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孤児院編

021 私が守るもの。※ただし野郎は除く

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 孤児院に引っ越す準備をしつつ、孤児院に通う日も、今日が最終日。
 いよいよ、明日が引越しだ。

 荷物自体は荷馬車に殆ど入っているとはいえ、引越しの支度をしている時の楽しさは、前世の記憶でも同じだった。
 
 孤児院という事もあって、個室は沢山ある。
 子供たちの本来数が少ないから、空き部屋だらけだ。

 薬草を育てながらDIYリフォーム生活なんて、いかにもスローライフっぽい。
 ようやく、私のスローライフ生活が戻ってくると思うと、作業も捗るというものだ。

「あ! お兄ちゃん! おかえりなさい!!」

「おかえりー!」

 今日も孤児院の様子を確認する為に、足を運ぶ。もう毎日の日課のようになった。
 そのおかげか、私が孤児院に来ると出迎えてくれる子供が出てきた。………………これは、良いものだ。

「ただいま。エイシアさんはいるかな?」 
 
「院長先生なら、お兄ちゃんの言いつけを守る為に、シルキーが見張っているよ」

 孤児院に通い出してから、1週間。子供たちにお帰りと言って貰えるまでの信頼を勝ち取る事が出来た。
 これも、エイシアさんの体調が日に日に良くなって行ったおかげだろう。

 エイシアさんの子供たちからの信頼を利用したような気もしないでもない。

「そっか。なら、会うのはもう少し後で良いかな」

 エイシアさんの体調不良の原因は栄養失調と過労だった。
 1人で子供たち6人の面倒を見ていたのだ。そりゃ過労にもなる。

 本人は、そんな状態でも働こうとする心優しい女性だったので、食事の後に必ず休息する時間を設けるようにした。治療という名目で。

「じゃあ、薬草の様子を見に行こうか?」

「うん! 今日もちゃんとお水をあげたよ!!」

「あげたよー!!」

 私は主に2人の子供に懐かれている。
 2人は、お姉さん役のナズリーンと妹役のメイで、主に気まぐれ草の栽培を手伝ってくれている。

 まあ、お小遣い目当てな気がしなくもないが、一生懸命と世話をしてくれているのが良く分かる程には健気で可愛いと思っている。

 おっと、私は何度もいうがロリコンじゃないぞ? NOロリータ! NOタッチ!! だ。

「2人とも偉い、偉い」

 2人に案内されて、気まぐれ草の栽培状況を確認する。
 一番早く庭に埋めた分は5日経っているおかげか、ハッキリと成長している事が分かった。

 失敗する事はないと分かってはいたが、これで本当に安心出来そうだ。

「夕方には、一緒に水遣りをしようか」

 そう、言って2人の頭を撫でてあげる。
 シルキーも含めて、3人は頭を撫でられるのが好きなようだ。

「お迎えもせずに申し訳ありませんでした」

 子供2人を連れて孤児院へ入った時に、丁度休息を終えたエイシアさんとシルキーがが出迎えてくれた。

「ただいま。エイシアさん、シルキー」

「おかえり、お兄ちゃん!」

「おかえりなさいませ。クロムウェル様」

 エイシアさんに、もっと気軽に接して欲しいとお願いをしているが、未だに受け入れては貰えていない。
 この辺は、大人ゆえの立場があるので、半分は諦めている。

 それでも、おかえりと自然と言ってくれる関係になったので、満足しておこう。

 そして、子供たちは残り3人いるが、未だに心を許してくれていない。
 唯一の男の子も、「おまえは俺たちとは違う!」と反発されてしまった。たぶん反抗期だ。エイシアさんにも、そんな態度だったからね。
 
「それで、本日のお話というのは何でしょうか?」

 孤児院に来た時は、必ず何か1つは問題を解決するように心がけている。孤児院の問題の多さは、闇の深い公爵家を抱える国の闇はやはり深いと言ったところだ。

 便利給湯器でもある私が、今日もお茶を入れて話し合いの場を用意する。
 水生成と同じ要領で作っているが、あまり高温を作り出そうとすると熱気で火傷してしまうので、お茶が、温めなのが欠点だが、まぁまぁ美味しいと思うぞ?

