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「そういえば咲良ちゃんは部活には入るつもり? 一応うちは進学校だから部活の加入は強制じゃないんだけど……」
いつまでも泣きまねを続けていても仕方ないと思ったのか重吾は思い出したかのように咲良へと質問をぶつける。
「あ、いえ実は一人暮らしなので部活には入らない予定なんですよ」
「なるほど。では、この場の四人は帰宅部同盟というわけだね」
「俺は同盟を組んだ覚えはないけれどな。それにこの学校じゃ部活に精を出している生徒の方が珍しいだろ」
「諒真さんも帰宅部なんですか?」
「え、……ああそうだけど」
「じゃあ、今日の放課後に学校の中を詳しく案内していただけませんか?」
咲良は笑顔を浮かべながら諒真に尋ねる。
「ああ、いいよ……」
その笑顔には有無を言わせぬ迫力があり、思わず諒真は了承する。とは言っても、教師に案内を頼まれていたということもあり咲良が言ってこなければ諒真の方から切り出していたことだ。
「それがいいね、ボクは用事があるから付き合うことはできないがその分諒真にいろいろ教わると良い」
「オレも今日は塾があるから付き合えないんだ、悪いね二人とも」
彩夏と重吾は咲良の様子に何かを感じ取ったのか、各々用事がある旨を伝える。
「では、諒真さん。放課後にお願いしますね」
咲良はダメ押しと言わんばかりに諒真に約束を取り付ける。ほどなく予鈴が鳴り響き、四人はそれぞれの食器を片付けると足早に教室へと戻ることにする。
昼も過ぎれば転入生への熱も流石に冷めるのか、午後は午前中には咲良のそばにもクラスメイトは寄ってこず穏やかに時間が過ぎていく。
帰りのホームルームが終わると、彩夏と重吾はそれぞれ諒真と咲良に挨拶をすると颯爽と帰っていく。
「じゃあ、校内を案内しようか?」
そう諒真が声をかけると咲良は心底うれしい様子でうなずく。
とはいっても、部活動に入るつもりのない咲良に案内するところなどそう多くもなく案内は小一時間もすればほとんど終了する。
授業で使う特別教室や昼は使わなかった購買の位置、更には体育館やこれから使うことになるプールなどを案内し、最後には屋上にまでやってきた。
雨はすでにやんでいたが屋上にはいくつかの水たまりができており、二人はそれを避けるように歩みを進める。
「ところで、芦沢さんはどうしてこの学校に転入してきたのかな?」
周囲に人がいないことを確認してから諒真はようやく今日一日聞きたくてたまらなかった質問をする。
すると、咲良は少し悩んだそぶりをしながらフェンスの近くまで寄っていく。
「もしかして、諒真さんは私が昨日のことを受けてこの学校にやってきたと思ってますか?」
「……昨日の今日だからね。それ以外の理由を思いつくのはちょっと難しいと思うよ」
「それは違うんです。私はもともとこの学校へと転入してくるつもりだったんですよ」
慌てたように咲良は諒真からの質問へと答えを返す。
「そうなの?」
「はい。もちろん諒真さんのクラスへとやってきたことは偶然ではないんですけど、始業式にはこの学校に転入してくる予定でいたんです」
「やっぱり俺のクラスに入ってきたことは偶然じゃなかったのか」
「それはやっぱり蘇ったばかりですからね。なるべく近くにいた方が何かあった時に便利ですから、学校の関係者の人たちにお願いして無理を聞いてもらったですよ。もともとこの学校には研究所の方からいくらかの資金援助が出てるので無理が効きやすいんです」
「なるほど、無理が効くから始業式から一週間たった今でも普通に転入してこられたってわけか」
「もちろん最初は始業式に間に合うように準備をしていたんですよ? でも、こっちに来てからも事件の調査などで時間を取られてしまって……」
咲良は不本意だと言わんばかりに言い訳を重ねる。
「そばにいる理由の何かあった時に便利って、芦沢さんはこれから何かが起きると思ってるの?」
