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2-1.妄想1マッサージサロン

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 今日の舞台は、マッサージサロンにしよう。

 小さく吐息を吐き出しながら、情景を思い浮かべる。

   *

『あそこのマッサージサロン、コース案内には書いていない「極楽コース」をお願いすると女性だけタダになるって噂だよ』

 そんな話がちらほらと聞こえてきた矢先、友達と「負けたらそこに行ってみる」という賭けをしたゲームをして、負けてしまった。

 行かなきゃ、約束を破ったことになっちゃう。

 行ったことのないマッサージ店。
 怖くて仕方ないのに、戻ることもできない。

 不安な気持ちで施設へと入った。

「今日はどのようなコースをご希望ですか」

 扉を開けて受付に進むと、若くて清潔感のあるお兄さんに迎えられた。微笑みを浮かべるそのお兄さんに、緊張しながら消え入りそうな声で答える。

「極楽コースが無料だと聞いたんですが」

 お兄さんの瞳の奥がキラリと光った気がした。

「えぇ、無料です。ですが、こちらは途中でやめることができません。細かい感想をいただいて、サービスの向上に役立たせていただくのが目的のためです。より効果を実感してもらえるよう、指定の服にも着替えていただくのですが、よろしいですか」
「あ、はい。大丈夫です」

 どんな服だろう。不安に思いながらも、やめるという選択肢はないので、うなずいた。

「では、あちらの部屋に入って、着替えておいて下さいね。こちらの書類もご記入願います」
「分かりました」

 着替えの入った袋と、書類とペンが挟まれたクリップボードを受け取り、お兄さんに手で指し示された部屋へと向かう。
 いかにも施術室ですという部屋には当然ながら誰もいない。

 このまま、消えてしまえたらいいのに。今、地震が起きたら、どさくさに紛れて逃げられるかな……。

 現実逃避しながら青い袋に入った服を取り出すと、紙のような材質のブラジャーとショーツが入っていた。

「え、これ着るの」

 少しの間逡巡したものの、裸になっている時にマッサージの先生に来られても困ってしまう。ためらいながらも急いで着替えた。

 ものすごく薄くて、心許ない。

 それでも、先生が来る前に着替えられてよかったと安心しながら書類にも目を移した。
 「同意書」と書いてある。
 どうやら最後の部分に、日付と自分のサインをするようだ。

 先に書いてから、サラッと中に目を通す。何かあっても責任を負いません、といった内容のようだ。

 サインしてよかったのかな……。

「こんにちは」

 奥から、先生が現れた。さっきのお兄さんよりは歳が上だろうか。少し神経質そうな顔をしている。

「書類の記入、ありがとうございました。では、そこに横になって下さいね」
「あ、はい」

 不安になりながら書類を渡し、言われるがままにベッドに横たわる。まな板の上の鯛にでもなった気分だ。

「マッサージは初めてですか」
「はい。友達に無料って聞いて、来ました」

 そう言うと、なんとも言えない顔でじっと見られた。その顔の意味を考えようとするも、「失礼しますね」と温かいタオルを目の上に置かれ、思考は停止した。
 気持ちはいいけれど、何も見えない。

「まずはマッサージオイルを塗っていきますね。それから、他にも手伝いの者が来るので、よろしくお願いします」
「え、そうなんですか」

 こんな格好を他の人にも見られるのは、恥ずかしいな。

 そう思っている間にも、オイルが右腕にしっかりと塗り込められる。強すぎず弱すぎずで、気持ちがいい。

「手伝い入りまーす」

 先ほどのお兄さんに似た声がして、誰かが入ってきた。

「しっかりと腕をほぐしていきますね。あ、力は入れないで」

 左腕にもオイルが塗り込まれていく。
 両腕とも男の人にぐりぐりと触られ、顔が火照る。

 男子と手をつないだことすらほとんどないのに……。

 次の瞬間、もう一つ別の手が現れた。ガバッと紙製のブラジャーをたくし上げられる。

「え、え、何ですか」

 躊躇なく、誰かが胸全体にぐりぐりとオイルを塗り始めた。

「2人じゃなかったんですか。そ、それに、そこはしなくても」
「あぁ、3人ですよ。駄目ですよ、普段はここ、ほぐしていないでしょう。胸だからって触らないでいると、病気などの異変にも気づかないんですよ。腕や足と同様に考えたほうがいいんです」

 右腕も左腕も両側から揉まれながら、胸の盛り上がりの輪郭をなぞるように中心に向かって塗り込められる。

 何これ、何これ、何これ!
 胸を触られるなんて、聞いてない。
 今まで味わったことのない感触に、全身の血が顔に集まってくるのを感じた。

 どれが誰の手かも、分からない。
 でも、全部ゴツゴツと角張っていて、きっと3人目も男性だ。

 複数の男性に、普段触られない部分を丁寧になぞられ、緩急をつけて両手が乳首周辺を行き来する。

 もう、恥ずかしすぎて無理っ……!

 そう思った瞬間、指でキュッと乳首を挟まれた。

「っぁ……!」

 つい油断して、声を上げてしまう。
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