3 / 14
王国編
03 今後についての家族会議
しおりを挟む
「お母様、私婚約破棄されましたっ!」
「あらあら、大変ね」
家に帰ってお母様に事の経緯を伝えると、なんともふわふわとした回答が返ってきたわ。
うちのお母様はおっとりというか、あんまり動揺しない性格でいつもふわふわしているのだけど、婚約破棄なんて重大事でもこの調子で居られるのは一種の才能だと思うのよね。
「だからね、私他国に行って魔導具づくりについて本格的に学びたいと思って」
「アイリスちゃんは昔から魔導具が好きだったものね」
そう、私が昔から趣味にしていた魔導具づくりだけれど、王子妃教育、成長してからは王子妃として課された執務の影響で趣味レベルでしか学んでこれなかった。
まあ、そもそも王国には魔導具づくりどころか一般教養の学園もないから学ぶには家庭教師を雇うしかないのだけど、割とマイナーな学問である魔導具関連にはまともな家庭教師がいないのよね。
「婚約破棄されたから、この国に対しての義務もなくなったし自分のやりたいことしたいな~って」
「良いと思うわ。でも、ジョージの意見も聞きたいわね」
「お父様には郵便用の魔導具で知らせておいたから、すぐにでも帰ってくると思うわ」
「あらあら、じゃあ詳しい話はその後ね」
婚約破棄されたパーティーはお昼過ぎに始まってわりと直ぐにあの滑稽なイベントが始まってしまったから、今は日が落ちる前。
お父様には馬車に乗る前に魔導具でお知らせしたから、もうじき帰ってくると思うのよね。
「旦那様が帰られました」
そんな風に考えていると、執事のクラウスがお父様の帰宅を告げてきた。
「今帰ったよ、サルビア、アイリス。アイリスは大変だったね」
「お帰りなさい、あなた」
「お帰りなさい、お父様。王城の方はどうでした?」
「陛下には婚約破棄については報告して、宰相職も辞職してきたよ」
「あらあら、じゃあ明日からはずっとあなたと一緒に居られるのね」
「ふふ、そうだな。最近は忙しくてめっきり二人きりになれなかったからな」
あらあら、本当に私の両親は今でもラブラブで羨ましい限りだわ。
「お父様、ではエンダーハイム家は」
「ああ、我が家の貴族位は陛下に返上してきたよ。明日からは……というよりも、今日からだな。今日からエンダーハイム家はただのエンダーハイムだ」
「よろしかったのですか?」
「元々、仕事をしていただけの祖父や父、私の功績で貰った爵位だからね。そこまでの思い入れはないよ」
まあ、お父様もお祖父様も……曽祖父は私が生まれる前に亡くなっていたからわからないけれど……貴族というよりも仕事人という意識で陛下に仕えていたものね。
「あらあら、じゃあ明日からはご婦人たちのお茶会にもいかなくていいのね」
お母様から喜色にまみれた声が聞こえてきました。
趣味のおかげで高位貴族ほどお母様に対して敵愾心を持ってはいないけれど、それでも宰相の妻としてお茶会に出ればチクチクと言われていたもの、喜ぶのは仕方がないわよね。
高位貴族、宰相などの重職もそうだけれど、その夫人はお茶会などであらゆる情報を収集したり、商談をまとめたりするのが仕事……お茶会って言うとお茶しておしゃべりしていると思っている平民が多いけど、重要な仕事なのよね。
私が成長するまでは慣れないなりにお母様が、王子妃として活動できるようになってきてからは私が諸々仕切っていたけれど、そういう面倒な仕事から解放されるのも貴族位を返上するメリットよね。
「まったく、うちには領地もなければ特産品もないというのにすり寄ってくるものが多くて、お前たちにも苦労を掛けたな」
お父様はこういうけれど、貴族たちがうちにすり寄ってきていたのはエンダーハイム家の人間の趣味の品々目当てでしょうね。
お父様は小説、お母様は花を育て、私は陛下がすべて持って行ってしまっていたけれど魔導具づくりが趣味。
お父様の小説は他国にもファンがいるほどの完成度で、お母様は栽培の難しい他国の花を栽培していたことで高位貴族にファンが多いのよね。
「ふふ、確かに苦労はしましたけれど権利を主張するのは義務を果たしてからがエンダーハイムの掟ですから、大丈夫ですよ」
お母様が言っている掟というのは貴族家の掟とは違って先祖代々の教えみたいなもので、ともすれば趣味に没頭してしまう我が家の血筋を戒めるものだ。
