魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅱ 魔王国の改革

7節 外交 〜獣人編 ③

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「はぁ、はぁ……はぁ…はぁ……どうだ、やったか? いや、これフラグだな……」

 正直なところ、短時間で中々の魔力を消費したから、エイジは頭がクラクラした。もう、暫くは戦闘は出来ないだろう。しかし、それは杞憂だったようだ。化けギツネの姿はどこにもない。

 ところが。ビームの跡にちょこんと、紅白の単衣を着た、二十代前半と見られる女性が女の子座りしていた。髪は金で、後頭部で縛っているが二股に分かれている。その瞳もまた金であった。

 それに加えて狐の耳と、一本だけだが尻尾もある。そちらは茶色、いわゆる狐色。多分九尾の人間形態だろう。煤だらけでボロボロに見えたが、服は無事のようだ。出血も、幻獣形態時よりは酷くないようである。

 そこで、向こうさんもエイジに気づいたようで、二人は黙って見つめ合う。声を掛けるタイミングを見失い、気まずい沈黙が流れたが。暫くすると痺れを切らしたように__

「な、なにか喋ったらどうですの⁉︎」
「えっと、じゃあ、アンタ誰?」

「わたくしは白面金毛九尾の幻獣、ダッキですわ! えっへん!」
「………」
「ま、また黙りましたわね⁉︎」

 ダッキが話しかけてきた。

「んで、ダッキさんはなんでこんなところに? 物好きだなぁ」
「わたくしだって、好きでこんなところにいませんわ! ただ、ちょっと人間をからかって遊んでたら封印されてしまいまして……てへ☆」

「完全に自業自得じゃねえか!」
「あっ、でもでもぉ、もう悪さは致しませんわ。なのでぇ、拾ってください、ご主人さまぁ」

 口調は高飛車、態度と声音は媚びっ媚び。呆れたように、エイジは目線を外す。

「ご主人様? やっぱダメだな、コイツは駆除しよう」
「あっ、あー! わ、わたくしはですね、あなた様に惚れたんですよぉ~。だから、助けてくださいまし、ダーリン!」

「誰がダーリンじゃボケ。どこに惚れる要素が__」
「あの、ほらっ、封印を解いてくださったじゃないですか! それに、貴方の魂と戦いぶりに惚れました!」

 この二人、初対面にも関わらず、まるで夫婦めおと漫才のような応酬を繰り広げる。

「はあ、やはり魔性だな。そもそも、オレは封印を解いてなぞいない。素直に見逃してとか言えねえのか」
「見逃してください‼︎」

 即正座して、見事な土下座をかます。超必死だ。

「ダメだ」
「そ、そんな…! わたくし、なんでもいたしますから! あなたに尽くします! 夜のお供だって何だって!」

 血も涙もないように、エイジはツンッとそっぽを向く。対するダッキはちょっと涙目。

「ダメだ、見逃せない」
「な……何でもって言ってるじゃないですか! 見逃してって土下座までしたのに。うぅ……ケチ‼︎」

「ダメだな、やっぱ魔王城に連れ帰るしかねえか」
「………ほえ?」

 連れ帰る。魔王城などという不穏なワードが一瞬聞こえた気がしたが、ダッキはもう気にしない。藁にもすがる思いのようだ。

「やはり見逃す事はできない。見逃したらまた悪事を働くだろう。近くに置いて、監視する」
「えっ、じゃあ……!」

「命は助けてやる。その上、惚れたご主人様に仕えられるんだ、いいことずくめじゃないか」
「えっと……それはぁ……は、はい! 精一杯ご奉仕いたしますぅ!」

 腹黒くて扱い難いだろうが、強力な味方が加わった。これは思わぬ収穫だろう。


「討伐終わったぞ、待たせたな」

 あの漫才らしきもののあと、エイジは村に戻ってきていた。

「おお、あの獣を倒したのですか⁉︎」
「ああ、少して手こずったがな。さて、今度こそ印を」

「はい、では。これでいいでしょうか?」
「ああ、これで、和平は成立だ。ちなみに、これが控えです」

 確かに印が押されているのを確かめると、満足げに丸めて仕舞う。

「良かったですね、ご主人様♪」
「のわっ、いつの間に……」

 ダッキが甘えるように腕を絡めてくる。外に魔道具の鎖で繋いでおいたはずだが、コイツはあっさり抜け出しやがったようだ。

「お前、さては余力を残してるな?」
「テヘペロ☆」
「まあ、今回は許してやるか……」

 前途多難である気しかしない。

「こ、この者は?」
「コイツがダッキだ。まあ、それは置いといて。君らの中から、代表として魔王城に来てくれる者を選んでくれ」

「それなら、もう出来ております。次期族長候補の猫獣人のシャルと、自警団団長のハティ。あとは、若くて働き盛りの者達を選んでおります」
「シャルだにゃ。よろしくにゃ、エイジさん。ウチが付いて行ってやることに感謝するがいいにゃ」
「フン。族長の命だから仕方なく、だ」

「うわぁ、あのシャルって娘、あざとぉい」

 ヒソヒソとダッキが囁いてくる。圧倒的お前が言うな感。

「……まあ確かに、あの生意気な態度は気にくわないな。そしてハティの好感度も上げたいところだ……」

 手を後ろに回して孔を開く。そこから取り出したのは__

「これなら、どうだ?」

 猫じゃらしだ。棒の先っちょに羽をくくりつけて、小さな鈴を付けた簡素な物。獣人が相手なら役に立つかなと用意しておいた。それを左右にちょこちょこ揺らす。

「ええ~、そんなのに引っかかりますかねぇ?」

 ダッキは呆れ顔。だが二人とも興味ないふりしながらも、猫じゃらしに興味津々でウズウズしている。目線が完全に釘付けだ。そして遂にその時が__

「うにゃー!」
「うりゃー!」

 二人同時にかかった。勿論二人同時も想定済みで予備があり、左手にもおんなじものを持つ。そして二本の棒を巧みに操り、じゃれさせる。そして__

「「とりゃー! 獲った!」」
「おっと、ついに捕まってしまったかぁ。よーしよし、よく出来ました」

 じゃらしを捕まえた二人の頭を撫でる。

「「えへへ……はっ、私はなにを⁉︎」」

 我に帰る瞬間までもが見事に一致した。

「はい、頑張った二人にご褒美だ」

 ハティにビーフジャーキーを、シャルに魚肉をミンチにしたものを与える。最初こそ疑っていたものの、匂いを嗅いで大丈夫と判断したのか、二人とも美味しそうにそれを食べた。餌付け成功。

「ええ~、引っかかるんですか……ていうか、随分と扱いが手慣れておりますのね」
「オレ昔から人には嫌われたが、動物には好かれてたんだよなぁ。ペット飼ってたことあるし」

「へぇ……愛玩動物……それ、ちょっと詳しく教えてくださいます?」
「お前のことを教えてくれたら、引き換えにな~」

 こうして、獣人族達との和平交渉は無事(?)に終わったのだった。
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