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第三章 僕の知らない死神さん
第29話 ずっと
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「どう思ってるって……」
「あの子のこと、大切に思ってくれてる?」
「そんなの、当り前じゃないですか」
自然と僕の声が大きくなるのが分かりました。死神さんのことが大切じゃないだなんてあり得ません。絶対に、あり得ないのです。だって、死神さんは僕を救ってくれたのですから。暗い、闇の中から。
「そう、よかったわ」
僕の答えに、お母さんは、安心したように微笑みました。
やはり、親という存在は、自分の子どものことがいつまでも心配なのでしょう。だからこそ、子どもが嫌と言っても、ついつい子ども扱いをしてしまう。ついつい干渉してしまう。
もし、僕の両親が生きていたら。同棲のこととか、死神さんのこととか、いろいろ尋ねてきていたのでしょうか。もう一生、その答えを知ることはできませんが。
「お互いに、お互いのことを大切に思ってるのね」
不意に、お母さんがそんなことを告げました。
「…………え!?」
驚きの声をあげる僕。
死神さんは、僕のことを大切に思ってくれているのか。それは、死神さんが風邪をひいた時、僕が聞けずにいた疑問。まさか、その答えをお母さんの口から聞くことになるなんて考えてもみませんでした。
「死神さん、僕のことが大切だって、お母さんに言ってたんですか?」
「はっきりとは言ってないけどね。でも、あの子があんなに必死なところ初めて見たんだもの」
「…………詳しく教えてもらってもいいですか?」
お母さんが何のことを言っているのか、僕には全く分かりません。だからこそ、僕の口からは、自然とそんな言葉が漏れていました。
一度小さく頷き、お母さんは語り始めます。それは、僕の知らない死神さんの話でした。
「いつの頃だったかしらね。突然、あの子ったら『将棋』『将棋』言うようになって」
遠い目をしながら言葉を紡ぐお母さん。その視線の先にある景色。そこにいるであろう死神さんは、一体どんな表情をしているのでしょう。
「どうしていきなりそんなことを言い出したのか、理由はよく分からなかったけど。とりあえず、私や夫としては、あの子にも全力で打ち込める趣味ができたんだって、そう考えてたわ。でもね」
その時、お母さんの顔に、はっきりとした影が差し込みました。
「あの子の周りには、将棋ができる人が全くいなかったの。私はもちろん、夫も。あの子の友達もね。人間世界では、将棋を指せる人がかなりの数いる。でも、死神世界はそうじゃない。『将棋? ああ、名前だけは知ってる』くらいの人が大半なのよ。文化性の違いってやつね。だからあの子は、ずっと一人で将棋をしてたの。本当に、ずっと」
どんどん暗くなっていくお母さんの口調。
当時、お母さんがどんな思いで死神さんと接していたのか。まだまだ子供である僕に、その全てを想像することはできません。
ですが、これだけは分かります。自分の子供が見つけた将棋という趣味。しかし、子供は一人でしかそれを楽しむことができない。そんな姿を見せられて、苦しくないはずがないのです。歯がゆくないはずがないのです。
「死神世界に、ネット将棋みたいなものってないんですか? もしくは、将棋教室とか」
聞くまでもないこと。ですが、聞かずにはいられませんでした。少しでも、救いのようなものがあればなんて思いながら。
僕の質問に、お母さんはゆっくりと首を横に振りました。
もちろん、一人で将棋をすることだってできます。棋譜並べをしたり、自分で研究をしたり。ですが本来、将棋は二人で行うものです。二人で盤に向かい、思考を巡らせ、相手と無言で語り合う。それが、将棋の面白さなのです。
死神さんは、一体どんな気持ちで将棋をしていたのでしょうか。会話相手のいない会話を、ずっと……ずっと……。
「あの子のこと、大切に思ってくれてる?」
「そんなの、当り前じゃないですか」
自然と僕の声が大きくなるのが分かりました。死神さんのことが大切じゃないだなんてあり得ません。絶対に、あり得ないのです。だって、死神さんは僕を救ってくれたのですから。暗い、闇の中から。
「そう、よかったわ」
僕の答えに、お母さんは、安心したように微笑みました。
やはり、親という存在は、自分の子どものことがいつまでも心配なのでしょう。だからこそ、子どもが嫌と言っても、ついつい子ども扱いをしてしまう。ついつい干渉してしまう。
もし、僕の両親が生きていたら。同棲のこととか、死神さんのこととか、いろいろ尋ねてきていたのでしょうか。もう一生、その答えを知ることはできませんが。
「お互いに、お互いのことを大切に思ってるのね」
不意に、お母さんがそんなことを告げました。
「…………え!?」
驚きの声をあげる僕。
死神さんは、僕のことを大切に思ってくれているのか。それは、死神さんが風邪をひいた時、僕が聞けずにいた疑問。まさか、その答えをお母さんの口から聞くことになるなんて考えてもみませんでした。
「死神さん、僕のことが大切だって、お母さんに言ってたんですか?」
「はっきりとは言ってないけどね。でも、あの子があんなに必死なところ初めて見たんだもの」
「…………詳しく教えてもらってもいいですか?」
お母さんが何のことを言っているのか、僕には全く分かりません。だからこそ、僕の口からは、自然とそんな言葉が漏れていました。
一度小さく頷き、お母さんは語り始めます。それは、僕の知らない死神さんの話でした。
「いつの頃だったかしらね。突然、あの子ったら『将棋』『将棋』言うようになって」
遠い目をしながら言葉を紡ぐお母さん。その視線の先にある景色。そこにいるであろう死神さんは、一体どんな表情をしているのでしょう。
「どうしていきなりそんなことを言い出したのか、理由はよく分からなかったけど。とりあえず、私や夫としては、あの子にも全力で打ち込める趣味ができたんだって、そう考えてたわ。でもね」
その時、お母さんの顔に、はっきりとした影が差し込みました。
「あの子の周りには、将棋ができる人が全くいなかったの。私はもちろん、夫も。あの子の友達もね。人間世界では、将棋を指せる人がかなりの数いる。でも、死神世界はそうじゃない。『将棋? ああ、名前だけは知ってる』くらいの人が大半なのよ。文化性の違いってやつね。だからあの子は、ずっと一人で将棋をしてたの。本当に、ずっと」
どんどん暗くなっていくお母さんの口調。
当時、お母さんがどんな思いで死神さんと接していたのか。まだまだ子供である僕に、その全てを想像することはできません。
ですが、これだけは分かります。自分の子供が見つけた将棋という趣味。しかし、子供は一人でしかそれを楽しむことができない。そんな姿を見せられて、苦しくないはずがないのです。歯がゆくないはずがないのです。
「死神世界に、ネット将棋みたいなものってないんですか? もしくは、将棋教室とか」
聞くまでもないこと。ですが、聞かずにはいられませんでした。少しでも、救いのようなものがあればなんて思いながら。
僕の質問に、お母さんはゆっくりと首を横に振りました。
もちろん、一人で将棋をすることだってできます。棋譜並べをしたり、自分で研究をしたり。ですが本来、将棋は二人で行うものです。二人で盤に向かい、思考を巡らせ、相手と無言で語り合う。それが、将棋の面白さなのです。
死神さんは、一体どんな気持ちで将棋をしていたのでしょうか。会話相手のいない会話を、ずっと……ずっと……。
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