感じだ。
器用が高いのは緑菜をはじめとした野菜を食べているからか、知力が高いのは何が原因かまだ分からないが、ウィリアムさんと村長も知力は村の人間よりも高かったから上流階級の人間だけが口にできる食材に知力を高めるものがあるんだろうな。
「力、素早さだけで言えばジョシュア様よりもここにいるレイジとミーナのほうが高いようです。残念ながら、私には天職もなければ能力も上がらないので私自身が証明することはできないのですが……」
「よいよい、それもウィリアムから聞いておる。……レイジ君といったね、私と少し力比べをしてもらっても構わないかね」
「……えっと」
「レイジ、頼む」
とはいえ、明らかに権力者であるジョシュアさんとレイジが腕相撲をするわけにもいかないのでレイジにはその場で手を前に出して立ってもらって、ジョシュアさんにはレイジの手を押す形での力比べになった。
現役の領主で騎士の天職持ち、この世界の権力者は領地の人間を魔獣や獣から守る役割があるので下手をしたら騎士団長の役職をもらっているウィリアムさんよりも戦闘能力は高いらしい。
騎士団長のほうは戦闘系の天職を持っている騎士を取りまとめるのが役目になるので、天職が戦闘指揮とか軍師の人間がなるらしい。
「ではゆくぞ、レイジ君」
「はい、いつでもどうぞ」
身長にしても二、三十センチは違うし、明らかに大人と子供の力比べといった感じだが、普通とは明らかに違う点がある。
顔を真っ赤にしているのは身長も体格も優れているジョシュアさんで、レイジのほうは困惑しているような表情でその場から一歩も動かない。
「……むむむぅぅっ!!」
むきになっているのだろうが、前に進もうと足をバタバタさせているのは貴族としてはどうなんだろうか。
「ジョシュア様、そのくらいにしておくべきかと。……領主として、それ以前に大人として、していい顔ではありませんよ」
まあ、顔を真っ赤にして鼻息荒くなっている状態は成人した子供のいる大人が人前でしていい表情ではないだろうな。
「……はあっはあっはあっ。……ウィリアムから聞いてはいたが、これほどに力の差があるとはな」
「レイジの力は今や10ですからね、力が1しかないジョシュア様では到底かなわないでしょう」
ちなみに、ウィリアムさんを含めた村まで来た騎士の人たちは力のステータスは3まで成長している。
これまでの全員の傾向を見るにステータス一桁台は簡単に上がるが、二桁になるとなかなか上がらない印象だ。
「マサト君、私の能力値は村からどこまで上がっていますか?」
ウィリアムさんがワクワクしたような表情で聞いてくる。
まあ、自分の能力値が分かるなんてゲームみたいで楽しいもんな。
「ウィリアムさんは……というか、村に来た騎士の人たちは全員、3まで上がっていますよ。村から領都までの道中、毎日のように肉を食べていた成果ですね」
ウィリアムさんはニコニコ笑顔だ、きっと領主様よりも力の能力値が高いのがうれしいのだろう。
「ふむ、ここまで力に差があると料理の力を信じるしかないな」
「ええ、信じていただけたならよかったです」
「ふむ、料理……料理な。……マサト君、領主として、いや、一人の親として君に頼みたいことがあるのだ」
「はい、なんでしょうか?」
領主として、はわかる。
きっと料理の仕方を教えてほしいとか領都に広めてほしいとかそんなことだろう。
だが、親としてってのはなんだ?
「ウィリアムから聞いてはいると思うが、この領主館には跡継ぎの長男以外にも三女が一緒に生活している。君にはわからない話かもしれないが、令嬢というのは十五にもなれば生家を出て婚約者の家に住み始めるものも珍しくはないのだ」
まあ、それは確かに俺にはわからない話だ。
前の世界の知識では十五どころか二十歳を過ぎても実家を出ない人も多いはずだし、なんだったら実家で一生を終える人もいるくらいなはずだ。
ただ、ここは前の世界とはまるで違う世界、常識もルールも違うのでそういうこともあるだろうという納得はできる。
「一人目の娘と二人目の娘は、私と妻の天職を受け継いでそれぞれ騎士と剣士の天職を持って生まれてきたから無事に嫁に出すことができた。跡継ぎの長男も騎士の天職だったので安心していたのだが、三人目の娘のイーリスはな、貴族としてあるまじき天職だったのだ」
「天職を持たない私にはわからない話ですが、領地を守る人間が領政に必要な天職を欲する気持ちはわかります」
「うむ、そのイーリスの天職だがな……料理人という天職なのだよ」
部屋に入って自己紹介をしたら、すぐにもこんな感じに話しかけられた。
この人はジョシュアさん、シェリルバイト子爵家の当主でレイジとミーナが生まれ育った村もシェリルバイト子爵領に属しているらしい。
要するに、調合師やウィリアムさんの直属の上司というか雇い主だ。
「いえいえ、若輩者でお恥ずかしい限りです。高貴な方とお話しするのも初めてのことですので不快な言動があるかもしれませんが広い心で見逃していただければ幸いです」
「いやなに、どうしてなかなか話せるじゃないか、謙遜することはないよ。それに君の作った食事……料理、とか言ったかね。普段食べている野菜があれほど複雑な味わいになるだなんて素晴らしい発見だよ」
「すべては神様のお導きですので、感謝も賞賛も神様に捧げるべきものかと」
正直、神様がくれた食堂と異界のレシピがなければ俺はこの世界では粉ふきいも一つまともには作れなかっただろうしな。
何より、食材鑑定が使えなかったら斑芋の毒で早々に死んでいただろうな。
「ふむ、神様か。ウィリアムからも聞いていたが本当に神の加護持ちなのか」
「ええ、それは見たこともない食事、見たこともない食器を見ていただければ理解していただけるかと」
