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29話
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試合終了のゴングが鳴ったのかわからない。技は解かれたはずなのに、それさえいつの間にそうなっていたのかもわからない。
負けた。
同じ一年生相手に全然歯が立たなかった。リングに上がって5分。最後はなす術なくギブアップ負け。
周囲の歓声が遠くに聞こえてくる。私はまだ倒れたままだ。
強烈な技を受けた直後で身体に力が入らない。自分の身体じゃないみたい。あんなサソリ固め、堪えられるわけがない。固められた足はびくともしなかった。まるで身体をリングに強く押さえつけられたみたいに身動きが取れなくなる。抵抗できないまま背中を反らされた時は、身体を真っ二つにされるかのような恐ろしさがあった。
ようやく身体を起こすと勝ち名乗りを受けた高山美優が近づいてきて手を差し出してきた。
「試合、ありがとうございました。また勝負しましょう」
呆然としたまま無言で手も差し出す私を特に不快に思う様子もなく高山美優はリングを降りていった。
「前田さん動けますか?次、始まりますので」
「え。あ、はい、すみません」
「陽菜立てる?」
「うん、ありがとう」
そばに来てくれていた桜に支えてもらいながら立ち上がってよろよろとリングを後にした。
リングを降りて高山美優の方を振り返ると何人かの大人が群がっていた。カメラを持った人もいる。プロの団体の関係者みたいだ。将来有望な選手の若かりし頃として記録に残されるんだろうな。
「陽菜大丈夫?かなりきつく極まってたみたいだったけど」
「うん、たぶん。怪我はしてないと思う」
「試合終わってすぐだからアドレナリンで感じないだけかもしれないし、しばらく安静にしといた方がいいよ」
試合でこんなにぼろぼろになるのっていつ以来だろう。中学の頃は関節技が上手い人がそこまで多くなかったけど、さすがに高校生ともなると上手い人の技はきつい。
「前田ちゃん大丈夫!?」
咲来が駆け寄ってきた。咲来は全ての試合を先に終えていて、もう制服に着替えていた。そうだ、試合観に来てくれてたんだ。何だかみんなに心配されちゃってるな。
「平気。ちょっと休んでストレッチしてから着替えるよ。あ、桜。この子が咲来。高校のチームメイト」
「初めまして。私、三浦桜。陽菜の中学の同期なの」
「あ、はい。大塚咲来です」
咲来がペコリと頭を下げる。
何となく変な感じだ。中学の頃一緒にたくさん練習した桜と、高校に入ってから毎日一緒に練習してる咲来が同じ場所にいるなんて。
2人に連れられて会場を後にする。桜はずっと傍らで支えてくれ、咲来が荷物を持ってくれた。交流試合の試合も残り少なく、会場の外には既に荷物をまとめてミーティングしている学校もあった。
会場から大きな歓声が漏れ聞こえ、その後ゴングが叩かれる音が続いた。かなり白熱した試合だったのだろう。交流試合では時々大きな歓声が上がっては消えていく。そしてまた次の試合が繰り広げられる。
自分の試合もそうだっただろうか。何者でもない自分の試合は、この交流試合のただの一試合に過ぎず、あくまで一時的な盛り上がりとして交流試合という大きな渦の中に消えていってしまう。
でも高山美優の試合は違う。注目選手である彼女は、その一試合一試合が栄光への軌跡になっているように見えた。今日彼女が見せた戦いは多くの人の記憶に残っただろう。
「強くなりたいね。もっと」
半ば独り言のようにつぶやく。それでも桜は背中を叩いてくれ、咲来は「なろうね」って言ってくれた。
負けた。
同じ一年生相手に全然歯が立たなかった。リングに上がって5分。最後はなす術なくギブアップ負け。
周囲の歓声が遠くに聞こえてくる。私はまだ倒れたままだ。
強烈な技を受けた直後で身体に力が入らない。自分の身体じゃないみたい。あんなサソリ固め、堪えられるわけがない。固められた足はびくともしなかった。まるで身体をリングに強く押さえつけられたみたいに身動きが取れなくなる。抵抗できないまま背中を反らされた時は、身体を真っ二つにされるかのような恐ろしさがあった。
ようやく身体を起こすと勝ち名乗りを受けた高山美優が近づいてきて手を差し出してきた。
「試合、ありがとうございました。また勝負しましょう」
呆然としたまま無言で手も差し出す私を特に不快に思う様子もなく高山美優はリングを降りていった。
「前田さん動けますか?次、始まりますので」
「え。あ、はい、すみません」
「陽菜立てる?」
「うん、ありがとう」
そばに来てくれていた桜に支えてもらいながら立ち上がってよろよろとリングを後にした。
リングを降りて高山美優の方を振り返ると何人かの大人が群がっていた。カメラを持った人もいる。プロの団体の関係者みたいだ。将来有望な選手の若かりし頃として記録に残されるんだろうな。
「陽菜大丈夫?かなりきつく極まってたみたいだったけど」
「うん、たぶん。怪我はしてないと思う」
「試合終わってすぐだからアドレナリンで感じないだけかもしれないし、しばらく安静にしといた方がいいよ」
試合でこんなにぼろぼろになるのっていつ以来だろう。中学の頃は関節技が上手い人がそこまで多くなかったけど、さすがに高校生ともなると上手い人の技はきつい。
「前田ちゃん大丈夫!?」
咲来が駆け寄ってきた。咲来は全ての試合を先に終えていて、もう制服に着替えていた。そうだ、試合観に来てくれてたんだ。何だかみんなに心配されちゃってるな。
「平気。ちょっと休んでストレッチしてから着替えるよ。あ、桜。この子が咲来。高校のチームメイト」
「初めまして。私、三浦桜。陽菜の中学の同期なの」
「あ、はい。大塚咲来です」
咲来がペコリと頭を下げる。
何となく変な感じだ。中学の頃一緒にたくさん練習した桜と、高校に入ってから毎日一緒に練習してる咲来が同じ場所にいるなんて。
2人に連れられて会場を後にする。桜はずっと傍らで支えてくれ、咲来が荷物を持ってくれた。交流試合の試合も残り少なく、会場の外には既に荷物をまとめてミーティングしている学校もあった。
会場から大きな歓声が漏れ聞こえ、その後ゴングが叩かれる音が続いた。かなり白熱した試合だったのだろう。交流試合では時々大きな歓声が上がっては消えていく。そしてまた次の試合が繰り広げられる。
自分の試合もそうだっただろうか。何者でもない自分の試合は、この交流試合のただの一試合に過ぎず、あくまで一時的な盛り上がりとして交流試合という大きな渦の中に消えていってしまう。
でも高山美優の試合は違う。注目選手である彼女は、その一試合一試合が栄光への軌跡になっているように見えた。今日彼女が見せた戦いは多くの人の記憶に残っただろう。
「強くなりたいね。もっと」
半ば独り言のようにつぶやく。それでも桜は背中を叩いてくれ、咲来は「なろうね」って言ってくれた。
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