それは純粋な疑問。一度死んでいる身としては無事とは言いづらいもこうして何事もなく学校生活に戻れている。そんな中これ以上何かが起きるとは諒真には到底思えなかった。
「それはわかりません。……でも、同じ境遇の仲間にもしものことがあった時に少しの努力不足で後悔するのは嫌ですから」
「そっか、それなら……うん、納得も理解もできるかな」
諒真は今日一日咲良と接していて、初めて得心が言ったという表情を浮かべる。
もちろん咲良の言ってることもやっていることもそのすべてが理解できるわけではないが、自分にとって大切な人のために後悔のしないような選択を取りたいというのは諒真自身共感の出来る答えだった。
「では、これからどれほどのお付き合いになるかわかりませんがこれからもよろしくお願いしますね」
「うん。俺の方こそこれからもよろしく」
そう言い合い、二人は校内の見学を終わらせ帰路へとつく。
「そういえば、芦沢さんはどの辺から通ってきているの?」
校門までやってきた時に不意に諒真の口から突いて出た言葉。もちろん家の正確な場所を聞き出そうとするものではなく方角が同じなら途中まででも一緒に帰ろうという提案だったのだが。
「諒真さんの家と同じ方角ですので一緒になりますね」
と、今日一日で随分と見慣れたにこやかな笑顔でそう返された。多少の引っ掛かりを覚えつつも女子の自宅の場所を詳しく聞いてセクハラだと言われるのも嫌だったのであいまいな笑みを浮かべつつ、
「そう? じゃあ、別れるまでは一緒に行こうか」
などと無難なこと言うしかなかった。
しかしその後も咲良が自分から分かれる気配はなくバス、電車を乗り継ぎ諒真の自宅のある駅までついてしまった。
「まだ、一緒の方角かな?」
「はい、まだ一緒ですので諒真さんについていきますよ」
恐る恐るといった具合に質問をしてみるも笑顔でまだ一緒だと答えられてしまった。咲良の笑顔には有無を言わせぬ迫力があるので諒真は深く聞き出すこともできずに先行する。
最寄りの駅から諒真の自宅があるマンションまでは一本道であり迷うこともなく自宅へと着いてしまう。
「ええと、俺はこのマンションに住んでるんだけど……」
もしかして……という思いを胸に諒真はここが自分の目的地だと告げる。
「偶然ですね、私も今日からこのマンションに住むことになってるんです」
偶然という言葉を強調してはいたが、おそらくこの言葉は嘘だろう。諒真の直感はそう告げていた。もちろんその直感は諒真のクラスへと転入してきたという前科があるからに違いない。
「…………偶然……なんだよね?」
「…………ごめんなさい」
申し訳ないといった様子で咲良が謝る。
「そうだよね、だってこのマンションは3LDKでどう考えても一人暮らしの学生が住むような場所じゃないもんね」
「……はい。……昨日の夜に研究所に帰ってきた所長が喜々とした表情で、咲良ちゃんの新しい住居が決まったよ。と言ってきて、そのまま引越しが始まってしまったんです」
「……ええと、……それは」
「もちろん日本へとやってきた時点で一人暮らしを始めるつもりで準備はしていたんです。だから、一人暮らしをするのは別に良かったんですけど……」
咲良は申し訳なさと恥ずかしさでいっぱい問でもいうような表情で言い訳を重ねる。
「まあでも、近くに知り合いがいるのは心強いかもね。……ところで、俺の部屋は303なんだけど芦沢さんは?」
「……その、304だと聞いてます……」
「…………そっか、隣か……それは心強いね」
ここまで来たらいっそ清々しいと思う反面、この状況を作り出したブライアンの笑顔を思い浮かべるとうすら寒いものを感じる。
「ですので、これからは学校と私生活と色々頼りにさせていただくかとは思いますがよろしくお願いします……ね」
「うん、そうだね。こちらこそこれからもよろしく」
宣言した通り、諒真が自宅の前まで行くとその隣の部屋へと咲良は入っていく。諒真の記憶では確かに今朝までは空き部屋だったはずだがどうやったのか昨日のうちに契約を結び今日学校に行っている間に引っ越し作業を完了させたのであろう。
