料理を作って異世界改革

高坂ナツキ

文字の大きさ
51 / 150
2章 領都

14 ジョシュア

しおりを挟む
「ほうほう、君があの食事を作ったという人間か、思っていたよりも若いな。……いやいや、やはり既成概念を打ち破るには若さも必要ということかもしれんな」

 部屋に入って自己紹介をしたら、すぐにもこんな感じに話しかけられた。
 この人はジョシュアさん、シェリルバイト子爵家の当主でレイジとミーナが生まれ育った村もシェリルバイト子爵領に属しているらしい。
 要するに、調合師やウィリアムさんの直属の上司というか雇い主だ。

「いえいえ、若輩者でお恥ずかしい限りです。高貴な方とお話しするのも初めてのことですので不快な言動があるかもしれませんが広い心で見逃していただければ幸いです」

「いやなに、どうしてなかなか話せるじゃないか、謙遜することはないよ。それに君の作った食事……料理、とか言ったかね。普段食べている野菜があれほど複雑な味わいになるだなんて素晴らしい発見だよ」

「すべては神様のお導きですので、感謝も賞賛も神様に捧げるべきものかと」

 正直、神様がくれた食堂と異界のレシピがなければ俺はこの世界では粉ふきいも一つまともには作れなかっただろうしな。
 何より、食材鑑定が使えなかったら斑芋の毒で早々に死んでいただろうな。

「ふむ、神様か。ウィリアムからも聞いていたが本当に神の加護持ちなのか」

「ええ、それは見たこともない食事、見たこともない食器を見ていただければ理解していただけるかと」

 この世界には野菜に熱を通すなんて考えはないし、金属製のカトラリーや調合用とは違う形の鍋など存在もしないはずだ。

「まあ、そうだな。私も領主などを長くやってはいるがあんなカトラリーは見たこともないし、食事至っては聞いたこともない。そして、ウィリアムから聞いたのだが、あの食事を食べると能力が上がるとか」

「ええ、神様の狙いとしては食事の質を向上させるのもそうなのですが、この世界の人間の能力値が低すぎることも危惧していたのです」

「なるほどなあ。ということは君たちは私よりも能力が高いということかね」

『個体名:ジョシュア・シェリルバイト 種族:人間 性別:男 年齢:四十三歳 天職:騎士 食用:可 雑食性のために臭みがあることが多い。食用可能だが臭み取りに時間と手間がかかる。同種族の食肉は禁忌とされているので推奨はしない
ステータス 力:1 素早さ:1 頑健さ:2 器用:48 知力:23 運:1』

 確認のために食材鑑定してみればジョシュアさんの鑑定結果はこんな感じだ。
 器用が高いのは緑菜をはじめとした野菜を食べているからか、知力が高いのは何が原因かまだ分からないが、ウィリアムさんと村長も知力は村の人間よりも高かったから上流階級の人間だけが口にできる食材に知力を高めるものがあるんだろうな。

「力、素早さだけで言えばジョシュア様よりもここにいるレイジとミーナのほうが高いようです。残念ながら、私には天職もなければ能力も上がらないので私自身が証明することはできないのですが……」

「よいよい、それもウィリアムから聞いておる。……レイジ君といったね、私と少し力比べをしてもらっても構わないかね」

「……えっと」

「レイジ、頼む」

 とはいえ、明らかに権力者であるジョシュアさんとレイジが腕相撲をするわけにもいかないのでレイジにはその場で手を前に出して立ってもらって、ジョシュアさんにはレイジの手を押す形での力比べになった。
 現役の領主で騎士の天職持ち、この世界の権力者は領地の人間を魔獣や獣から守る役割があるので下手をしたら騎士団長の役職をもらっているウィリアムさんよりも戦闘能力は高いらしい。
 騎士団長のほうは戦闘系の天職を持っている騎士を取りまとめるのが役目になるので、天職が戦闘指揮とか軍師の人間がなるらしい。

「ではゆくぞ、レイジ君」

「はい、いつでもどうぞ」

 身長にしても二、三十センチは違うし、明らかに大人と子供の力比べといった感じだが、普通とは明らかに違う点がある。
 顔を真っ赤にしているのは身長も体格も優れているジョシュアさんで、レイジのほうは困惑しているような表情でその場から一歩も動かない。

「……むむむぅぅっ!!」

 むきになっているのだろうが、前に進もうと足をバタバタさせているのは貴族としてはどうなんだろうか。

「ジョシュア様、そのくらいにしておくべきかと。……領主として、それ以前に大人として、していい顔ではありませんよ」

 まあ、顔を真っ赤にして鼻息荒くなっている状態は成人した子供のいる大人が人前でしていい表情ではないだろうな。

「……はあっはあっはあっ。……ウィリアムから聞いてはいたが、これほどに力の差があるとはな」

「レイジの力は今や10ですからね、力が1しかないジョシュア様では到底かなわないでしょう」

 ちなみに、ウィリアムさんを含めた村まで来た騎士の人たちは力のステータスは3まで成長している。
 これまでの全員の傾向を見るにステータス一桁台は簡単に上がるが、二桁になるとなかなか上がらない印象だ。

「マサト君、私の能力値は村からどこまで上がっていますか?」

 ウィリアムさんがワクワクしたような表情で聞いてくる。
 まあ、自分の能力値が分かるなんてゲームみたいで楽しいもんな。

「ウィリアムさんは……というか、村に来た騎士の人たちは全員、3まで上がっていますよ。村から領都までの道中、毎日のように肉を食べていた成果ですね」

 ウィリアムさんはニコニコ笑顔だ、きっと領主様よりも力の能力値が高いのがうれしいのだろう。

「ふむ、ここまで力に差があると料理の力を信じるしかないな」

「ええ、信じていただけたならよかったです」

「ふむ、料理……料理な。……マサト君、領主として、いや、一人の親として君に頼みたいことがあるのだ」

「はい、なんでしょうか?」

 領主として、はわかる。
 きっと料理の仕方を教えてほしいとか領都に広めてほしいとかそんなことだろう。
 だが、親としてってのはなんだ?

「ウィリアムから聞いてはいると思うが、この領主館には跡継ぎの長男以外にも三女が一緒に生活している。君にはわからない話かもしれないが、令嬢というのは十五にもなれば生家を出て婚約者の家に住み始めるものも珍しくはないのだ」

 まあ、それは確かに俺にはわからない話だ。
 前の世界の知識では十五どころか二十歳を過ぎても実家を出ない人も多いはずだし、なんだったら実家で一生を終える人もいるくらいなはずだ。
 ただ、ここは前の世界とはまるで違う世界、常識もルールも違うのでそういうこともあるだろうという納得はできる。

「一人目の娘と二人目の娘は、私と妻の天職を受け継いでそれぞれ騎士と剣士の天職を持って生まれてきたから無事に嫁に出すことができた。跡継ぎの長男も騎士の天職だったので安心していたのだが、三人目の娘のイーリスはな、貴族としてあるまじき天職だったのだ」

「天職を持たない私にはわからない話ですが、領地を守る人間が領政に必要な天職を欲する気持ちはわかります」

「うむ、そのイーリスの天職だがな……料理人という天職なのだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...