趣味に没頭したければ、仕事もきちんとしろという、まっとうな教え。
その点、王子としての仕事もせずにフラフラ遊び歩いていたあのバカ王子との婚約なんて元よりも無理だったのよね。
「まあ、これからは平民だ。趣味を仕事にすれば義務と同時に権利も主張できるようになるだろう。ついては、明日の朝一番でこの国から離れようと思う」
「明日の朝一番ですか? 早くないですか?」
「婚約破棄も爵位の返上も覆せるものではないが、時間をかければ邪魔や無理を通そうとする人間が出ないとも限らないからね。屋敷については商会を営んでいる従兄弟に譲ると手紙を書いたし、使用人についてはクラウスに通達するように伝えているよ」
あー、確かに王族が法律を曲げてくるとは思えないけれど、お父様が宰相を辞したことで下位貴族が騒ぎそうよね。
「でも国から離れるとしてどちらに行くのですか?」
「あなた、アイリスは魔導具づくりを本格的な学びたいそうなの。それも考慮に入れてくださる?」
「ふむ、家族で共和国に行くつもりだったのだが、アイリス、本当に魔導具づくりを本格的に学びたいのかい?」
「はい、今までは趣味の範疇でしたが、私の作った魔導具を幅広い人に活用してほしいですわ」
「ふむ、ならばアイリスは皇国に行かせるべきだな」
皇国……王国と共和国の間にある国で、守護神による加護を重要視する宗教国家ね。
「あら? 学ぶのなら共和国でもいいんじゃないかしら?」
「共和国にある高等学園は入学に学園に1年以上通って卒業した者という条件があるのだよ。共和国にある他の学園は入学に年齢制限があるから、アイリスの年齢だと他国の学園を卒業した方が早いだろう」
そうか、簡単に魔導具づくりを学びたいと言ったけれど、共和国でも魔導具なんてマイナーな学問を学ぶためには専門の高等学園に進むしかない。
王子妃教育で通常の貴族はおろか、他国の王族並みに知識がある私でも共和国の法律を曲げることは出来ないしね。
「じゃあ、アイリスちゃんと一緒に皇国に行くのね」
「いや、皇国にはアイリスだけで行って、私たちは共和国で地盤を固めるのが良いだろう。皇国の学園は全寮制で家族であっても休日くらいしか会えないし、飛び級制度というか単位が足りていれば1年で卒業できるからな」
確か皇国の学園は、入学時にテストを行い合格点を貰えなかった分野の単位を取得していく制度だったわね。
テストですべての単位を取得した生徒は1年間、自分の好きな授業を取ってもいいし、他のことをしていてもいい、学園への登校義務があるから1年間は通わなければならないけれど、優秀な人間ほど直ぐに卒業できる制度のはずだ。
「全寮制ということは、私1人で行くのですね」
「待ってください。お嬢様1人での生活など無理です、わたしも同行させてください」
あらら、私1人で皇国に行くつもりだったのだけれど、メイドのメリッサがついて来たいと言い出してしまったわ。
「私1人でも大丈夫よ?」
「お嬢様1人ではお料理もお掃除もできないではないですか」
「できないってことはないわよ。料理も掃除も専用の魔導具を作ったもの」
そう、私の趣味で作った魔導具には料理用の物や掃除用の物もあるのよ。
「どういうものか、確認させていただいても?」
「料理用の物はね、材料を入れるとパンが自動で出来上がるのよ!」
「材料……お嬢様、パンの材料をご存じで?」
「料理人のバートンに聞いたから大丈夫よ! 小麦粉と水、あとは塩でしょ」
私だって馬鹿じゃない。試運転の際にバートンに材料を用意してもらった時に確認済みよ。
「まあ、最低限のものはそれでできますが、お嬢様が食べていたパンには他にも材料が必要ですよ? それに、お嬢様、小麦粉には種類があることをご存じで?」
「種類?」
メリッサは何を言っているのかしら? 小麦粉と言えば、あの小麦粉でしょ、あの白い粉。
「はあ……お嬢様。小麦粉にはパンに向く種類、お菓子に向く種類、麺類に向く種類とあるのですよ」
「えっ!?」
「ふむ、確かにこの様子では1人にするのも心配だな」
「待って待って、お掃除用の魔導具なら大丈夫だから! 水をセットすれば自動で汚れを取ってくれるものでね」
「お嬢様、家具の中には水にさらしてはいけないものもありますが、それはご存じですよね?」
えっ!? 嘘!? お掃除って水をかけて汚れを落として拭けばいいんじゃないの!?
