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孤児院編
026 モテ期の真実
しおりを挟む「凄い物を見せてもらいやした」
と、素直な感想をいう親方に対して。
「私もグルグルと回されてみたい!」
と、はしゃぐ最年少のメイ。
私的には、やはり子供の褒め言葉の方が嬉しいものだ。
「ごめんね。人のように重いものは出来ないんだよ」
これは事実だ。なぜか一定の重さのものは風を使って浮かす事が出来ない。
浮かせる事が出来たら、空が飛べるのにと、魔法を覚えたての時に必死に悩んだが、結局出来なかった。
私の謝罪に慌てたエイシアさんが子供たちを宥める。
「また今度、面白い遊びをしよう」
そう私が締め括った事で、洗濯イベントは無事に終わった。
その頃にはマリーと母がいる調理場から良い匂いが漂ってきたので、子供たちの興味はそちらへと移っていった。
エイシアさんを含めた女性陣が自分たちの洗濯物を持って片付けに向かうと、また親方と2人きりになってしまった。
「あの年だと、まだ色気より食い気ですね」
そう親方の呟く。
「シルキーに聞かれたら、結婚が遠のきますよ?」
私の発言に慌てて周りを見回した親方を見て、つい笑い声を上げてしまった。
こんなスローライフ生活を夢見ていた。田舎のんびりスローライフも捨てがたいが、同居人も、ある程度多い方が楽しいようだ。
「それではみんなで頂きましょう」
本日の夕食は豪華であった。商会から巻き上げた………頂いた食材で日持ちしないものを優先的に調理したので、この量になった。と、この場を仕切っているマリーが教えてくれた。
今日の夕食は11人で席について頂く。
私と母と妹、そして今日の料理長とも言えるマリー。エイシアさんに女の子5人。最後が自然に同席するようになった親方ことバッカスさんだ。
あぁ、席についていない者も合わせると12人が揃って食事をしている。
本当の最後の1人は、お肉が一個だけ乗せられている床に置かれた皿の前で、正座をしている。
懐かしいな~。空気の読めないロックも、時々こうしていたっけ?
この事の原因は予想通り、反抗期の男の子がロックのところへ行って、泥だらけで戻ってきた事だ。
本人曰く、剣の稽古をつけてもらったそうだが、ロックはマジで空気が読めなかったようだ。新品の服くらい見たら分かるだろ!
結果として、エイシアさんから雷が落ち、母からも雷が落ち、他の子供たちから冷たい目で見られ、妹から「ロックと同類ね」というお言葉を頂いた。
ちなみに私とバッカスさんは、女性陣がお怒りの間はフォローしなかった。
むしろ、せっせと馬鹿が汚した箇所を掃除した。
「奥様と食事を共にするのに相応しくない犬が迷い込んでいるようね?」
と最後に食事の支度を終えたマリーのひと言によって、豪華な食事はお預け、犬のような扱いを受けて凹んでいるという訳だ。
こいつは私の中でロック2号と呼ぶ事にしよう。
丁度ロックが居なくなったので、遊ぶ相手が欲しかった。
当然、私にも慈悲はない。
楽しく食卓を囲む者たちがいる一方。空しく肉に食らい付いている1人の子供。所詮この世は弱肉強食の厳しい世界であった。
「マリー。私がこいつを洗ってやるから、残り物を食わせてやって良いかい?」
食事が終わって、食後のひと時を楽しんでいる時に、私の近くにいるロック2号が何度か腹の音を鳴らす。これを意識してやっているのならば凄い特技だ。孤児という経験も侮れない。
「そうですね………」
私の発言に対して、マリーは母の方を見る。
もう、マリーの主である事は諦めるさ。
「クロムが決めた事なら、私は反対しないわ」
母が助け舟を出してくれた事で、ロック2号に恩赦が出た。
エイシアさんも、私が言うのならばと認めてくれた。
ロック2号の寝室は私の部屋の隣だ。これで夜は腹の音に悩まされずに済みそうだと思ってやって事だが、感謝くらいはしやがれ。
女の子たちから冷たい視線を受けながら、ロック2号は私に引きづられて、再度、洗い場に放り込まれる。
今回はは抵抗せずに、ずぶ濡れにされて素直に洗われていた。
「いいな~。お兄ちゃん! 私もやって!!」
大部屋に戻ってきて、魔法でロック2号の髪を乾かしていると、最年少のメイが興味津々で言ってきた。
そういえば、乾燥魔法を使っている時にも凄く楽しそうに見ていたっけ。
エイシアさんは強制的に食後の休憩をさせているので、メイを洗って貰うわけにはいかない。親方は同じ男だし、今は食器の後片付けをしてくれている。
マリーは母の世話をしているし、母に頼むとマリーの機嫌が悪くなる。妹は繊細さに欠けるから論外だ。
うん。八方塞りだ。
「旨い! こんな旨いもの食ったことない!!」
髪を乾かし終えたロック2号が空気を読まずに食事に飛びつく。
「兄貴! 一生付いてきます! これからもよろしくお願いします!!」
必死に食い物を喰らっているロック2号を見て、異世界で孤児に餌を与えると懐かれるの理論が証明されたのだと理解した。