いつまでも泣きまねを続けていても仕方ないと思ったのか重吾は思い出したかのように咲良へと質問をぶつける。
「あ、いえ実は一人暮らしなので部活には入らない予定なんですよ」
「なるほど。では、この場の四人は帰宅部同盟というわけだね」
「俺は同盟を組んだ覚えはないけれどな。それにこの学校じゃ部活に精を出している生徒の方が珍しいだろ」
「諒真さんも帰宅部なんですか?」
「え、……ああそうだけど」
「じゃあ、今日の放課後に学校の中を詳しく案内していただけませんか?」
咲良は笑顔を浮かべながら諒真に尋ねる。
「ああ、いいよ……」
その笑顔には有無を言わせぬ迫力があり、思わず諒真は了承する。とは言っても、教師に案内を頼まれていたということもあり咲良が言ってこなければ諒真の方から切り出していたことだ。
「それがいいね、ボクは用事があるから付き合うことはできないがその分諒真にいろいろ教わると良い」
「オレも今日は塾があるから付き合えないんだ、悪いね二人とも」
彩夏と重吾は咲良の様子に何かを感じ取ったのか、各々用事がある旨を伝える。
「では、諒真さん。放課後にお願いしますね」
咲良はダメ押しと言わんばかりに諒真に約束を取り付ける。ほどなく予鈴が鳴り響き、四人はそれぞれの食器を片付けると足早に教室へと戻ることにする。
昼も過ぎれば転入生への熱も流石に冷めるのか、午後は午前中には咲良のそばにもクラスメイトは寄ってこず穏やかに時間が過ぎていく。
帰りのホームルームが終わると、彩夏と重吾はそれぞれ諒真と咲良に挨拶をすると颯爽と帰っていく。
「じゃあ、校内を案内しようか?」
そう諒真が声をかけると咲良は心底うれしい様子でうなずく。
とはいっても、部活動に入るつもりのない咲良に案内するところなどそう多くもなく案内は小一時間もすればほとんど終了する。
授業で使う特別教室や昼は使わなかった購買の位置、更には体育館やこれから使うことになるプールなどを案内し、最後には屋上にまでやってきた。
雨はすでにやんでいたが屋上にはいくつかの水たまりができており、二人はそれを避けるように歩みを進める。
「ところで、芦沢さんはどうしてこの学校に転入してきたのかな?」
周囲に人がいないことを確認してから諒真はようやく今日一日聞きたくてたまらなかった質問をする。
すると、咲良は少し悩んだそぶりをしながらフェンスの近くまで寄っていく。
「もしかして、諒真さんは私が昨日のことを受けてこの学校にやってきたと思ってますか?」
「……昨日の今日だからね。それ以外の理由を思いつくのはちょっと難しいと思うよ」
「それは違うんです。私はもともとこの学校へと転入してくるつもりだったんですよ」
慌てたように咲良は諒真からの質問へと答えを返す。
「そうなの?」
「はい。もちろん諒真さんのクラスへとやってきたことは偶然ではないんですけど、始業式にはこの学校に転入してくる予定でいたんです」
「やっぱり俺のクラスに入ってきたことは偶然じゃなかったのか」
「それはやっぱり蘇ったばかりですからね。なるべく近くにいた方が何かあった時に便利ですから、学校の関係者の人たちにお願いして無理を聞いてもらったですよ。もともとこの学校には研究所の方からいくらかの資金援助が出てるので無理が効きやすいんです」
「なるほど、無理が効くから始業式から一週間たった今でも普通に転入してこられたってわけか」
「もちろん最初は始業式に間に合うように準備をしていたんですよ? でも、こっちに来てからも事件の調査などで時間を取られてしまって……」
咲良は不本意だと言わんばかりに言い訳を重ねる。
「そばにいる理由の何かあった時に便利って、芦沢さんはこれから何かが起きると思ってるの?」
それは純粋な疑問。一度死んでいる身としては無事とは言いづらいもこうして何事もなく学校生活に戻れている。そんな中これ以上何かが起きるとは諒真には到底思えなかった。