「その様子だと、掃除も1人では無理そうだな」
お父様が笑いをこらえながら言ってくるけど、絶対お父様も1人で掃除も料理もできないでしょっ!
「ですので、わたしがお嬢様についていきたいと思います」
「旦那様、使用人は全員、旦那様についていきたいとのことでまとまりました」
「ふむ、家族も含めて全員か?」
「はい、旦那様が望めばこのままお仕えし、仕事がなければ旦那様たちの傍で別の職につきたいと」
「ふむ、共和国でもそれなりの屋敷に住むつもりだし、皆にはこのまま仕えてもらえれば助かる。だが、アイリスが皇国に1年間住むことになってな」
「聞いておりました、学園の寮ですよね。確かあそこの寮は、使用人用の部屋がついているはずですし、何人か連れて行ってもよいのでは?」
待って待って、私の意見無視して勝手に話を進めないでよ! 確かに料理も掃除もできないけど……。
「お父様、私は1人で大丈夫です! 平民になったのだから何でも自分でやらないと!」
私の決意が伝わったのか、クラウスもメリッサも私の言葉に開いた口が塞がらない様ね、ポカンとしているわ。
「……お嬢様、差し出がましいようですが、平民だからと言って何でも1人でやる必要はないのですよ。私も執事という職業柄、ある程度の掃除は出来ますが料理はできません」
「……そうなの?」
あれ? でも、平民と言えば使用人を雇わずに生活しているのよね。
「平民は家族で協力して生活していますから、できる人ができることをやるということはありますが、全員が何でもできるわけではないですよ。独身で働いている者は料理は出来合いの物に頼る者も多いのですよ」
「では、私も学園でそうすればいいのね」
「アイリス、皇国の学園は貴族が多いから食材を分配されて寮でそれぞれ食事を作ることになっている。学園は中心街から少し離れているから、食事の度に店に行くのは不可能だぞ」
「では……」
「ですから、わたしをお連れ下さい。メイドですから、お掃除もお料理も、ある程度できるように仕込まれていますよ」
「ふむ、メリッサ1人では大変だろうし、他にも何人かつけるからその者たちと皇国の学園に通えばよい」
「む~~」
確かに今の私では1人で生活するのは無理かもしれない。
でも、絶対にいつか1人で生活できるようになって見せるから!
なんて言ったって、私のこれからの目標は自立した女になることなんだからね!
