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第6話 王子の隠し子に懐かれてしまった
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ふわふわの髪。小さな手。頼るような、怯えるような瞳。
目の前のセナくんは、まるで小動物みたいだった。
私が優しく頭を撫でると、セナくんは最初こそぴくりと肩をすくめたけど、すぐに目を細めた。
その表情があんまりにも可愛くて、私は自然に微笑んでしまった。
「セナくん、怖いこと、ないからね。……一緒に、遊ぼうか?」
するとセナくんは、ほんの少し首をかしげたあと、ぎゅっと私のスカートの端を握りしめた。
……これ、たぶん、「うん」って意味だよね?
手探りで手を取ってみると、セナくんはちょっとだけびくっとしたけれど、逃げはしなかった。
きゅっと握り返してくる小さな手に、私の胸がまた温かくなる。
「ふふっ……じゃあ、何して遊ぼうか」
そう言いながら、私はかばんの中を探った。森で拾ったとき、何か子供が喜びそうなもの……って思って、ハンカチに動物の刺繍をしていたのを思い出した。
取り出してセナくんに見せると、彼はぱぁっと顔を輝かせた。
「これ、うさぎさんだよ。セナくん、好き?」
こくり。
うんうんと、小さく何度も頷く。
ああ、なんだ、こんなに素直で、こんなに可愛いのに。どうして誰も、この子をちゃんと受け止めてあげられなかったんだろう。
私はそっと、刺繍ハンカチをセナくんの手に握らせた。
「これ、セナくんにあげる」
「……いいの?」
初めて、彼が小さな声で呟いた。
その言葉に、私は心の中でガッツポーズしたいくらい感動した。
「もちろんだよ。セナくんが大事にしてくれるなら、私もすごく嬉しいな」
セナくんは、ぎゅっとハンカチを抱きしめて、にこぉ……と小さく笑った。
その笑顔に、私は思わず涙ぐみそうになった。
――そこへ、扉の向こうから誰かが入ってきた。
「……どうだ?」
低い声。振り向くと、王太子・シリル様が立っていた。
セナくんは一瞬、びくっとした。けれど、すぐに私の後ろに隠れた。
それを見て、シリル様の表情が、わずかに揺らいだ。
「……驚いたな。ここまで早く、心を開くとは」
「えっと、私は何も……ただ、普通に接しただけで」
慌てて手を振る私に、シリル様は静かに言った。
「その普通を、できる者がいないのだ」
……その言葉が、どこか悲しそうに聞こえた。
たぶん、セナくんは、ここでずっと孤独だったんだ。
王族だからって、愛情をたっぷり注がれるわけじゃない。むしろ、立場のせいで誰にも心を許せなかったのかもしれない。
「春野こはる。……改めて頼みたい」
「はい……?」
「セナの、教育係になれ」
またその話!? いや、前も言われたけど!
さすがに即答できなくて戸惑っていたら――
「……おねえしゃん」
セナくんが、袖をぎゅっと握ってきた。
見上げる顔には、不安と期待が入り混じった色。
こんな目で見つめられたら、もう、断れるわけがない。
「……はい。できる限り、頑張ります」
覚悟を決めて答えると、セナくんはまた、ぱぁっと笑った。
その笑顔は、宝石みたいにきらきらしていて、私の胸をまっすぐ撃ち抜いた。
「ふん。……どうやら、セナは貴様を選んだようだな」
シリル様が、ほんのわずかに、口元を緩めた。
普段は冷徹そうな彼の、珍しい表情だった。
私はただの普通のOL。
でも今、確かにこの異世界で、私にしかできない役割ができた。
そう思ったら、少しだけ誇らしくなった。
目の前のセナくんは、まるで小動物みたいだった。
私が優しく頭を撫でると、セナくんは最初こそぴくりと肩をすくめたけど、すぐに目を細めた。
その表情があんまりにも可愛くて、私は自然に微笑んでしまった。
「セナくん、怖いこと、ないからね。……一緒に、遊ぼうか?」
するとセナくんは、ほんの少し首をかしげたあと、ぎゅっと私のスカートの端を握りしめた。
……これ、たぶん、「うん」って意味だよね?
手探りで手を取ってみると、セナくんはちょっとだけびくっとしたけれど、逃げはしなかった。
きゅっと握り返してくる小さな手に、私の胸がまた温かくなる。
「ふふっ……じゃあ、何して遊ぼうか」
そう言いながら、私はかばんの中を探った。森で拾ったとき、何か子供が喜びそうなもの……って思って、ハンカチに動物の刺繍をしていたのを思い出した。
取り出してセナくんに見せると、彼はぱぁっと顔を輝かせた。
「これ、うさぎさんだよ。セナくん、好き?」
こくり。
うんうんと、小さく何度も頷く。
ああ、なんだ、こんなに素直で、こんなに可愛いのに。どうして誰も、この子をちゃんと受け止めてあげられなかったんだろう。
私はそっと、刺繍ハンカチをセナくんの手に握らせた。
「これ、セナくんにあげる」
「……いいの?」
初めて、彼が小さな声で呟いた。
その言葉に、私は心の中でガッツポーズしたいくらい感動した。
「もちろんだよ。セナくんが大事にしてくれるなら、私もすごく嬉しいな」
セナくんは、ぎゅっとハンカチを抱きしめて、にこぉ……と小さく笑った。
その笑顔に、私は思わず涙ぐみそうになった。
――そこへ、扉の向こうから誰かが入ってきた。
「……どうだ?」
低い声。振り向くと、王太子・シリル様が立っていた。
セナくんは一瞬、びくっとした。けれど、すぐに私の後ろに隠れた。
それを見て、シリル様の表情が、わずかに揺らいだ。
「……驚いたな。ここまで早く、心を開くとは」
「えっと、私は何も……ただ、普通に接しただけで」
慌てて手を振る私に、シリル様は静かに言った。
「その普通を、できる者がいないのだ」
……その言葉が、どこか悲しそうに聞こえた。
たぶん、セナくんは、ここでずっと孤独だったんだ。
王族だからって、愛情をたっぷり注がれるわけじゃない。むしろ、立場のせいで誰にも心を許せなかったのかもしれない。
「春野こはる。……改めて頼みたい」
「はい……?」
「セナの、教育係になれ」
またその話!? いや、前も言われたけど!
さすがに即答できなくて戸惑っていたら――
「……おねえしゃん」
セナくんが、袖をぎゅっと握ってきた。
見上げる顔には、不安と期待が入り混じった色。
こんな目で見つめられたら、もう、断れるわけがない。
「……はい。できる限り、頑張ります」
覚悟を決めて答えると、セナくんはまた、ぱぁっと笑った。
その笑顔は、宝石みたいにきらきらしていて、私の胸をまっすぐ撃ち抜いた。
「ふん。……どうやら、セナは貴様を選んだようだな」
シリル様が、ほんのわずかに、口元を緩めた。
普段は冷徹そうな彼の、珍しい表情だった。
私はただの普通のOL。
でも今、確かにこの異世界で、私にしかできない役割ができた。
そう思ったら、少しだけ誇らしくなった。
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