ダストボックス~紙に書き記した想い

示彩 豊

文字の大きさ
3 / 4

#03

しおりを挟む
 気分は沈んだまま、それでも客の前では笑顔を作る。それが仕事だと割り切っていた。その時、遼がカウンターにやってきた。手には、盗撮系のDVDが三本。無表情にそれを差し出す。
 瑩は努めて事務的に、遼から会員カードを受け取った。プラスチックのカードを読み取り機に通す。モニターに『笹本徹 様 25歳』と表示される。本当は徹ではなく遼だと知っている。それでも、瑩は何も言わずにカードを返した。
 DVDのバーコードをスキャナーで読み取っていく。ピッ、ピッ、と軽い電子音が店内に響く。最後に、自分の胸元につけた名札のバーコードを読み取る。レジ担当者を示すためのものだ。
「泊数はどうされますか?」
 マニュアル通りの問いかけ。
「二泊三日で」
 遼の声は低く、抑揚がない。
 瑩は泊数を打ち込み、合計金額を告げる。遼はキャッシュレス決済の端末にスマートフォンをかざした。ピ、と短い音が鳴る。
 最後にレシートを手渡す。この瞬間が、いつも瑩を不安にさせる。レシートの下部には、担当者として『草木』と印字されている。フルネームではない。苗字だけだ。それでも、いつか気づかれるのではないか。その恐怖が、じわりと背筋を這い上がってくる。
 遼はレシートを受け取ると、一瞥もせずにポケットにしまい、DVDの入った袋を持って店を出て行った。
 カウンターから客の姿が消えた。瑩は鴨志田から逃れるように、カウンター内で直接返却されたDVDやCDを手に取り、棚に戻しに向かった。アダルトコーナーとは反対側の、一般映画や音楽のコーナーへ。少しでも、あの男から離れたかった。

         ◇

 他人と自分を比べることに意味はない。そう頭では理解していても、考えてしまう。瑩の生活は、同年代の少女たちと比べれば、おそらく苦しい部類に入るだろう。だが、それも日常になってしまえば、ただの風景だ。何も起こらない、平凡な毎日。
 その日常が、音を立てて歪み始めたのは、九月の終わりのことだった。空気はまだ夏の残り香を漂わせていたが、朝晩は肌寒さを感じるようになっていた。
 その日の午前中は、いつも通りだった。自分のクラス、3年D組の教室に入る。重い鞄を自分の席の横に掛けながら、瑩はさりげなく教室を見渡した。笹本遼の姿を探す。彼は窓際の席で、一人、ぼんやりと外を眺めていた。特に変わった様子はない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...