「明日は予定通り、私の家族を紹介いたします。その後、一緒に住む事になると思いますので、よろしくお願いします」

 これは1週間ほど前からの決定事項なので、確認のために告げただけだ。本題は他にある。

「それと、娼館には話を通しておきました。ミルファが身売りをする必要はなくなりました。ご安心下さい」

 この国で、いや、この世界で娼婦という仕事は一般的だ。
 私から見れば幼い子供であっても、娼婦になれる。そして、貧民の職業としては、とても当たり前な職業だった。

「そもそも、私が来たからにはお金の心配は必要ありません」

 公爵のお小遣いという名の軍資金が、既に私の手元にある。無駄遣いしたのは、犬小屋の建築費用だけだ。それも全体から言えば、はした金とすら言えない程度の額だ。

 そして、ミルファはこの孤児院の最年長者だ。この冬が終わって春になれば、孤児院を出なくてはいけない。
 それでも年齢が妹より1つ下であるだけというのが驚きである。

 オルフォース公爵家のラピスラズリお嬢様の怠慢かと思ったが、この世界ではそれが普通だった。世知辛すぎるわ!

「それに、ミルファには今後、私が立ち上げる商会の従業員として働いてもらうつもりです。この孤児院から追い出す事もしないでご安心下さい」

「それは、来年以降もミルファがこの孤児院にいても良いという事でしょうか?」

 不安半分、嬉しさ半分と言った表情で、聞き返してくる。

「えぇ。彼女はとてもこの孤児院を大事にしている事は伝わってきました。出なければ、労働ではなく、強制となる身売りを選択しないでしょうから」

 孤児院の現状を聞いた時に、最年長のミルファが3ヶ月経たないうちに孤児院を出ることを聞いて、色々と調べて貰った。
 ミルファは無口であった為、本人の口からは教えて貰えなかったが、さすがは公爵家の権力というところか、あっさりとその就職先が分かった。

 その就職先については、エイシアさんも理解していたが、孤児院の為に、身売りするという事までは知らなかったようで、大変慌てていたのは良い思い出だ。

「何から、何まで、本当にありがとうございます」

 エイシアさんに感謝で頭を下げられるのは何度目になるだろうか………。
 私は子供だと思える相手を保護しただけなのだ。私は成人していて、ある程度の力もある。世の中の全てを救う事は出来ないが、目の前の子供くらいは救うのは当然だと思っている。

「気にしないで下さい。一緒に住むのですから、私にとって家族と同じですよ」

 私の言葉を聞いて、頭を下げたまま、そっと涙するエイシアさんが落ち着くまで、静かな時間が流れた。

「ミルファには、エイシアさんから話をしてあげてください。私は一応、男性ですので、その辺の気持ちは理解してあげる事は出来ませんから」

 本当に娼館へ交渉に行くのは緊張した。先に公爵家が手を回していたと分かっていても………いや、手を回していると分かっていたからこそ、緊張したものだ。
 ………………言っておくけど、私はまだこの世界ではピュアなままだからな? そっちの趣味もないからな?

 エイシアさんとの話し合いも終えて、後の事はエイシアさんに託す。
 役割分担は大事だ。

「お、クロムウェルの旦那。どうでしたか?」

「あぁ。問題は解決したよ。マックスさんにはお礼を言っておいて下さい。それと、あぁいう誘惑は困りますとも」

 娼館でのミルファとの契約解除はすぐに終わったが、接待が色々と大変だった。前世の記憶があると言っても、感情は身体と共に成長してきたのだ。
 つまり、今の私は思春期の男の子でもある。その為、娼館に入るだけでも勇気が必要だった。これは男の子にしか分からないドキドキだろう。

「かしこまりました。確かに伝えておきやす」

 面白そうに、返事を返す親方の表情には大人の余裕が見て取れた。

「あぁ、親方がエイシアさんに差し上げたお茶は美味しかったですね。でも、エイシアさんのお口には合わないようでしたよ?」

 私の反撃の台詞に、親方の表情が歪む。………というよりも照れているようだ。最初は分からなかったが、1週間の付き合いでその位は分かるようになった。

「ただでさえ、子供たちのために懸命に働く姿が美しいのに、最近は食事を改善した事で、本来の美しさも出てきたようですよね? 親方」

「クロムウェルの旦那。確かに色仕掛けは止めるように伝えておきますので、勘弁して下さい」

 そう、返事を返す親方の表情は、僅かだが困った顔をしているのが分かった。
 なるほど、表情を読むのはこういう風に崩して読むわけね。………今日はちょっぴり腹芸について学ぶ事も出来た。

 明日はいよいよ、孤児院生活の開始だ!


 そうそう、私はちゃんと親方の味方ですよ? 口には出さないけど。
 
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