まあ、食事を取るこいつは放置するとして、問題はメイの好奇心を満たしてやる事だ。昼に一度断っているだけに、今回は叶えてあげたい。
「ナズリーン。メイの髪を洗ってあげられる?」
メイのお姉さん役のナズリーンに、声を掛ける。彼女が出来るのなら適任だろう。
「ごめんなさい。今日買って貰った髪を洗うお薬の使い方が分からないの………」
なるほど、孤児だからシャンプーみたいなのを使ったことがないのか。ちなみにロック2号にそんな高級品は使っていない。野郎はお湯洗いだけで十分だ。
「エ………」
「申し訳ありません。私も使い方が分からずにお昼の時も使用できませんでした」
私が名前を呼ぶよりも早く、エイシアさんに断られてしまった。
「もし、クロムウェル様が使用方法を分かるのでしたら、メイのことを頼めませんか?」
エイシアさんは新しいものを使う事を怖がっているのだろう。大人になるとそういう事が往々にしてあるものだ。
そして、エイシアさんからもお姉さん役のナズリーンから期待の眼差しを向けられてしまっては断れない。
というか、誤解を受けないように避けていたが、少なくとも2人からは任されるくらいには信頼をされているという事だ。ならば応えるしかない。
「分かりました。ミルファ。ナズリーンと一緒に使い方を教えてあげるから一緒においで」
子供たちも、少しずつ色々と教えなければいけないので丁度良い。変に意識していた気持ちを忘れて、メイたちを連れて洗い場へと向かう。
せっかくなので、服も新しいものに代えてあげる。洗濯機が居れば、量など問題ではない!
予想通りメイはすっぽんぽんになって、私が作り出した水球で楽しそうに遊んでいる。
お姉さん役のナズリーンが一緒に遊びたがっているが、私の中の年齢的にアウトなので我慢して貰った。
シャンプーみたいな洗髪料の使い方を2人に教えながら、髪を洗っていく。
絶対にこれ、庶民が使う奴じゃないだろって思うほど良い匂いはしたが、泡は立たなかった。要改良だな。
「お姉ちゃん! 私、良い匂いがする!」
私が髪を乾かしてあげるとメイがナズリーンに甘えるように自慢する。
とても微笑ましい光景だ。………後ろで食べすぎで倒れているロック2号さえ居なければ。
「私、決めましたわ!」
これまで会話の輪の中に入って来なかったベティが、突然大声を上げる。
この行動に、のんびりしていた私たちは皆が驚く。
「私は貴族の妾なんてやめて、クロム兄のお嫁さんになる!!」
突然の宣言に、私の頭が思考停止する。
他の者たちと同じように。
「クロム兄がこの場所を守ってくれるのが分かったの! だから私が結婚してあげる!!」
私の前に来て、さらに宣言を続けるベティに驚愕しか出来ない。
なぜにその結論に至ったのか!?
「ま、待ちなさい! クロムウェル様にその呼び方は失礼よ! ベティ!!」
いや、ミルファ。そのツッコミはおかしい。っていうか呼び方なんて何でも私は構わないよ?
「か、勝手な事を言わないで! お兄様と結婚したかったら私を倒してからにしなさい!!」
だから、そのツッコミはおかしい。妹よ。てか、思考に似たような所があるのはさすがは兄妹というべきか………。
「お姉ちゃん。お兄ちゃんってモテるね」
「そうね。メイ」
相変わらずのマイペースっぷりに、2人の大物ぶりが伺える。
「お、お兄ちゃんは院長先生が似合うと思うの………」
2人を仲裁すると思いきや、とんだ伏兵だよ。シルキー!
親方! 私はライバルじゃないですから!!
「ベ、ベティ! 兄貴より俺の方が………」
「「邪魔よ!」」
「はい………」
ロック2号よ。お前は一生ロック2号だ。
「あらあら、若いって良いわね」
場が混乱し始めたにも関わらず、呑気に母が告げる。
「クロム様は領地にいらっしゃった時も大変におモテになられていましたよ」
「あら? そうなの?」
それは私も初耳だぞ。マリー!
「えぇ。子供たちの面倒を良く見てくれて、旦那たちより素敵だとおっしゃられているのをよく耳にしました」
奥様方かよ! っていうかそれってモテるって言わないよ!!
結局、子供たちを止めようとしたエイシアさんが治りかけていた身体を無理に動かして、再度、身体を痛めた事で、騒ぎは収まった。
みんなエイシアさんの事は本当に大好きなようで、自分たちの騒ぎを忘れて凄く心配していた。こればかりは、どんなに頑張っても敵わないと思った。
その後は、子供たちを宥めて、私はエイシアさんの治療を施す。
治療中の付き添いはシルキーだけだったが、親方も終わるまでは、孤児院の中にいた。2人の関係は順調のようだ。
こんな関係の相手が欲しい………。望めばすぐに手に入る状況だが、私の倫理観が邪魔をする………。
あぁ、前世の世界のロリコンたちは消えれば良いのに………。そうすれば、こんなに悩まなくて済んだ! ちくしょう!!
応援ありがとうございます!
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