「それはわかりません。……でも、同じ境遇の仲間にもしものことがあった時に少しの努力不足で後悔するのは嫌ですから」
「そっか、それなら……うん、納得も理解もできるかな」
諒真は今日一日咲良と接していて、初めて得心が言ったという表情を浮かべる。
もちろん咲良の言ってることもやっていることもそのすべてが理解できるわけではないが、自分にとって大切な人のために後悔のしないような選択を取りたいというのは諒真自身共感の出来る答えだった。
「では、これからどれほどのお付き合いになるかわかりませんがこれからもよろしくお願いしますね」
「うん。俺の方こそこれからもよろしく」
そう言い合い、二人は校内の見学を終わらせ帰路へとつく。
「そういえば、芦沢さんはどの辺から通ってきているの?」
校門までやってきた時に不意に諒真の口から突いて出た言葉。もちろん家の正確な場所を聞き出そうとするものではなく方角が同じなら途中まででも一緒に帰ろうという提案だったのだが。
「諒真さんの家と同じ方角ですので一緒になりますね」
と、今日一日で随分と見慣れたにこやかな笑顔でそう返された。多少の引っ掛かりを覚えつつも女子の自宅の場所を詳しく聞いてセクハラだと言われるのも嫌だったのであいまいな笑みを浮かべつつ、
「そう? じゃあ、別れるまでは一緒に行こうか」
などと無難なこと言うしかなかった。
しかしその後も咲良が自分から分かれる気配はなくバス、電車を乗り継ぎ諒真の自宅のある駅までついてしまった。
「まだ、一緒の方角かな?」
「はい、まだ一緒ですので諒真さんについていきますよ」
恐る恐るといった具合に質問をしてみるも笑顔でまだ一緒だと答えられてしまった。咲良の笑顔には有無を言わせぬ迫力があるので諒真は深く聞き出すこともできずに先行する。
最寄りの駅から諒真の自宅があるマンションまでは一本道であり迷うこともなく自宅へと着いてしまう。
「ええと、俺はこのマンションに住んでるんだけど……」
もしかして……という思いを胸に諒真はここが自分の目的地だと告げる。
「偶然ですね、私も今日からこのマンションに住むことになってるんです」
偶然という言葉を強調してはいたが、おそらくこの言葉は嘘だろう。諒真の直感はそう告げていた。もちろんその直感は諒真のクラスへと転入してきたという前科があるからに違いない。
「…………偶然……なんだよね?」
「…………ごめんなさい」
申し訳ないといった様子で咲良が謝る。
「そうだよね、だってこのマンションは3LDKでどう考えても一人暮らしの学生が住むような場所じゃないもんね」
「……はい。……昨日の夜に研究所に帰ってきた所長が喜々とした表情で、咲良ちゃんの新しい住居が決まったよ。と言ってきて、そのまま引越しが始まってしまったんです」
「……ええと、……それは」
「もちろん日本へとやってきた時点で一人暮らしを始めるつもりで準備はしていたんです。だから、一人暮らしをするのは別に良かったんですけど……」
咲良は申し訳なさと恥ずかしさでいっぱい問でもいうような表情で言い訳を重ねる。
「まあでも、近くに知り合いがいるのは心強いかもね。……ところで、俺の部屋は303なんだけど芦沢さんは?」
「……その、304だと聞いてます……」
「…………そっか、隣か……それは心強いね」
ここまで来たらいっそ清々しいと思う反面、この状況を作り出したブライアンの笑顔を思い浮かべるとうすら寒いものを感じる。
「ですので、これからは学校と私生活と色々頼りにさせていただくかとは思いますがよろしくお願いします……ね」
「うん、そうだね。こちらこそこれからもよろしく」
宣言した通り、諒真が自宅の前まで行くとその隣の部屋へと咲良は入っていく。諒真の記憶では確かに今朝までは空き部屋だったはずだがどうやったのか昨日のうちに契約を結び今日学校に行っている間に引っ越し作業を完了させたのであろう。
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