「あらあら、大変ね」
家に帰ってお母様に事の経緯を伝えると、なんともふわふわとした回答が返ってきたわ。
うちのお母様はおっとりというか、あんまり動揺しない性格でいつもふわふわしているのだけど、婚約破棄なんて重大事でもこの調子で居られるのは一種の才能だと思うのよね。
「だからね、私他国に行って魔導具づくりについて本格的に学びたいと思って」
「アイリスちゃんは昔から魔導具が好きだったものね」
そう、私が昔から趣味にしていた魔導具づくりだけれど、王子妃教育、成長してからは王子妃として課された執務の影響で趣味レベルでしか学んでこれなかった。
まあ、そもそも王国には魔導具づくりどころか一般教養の学園もないから学ぶには家庭教師を雇うしかないのだけど、割とマイナーな学問である魔導具関連にはまともな家庭教師がいないのよね。
「婚約破棄されたから、この国に対しての義務もなくなったし自分のやりたいことしたいな~って」
「良いと思うわ。でも、ジョージの意見も聞きたいわね」
「お父様には郵便用の魔導具で知らせておいたから、すぐにでも帰ってくると思うわ」
「あらあら、じゃあ詳しい話はその後ね」
婚約破棄されたパーティーはお昼過ぎに始まってわりと直ぐにあの滑稽なイベントが始まってしまったから、今は日が落ちる前。
お父様には馬車に乗る前に魔導具でお知らせしたから、もうじき帰ってくると思うのよね。
「旦那様が帰られました」
そんな風に考えていると、執事のクラウスがお父様の帰宅を告げてきた。
「今帰ったよ、サルビア、アイリス。アイリスは大変だったね」
「お帰りなさい、あなた」
「お帰りなさい、お父様。王城の方はどうでした?」
「陛下には婚約破棄については報告して、宰相職も辞職してきたよ」
「あらあら、じゃあ明日からはずっとあなたと一緒に居られるのね」
「ふふ、そうだな。最近は忙しくてめっきり二人きりになれなかったからな」
あらあら、本当に私の両親は今でもラブラブで羨ましい限りだわ。
「お父様、ではエンダーハイム家は」
「ああ、我が家の貴族位は陛下に返上してきたよ。明日からは……というよりも、今日からだな。今日からエンダーハイム家はただのエンダーハイムだ」
「よろしかったのですか?」
「元々、仕事をしていただけの祖父や父、私の功績で貰った爵位だからね。そこまでの思い入れはないよ」
まあ、お父様もお祖父様も……曽祖父は私が生まれる前に亡くなっていたからわからないけれど……貴族というよりも仕事人という意識で陛下に仕えていたものね。
「あらあら、じゃあ明日からはご婦人たちのお茶会にもいかなくていいのね」
お母様から喜色にまみれた声が聞こえてきました。
趣味のおかげで高位貴族ほどお母様に対して敵愾心を持ってはいないけれど、それでも宰相の妻としてお茶会に出ればチクチクと言われていたもの、喜ぶのは仕方がないわよね。
高位貴族、宰相などの重職もそうだけれど、その夫人はお茶会などであらゆる情報を収集したり、商談をまとめたりするのが仕事……お茶会って言うとお茶しておしゃべりしていると思っている平民が多いけど、重要な仕事なのよね。
私が成長するまでは慣れないなりにお母様が、王子妃として活動できるようになってきてからは私が諸々仕切っていたけれど、そういう面倒な仕事から解放されるのも貴族位を返上するメリットよね。
「まったく、うちには領地もなければ特産品もないというのにすり寄ってくるものが多くて、お前たちにも苦労を掛けたな」
お父様はこういうけれど、貴族たちがうちにすり寄ってきていたのはエンダーハイム家の人間の趣味の品々目当てでしょうね。
お父様は小説、お母様は花を育て、私は陛下がすべて持って行ってしまっていたけれど魔導具づくりが趣味。
お父様の小説は他国にもファンがいるほどの完成度で、お母様は栽培の難しい他国の花を栽培していたことで高位貴族にファンが多いのよね。
「ふふ、確かに苦労はしましたけれど権利を主張するのは義務を果たしてからがエンダーハイムの掟ですから、大丈夫ですよ」
お母様が言っている掟というのは貴族家の掟とは違って先祖代々の教えみたいなもので、ともすれば趣味に没頭してしまう我が家の血筋を戒めるものだ。
趣味に没頭したければ、仕事もきちんとしろという、まっとうな教え。
