ダストボックス~紙に書き記した想い

示彩 豊

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 瑩は咄嗟にウィッグの前髪を引き下げ、顔を隠すように俯いた。心臓が小さく跳ねる。大丈夫、ばれるはずはない。ここでは瑩は「捺」で、遼もまた、別人なのだから。
 笹本遼はこの店の常連だった。しかし、彼がカウンターで提示するのは、「笹本徹(ささもととおる)」と記された会員カードだ。二十五歳、男性。おそらく、彼の兄なのだろう。遼もまた、瑩と同じように、誰かの名前を借りてここにいる。違うのは、瑩が生活のために、遼がおそらくは禁じられた好奇心を満たすために、偽りの姿を纏っていることだ。
 会員登録の際、写真付きの証明書の提示は求められる。しかし、店員がその顔と本人の顔を熱心に見比べることは、まずない。一瞬の隙をついて、家族の免許証か何かを提示すれば、偽りの会員になることは容易い。
 遼が手に取っているのは、やはり盗撮系のDVDだった。彼はいつもそうだ。普通の作品には目もくれず、法に触れるような、倒錯的なタイトルのものばかりを選んでいく。瑩はアダルトDVDを棚に戻し終えると、足早にカウンターへ戻った。
 遼はまだ棚の前でDVDを選んでいる。
 カウンターに戻ると、いつの間にか隣に立っていた鴨志田が、ねっとりとした視線を向けてきた。瑩の素っ気ない態度が気に食わなかったのか、鴨志田はわざとらしく咳払いをした。
「草木さんさあ」
 ねっとりとした声で呼びかけられ、瑩は内心で身構えた。
「前に頼んだ合コンの話、どうなった? いい子、紹介できそう?」
 またその話か、と瑩はうんざりした。大学生だと偽っている手前、友人関係を邪推され、以前からしつこく合コンのセッティングを要求されていたのだ。
「すみません、あいにくそういう知り合いはいなくて……」
「またまたー。可愛いんだから友達いるでしょ? なんとかしてよ」
 しつこい要求に、瑩は黙り込んだ。その態度が気に食わなかったのか、鴨志田はちっと舌打ちする。
「まあいいや。それより、返却ボックスの整理、今日から君に任せるわ」
 アダルトDVDが多いことを知っていての、あからさまな嫌がらせだ。合コンの件を断ったことへの意趣返しも含まれているのだろう。そういう、小さい男だった。心の内で深いため息をつきながらも、瑩は表情を変えずに頷いた。
「分かりました」
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