この世界には野菜に熱を通すなんて考えはないし、金属製のカトラリーや調合用とは違う形の鍋など存在もしないはずだ。
「まあ、そうだな。私も領主などを長くやってはいるがあんなカトラリーは見たこともないし、食事至っては聞いたこともない。そして、ウィリアムから聞いたのだが、あの食事を食べると能力が上がるとか」
「ええ、神様の狙いとしては食事の質を向上させるのもそうなのですが、この世界の人間の能力値が低すぎることも危惧していたのです」
「なるほどなあ。ということは君たちは私よりも能力が高いということかね」
『個体名:ジョシュア・シェリルバイト 種族:人間 性別:男 年齢:四十三歳 天職:騎士 食用:可 雑食性のために臭みがあることが多い。食用可能だが臭み取りに時間と手間がかかる。同種族の食肉は禁忌とされているので推奨はしない
ステータス 力:1 素早さ:1 頑健さ:2 器用:48 知力:23 運:1』
確認のために食材鑑定してみればジョシュアさんの鑑定結果はこんな感じだ。
器用が高いのは緑菜をはじめとした野菜を食べているからか、知力が高いのは何が原因かまだ分からないが、ウィリアムさんと村長も知力は村の人間よりも高かったから上流階級の人間だけが口にできる食材に知力を高めるものがあるんだろうな。
「力、素早さだけで言えばジョシュア様よりもここにいるレイジとミーナのほうが高いようです。残念ながら、私には天職もなければ能力も上がらないので私自身が証明することはできないのですが……」
「よいよい、それもウィリアムから聞いておる。……レイジ君といったね、私と少し力比べをしてもらっても構わないかね」
「……えっと」
「レイジ、頼む」
とはいえ、明らかに権力者であるジョシュアさんとレイジが腕相撲をするわけにもいかないのでレイジにはその場で手を前に出して立ってもらって、ジョシュアさんにはレイジの手を押す形での力比べになった。
現役の領主で騎士の天職持ち、この世界の権力者は領地の人間を魔獣や獣から守る役割があるので下手をしたら騎士団長の役職をもらっているウィリアムさんよりも戦闘能力は高いらしい。
騎士団長のほうは戦闘系の天職を持っている騎士を取りまとめるのが役目になるので、天職が戦闘指揮とか軍師の人間がなるらしい。
「ではゆくぞ、レイジ君」
「はい、いつでもどうぞ」
身長にしても二、三十センチは違うし、明らかに大人と子供の力比べといった感じだが、普通とは明らかに違う点がある。
顔を真っ赤にしているのは身長も体格も優れているジョシュアさんで、レイジのほうは困惑しているような表情でその場から一歩も動かない。
「……むむむぅぅっ!!」
むきになっているのだろうが、前に進もうと足をバタバタさせているのは貴族としてはどうなんだろうか。
「ジョシュア様、そのくらいにしておくべきかと。……領主として、それ以前に大人として、していい顔ではありませんよ」
まあ、顔を真っ赤にして鼻息荒くなっている状態は成人した子供のいる大人が人前でしていい表情ではないだろうな。
「……はあっはあっはあっ。……ウィリアムから聞いてはいたが、これほどに力の差があるとはな」
「レイジの力は今や10ですからね、力が1しかないジョシュア様では到底かなわないでしょう」
ちなみに、ウィリアムさんを含めた村まで来た騎士の人たちは力のステータスは3まで成長している。
これまでの全員の傾向を見るにステータス一桁台は簡単に上がるが、二桁になるとなかなか上がらない印象だ。
「マサト君、私の能力値は村からどこまで上がっていますか?」
ウィリアムさんがワクワクしたような表情で聞いてくる。
まあ、自分の能力値が分かるなんてゲームみたいで楽しいもんな。
「ウィリアムさんは……というか、村に来た騎士の人たちは全員、3まで上がっていますよ。村から領都までの道中、毎日のように肉を食べていた成果ですね」
ウィリアムさんはニコニコ笑顔だ、きっと領主様よりも力の能力値が高いのがうれしいのだろう。
「ふむ、ここまで力に差があると料理の力を信じるしかないな」
「ええ、信じていただけたならよかったです」
「ふむ、料理……料理な。……マサト君、領主として、いや、一人の親として君に頼みたいことがあるのだ」
「はい、なんでしょうか?」
領主として、はわかる。
きっと料理の仕方を教えてほしいとか領都に広めてほしいとかそんなことだろう。
だが、親としてってのはなんだ?
「ウィリアムから聞いてはいると思うが、この領主館には跡継ぎの長男以外にも三女が一緒に生活している。君にはわからない話かもしれないが、令嬢というのは十五にもなれば生家を出て婚約者の家に住み始めるものも珍しくはないのだ」
まあ、それは確かに俺にはわからない話だ。
前の世界の知識では十五どころか二十歳を過ぎても実家を出ない人も多いはずだし、なんだったら実家で一生を終える人もいるくらいなはずだ。
ただ、ここは前の世界とはまるで違う世界、常識もルールも違うのでそういうこともあるだろうという納得はできる。
「一人目の娘と二人目の娘は、私と妻の天職を受け継いでそれぞれ騎士と剣士の天職を持って生まれてきたから無事に嫁に出すことができた。跡継ぎの長男も騎士の天職だったので安心していたのだが、三人目の娘のイーリスはな、貴族としてあるまじき天職だったのだ」
「天職を持たない私にはわからない話ですが、領地を守る人間が領政に必要な天職を欲する気持ちはわかります」
「うむ、そのイーリスの天職だがな……料理人という天職なのだよ」
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