その点、王子としての仕事もせずにフラフラ遊び歩いていたあのバカ王子との婚約なんて元よりも無理だったのよね。
「まあ、これからは平民だ。趣味を仕事にすれば義務と同時に権利も主張できるようになるだろう。ついては、明日の朝一番でこの国から離れようと思う」
「明日の朝一番ですか? 早くないですか?」
「婚約破棄も爵位の返上も覆せるものではないが、時間をかければ邪魔や無理を通そうとする人間が出ないとも限らないからね。屋敷については商会を営んでいる従兄弟に譲ると手紙を書いたし、使用人についてはクラウスに通達するように伝えているよ」
あー、確かに王族が法律を曲げてくるとは思えないけれど、お父様が宰相を辞したことで下位貴族が騒ぎそうよね。
「でも国から離れるとしてどちらに行くのですか?」
「あなた、アイリスは魔導具づくりを本格的な学びたいそうなの。それも考慮に入れてくださる?」
「ふむ、家族で共和国に行くつもりだったのだが、アイリス、本当に魔導具づくりを本格的に学びたいのかい?」
「はい、今までは趣味の範疇でしたが、私の作った魔導具を幅広い人に活用してほしいですわ」
「ふむ、ならばアイリスは皇国に行かせるべきだな」
皇国……王国と共和国の間にある国で、守護神による加護を重要視する宗教国家ね。
「あら? 学ぶのなら共和国でもいいんじゃないかしら?」
「共和国にある高等学園は入学に学園に1年以上通って卒業した者という条件があるのだよ。共和国にある他の学園は入学に年齢制限があるから、アイリスの年齢だと他国の学園を卒業した方が早いだろう」
そうか、簡単に魔導具づくりを学びたいと言ったけれど、共和国でも魔導具なんてマイナーな学問を学ぶためには専門の高等学園に進むしかない。
王子妃教育で通常の貴族はおろか、他国の王族並みに知識がある私でも共和国の法律を曲げることは出来ないしね。
「じゃあ、アイリスちゃんと一緒に皇国に行くのね」
「いや、皇国にはアイリスだけで行って、私たちは共和国で地盤を固めるのが良いだろう。皇国の学園は全寮制で家族であっても休日くらいしか会えないし、飛び級制度というか単位が足りていれば1年で卒業できるからな」
確か皇国の学園は、入学時にテストを行い合格点を貰えなかった分野の単位を取得していく制度だったわね。
テストですべての単位を取得した生徒は1年間、自分の好きな授業を取ってもいいし、他のことをしていてもいい、学園への登校義務があるから1年間は通わなければならないけれど、優秀な人間ほど直ぐに卒業できる制度のはずだ。
「全寮制ということは、私1人で行くのですね」
「待ってください。お嬢様1人での生活など無理です、わたしも同行させてください」
あらら、私1人で皇国に行くつもりだったのだけれど、メイドのメリッサがついて来たいと言い出してしまったわ。
「私1人でも大丈夫よ?」
「お嬢様1人ではお料理もお掃除もできないではないですか」
「できないってことはないわよ。料理も掃除も専用の魔導具を作ったもの」
そう、私の趣味で作った魔導具には料理用の物や掃除用の物もあるのよ。
「どういうものか、確認させていただいても?」
「料理用の物はね、材料を入れるとパンが自動で出来上がるのよ!」
「材料……お嬢様、パンの材料をご存じで?」
「料理人のバートンに聞いたから大丈夫よ! 小麦粉と水、あとは塩でしょ」
私だって馬鹿じゃない。試運転の際にバートンに材料を用意してもらった時に確認済みよ。
「まあ、最低限のものはそれでできますが、お嬢様が食べていたパンには他にも材料が必要ですよ? それに、お嬢様、小麦粉には種類があることをご存じで?」
「種類?」
メリッサは何を言っているのかしら? 小麦粉と言えば、あの小麦粉でしょ、あの白い粉。
「はあ……お嬢様。小麦粉にはパンに向く種類、お菓子に向く種類、麺類に向く種類とあるのですよ」
「えっ!?」
「ふむ、確かにこの様子では1人にするのも心配だな」
「待って待って、お掃除用の魔導具なら大丈夫だから! 水をセットすれば自動で汚れを取ってくれるものでね」
「お嬢様、家具の中には水にさらしてはいけないものもありますが、それはご存じですよね?」
えっ!? 嘘!? お掃除って水をかけて汚れを落として拭けばいいんじゃないの!?
「その様子だと、掃除も1人では無理そうだな」
お父様が笑いをこらえながら言ってくるけど、絶対お父様も1人で掃除も料理もできないでしょっ!
「ですので、わたしがお嬢様についていきたいと思います」
「旦那様、使用人は全員、旦那様についていきたいとのことでまとまりました」
「ふむ、家族も含めて全員か?」
「はい、旦那様が望めばこのままお仕えし、仕事がなければ旦那様たちの傍で別の職につきたいと」
「ふむ、共和国でもそれなりの屋敷に住むつもりだし、皆にはこのまま仕えてもらえれば助かる。だが、アイリスが皇国に1年間住むことになってな」
「聞いておりました、学園の寮ですよね。確かあそこの寮は、使用人用の部屋がついているはずですし、何人か連れて行ってもよいのでは?」
待って待って、私の意見無視して勝手に話を進めないでよ! 確かに料理も掃除もできないけど……。
「お父様、私は1人で大丈夫です! 平民になったのだから何でも自分でやらないと!」
私の決意が伝わったのか、クラウスもメリッサも私の言葉に開いた口が塞がらない様ね、ポカンとしているわ。
「……お嬢様、差し出がましいようですが、平民だからと言って何でも1人でやる必要はないのですよ。私も執事という職業柄、ある程度の掃除は出来ますが料理はできません」
「……そうなの?」
あれ? でも、平民と言えば使用人を雇わずに生活しているのよね。
「平民は家族で協力して生活していますから、できる人ができることをやるということはありますが、全員が何でもできるわけではないですよ。独身で働いている者は料理は出来合いの物に頼る者も多いのですよ」
「では、私も学園でそうすればいいのね」
「アイリス、皇国の学園は貴族が多いから食材を分配されて寮でそれぞれ食事を作ることになっている。学園は中心街から少し離れているから、食事の度に店に行くのは不可能だぞ」
「では……」
「ですから、わたしをお連れ下さい。メイドですから、お掃除もお料理も、ある程度できるように仕込まれていますよ」
「ふむ、メリッサ1人では大変だろうし、他にも何人かつけるからその者たちと皇国の学園に通えばよい」
「む~~」
確かに今の私では1人で生活するのは無理かもしれない。
でも、絶対にいつか1人で生活できるようになって見せるから!
なんて言ったって、私のこれからの目標は自立した女になることなんだからね!
2,237
あなたにおすすめの小説
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
残念ながら、契約したので婚約破棄は絶対です~前の関係に戻るべきだと喚いても、戻すことは不可能ですよ~
キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突き付けられたアンリエッタ。彼女は、公爵家の長男ランドリックとの結婚を間近に控えていた。
結婚日も決まっていた直前になって、婚約者のランドリックが婚約を破棄したいと言い出した。そんな彼は、本気で愛する相手が居ることを明かした。
婚約相手だったアンリエッタではなく、本気で愛している女性レイティアと一緒になりたいと口にする。
お前など愛していなかった、だから婚約を破棄するんだ。傲慢な態度で煽ってくるランドリック。その展開は、アンリエッタの予想通りだと気付かないまま。
婚約を破棄した後、愛する女性と必ず結婚することを誓う。そんな内容の契約書にサインを求めるアンリエッタ。内容をよく確認しないまま、ランドリックはサインをした。
こうして、婚約関係だった2人は簡単に取り消すことの出来ない、精霊の力を用いた特殊な契約を成立させるのだった。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる