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本編
ヒトキは紳士のふりをしている
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「待った?」
ヒトキに問われ、ノゾミは首を横に振る。
「お仕事お疲れ様」
「ありがとう」
たわいない話を振りながら
「ヒトキ」
ノゾミはヒトキの服の袖を引いて騒がしい麻雀店を指さす。ヒトキはそっと笑って言う。
「ここはダメだよ。ちょっと騒がしいところだし、怖い人もたくさんいるから」
ヒトキはノゾミの肩をちょんちょんと突っつく。
「それよりも、少し言ったところに新しいクレープ屋ができたんだ。良かったら行ってみない?」
ノゾミは頷いた。
「送ってくれてありがと、ヒトキ」
「気にしないで。今日は楽しかったよ。また出かけようね」
「うん」
ノゾミはそう言ってシオンの家に入ろうとして……振り返り、へらっと笑って「またね」と言った。
ヒトキは笑顔でノゾミに手を振り、家に帰ったのを確認してから、その場にしゃがみ込んだ。
耐えきった……!今日の俺も耐えきった!何度元素記号を唱えて平常心を保ったことか!変な顔してないといいな。
いやぁ、それにしても、すごく可愛くてちゅーしそうだった……!
我慢した俺エライ!
あとさぁ、最後の笑顔で『またね』ってナニ!?可愛すぎない!?
天使かよ。あ、天使か。
余韻に浸りながら街への道を戻るヒトキ。
その足は麻雀店に向かっていた。
ノゾミを遠ざけた麻雀店(ここ)は普段の俺の遊び場だ。
だから、決してここにノゾミを近づけるわけにはいかなかった。
だって、本当の俺はノゾミの理想とは程遠い。
あんなことやこんなことがしたい、と思うし、今まではその欲に忠実に生きてきた。しかし、純粋無垢なノゾミは何も知らない。絶対に怖がらせたくない。大切にしたい。ゆっくり距離を縮めたい。だから、絶対に、本当の俺を知られるわけにはいかないのだ。
ノゾミの前では紳士的で王子様でいなければならないのだ。
実際、そんな風に振る舞ってきたしな!孤児院時代の俺のことなんてノゾミは覚えてないし!そもそも、女遊びが激しいチャラ男だってことバレるわけには!いかないんだ!
だって、ノゾミの前にいる俺は、ノゾミが好きになってくれた俺は、やさしい王子様なのだから。
「なぁ、アズサ。女の子が好きそうで、手を繋いでも違和感がない場所って知ってるか?」
ヒトキの問いに、呆れたようにアズサはため息をつく。
「経験豊富なくせに、本当に好きな人にだけは奥手なのね」
「お、奥手なわけではない!ただ、ノゾミを怖がらせて、がっついて、嫌われるのが嫌なだけだ!」
「それを奥手って言うのよ!」
ぴしゃりとアズサは言い放つ。
「全く、女の子と手どころか肩も腰も何もかも抱いたことがあるのに、どうやって自然に手を繋げるかを悶々と考えているなんて……」
「わ、笑うなよ」
「笑っていないわよ。ヒトキが、ノゾミちゃんの好きそうかつ、手をつないでも違和感がない場所、手をつなげるよい雰囲気の場所を必死に探しているなんて、初めての彼女ができた童貞みたいで面白いなって思っただけよ」
「面白がってるじゃねぇか!」
ヒトキは頭を抱える。
「それにしても、よく、ノゾミちゃん、ヒトキなんかと付き合おうと思ったわね。ヒトキの良いところって、魔術管理部に勤めていることくらいよ」
「ヒトキなんかってなんだよ、おい」
「だって、女遊びばかりしている【ピ――】じゃないの」
「【ピ――】言うな!事実だけど!」
「私だったら、絶対に付き合わないわね。だって、簡単に浮気しそうだもの」
「浮気しないし!」
「あら。いつだか、三股してたじゃないの」
「だいぶ前の話だろ」
「浮気する奴は何回だって浮気するのよ」
「もうしない!ノゾミと付き合ってる間は絶対にしない!女遊びもしない!」
ヒトキの口からそんな言葉が出るとは思わず、アズサは目を丸くする。
「だって……ノゾミに愛想つかされるの嫌だもん……」
「ひ、ヒトキが本気だ!」
「本気だよ。ってか今まで疑ってたのかよ!」
「いや、手をつなぐのに四苦八苦しているあたりで特別なんだろうな、とはわかってたわよ。それにしても、アンタが、まさか、ひとりに入れ込むなんてねぇ。アンタは誰に対しても平等に好意に応じているし、受け身だとばかり思ってたから、意外だったわ」
「俺だって、自分にびっくりしてる。まさか、自分が、こんなに……」
ヒトキはそこまで言って赤面した。
アズサがニヤニヤしながらヒトキを眺める。
「でも、本当の俺を知ったらノゾミはきっと失望するだろうな」
ぽつりとこぼしたヒトキの言葉をアズサは肯定することも否定することもできなかった。
ヒトキに問われ、ノゾミは首を横に振る。
「お仕事お疲れ様」
「ありがとう」
たわいない話を振りながら
「ヒトキ」
ノゾミはヒトキの服の袖を引いて騒がしい麻雀店を指さす。ヒトキはそっと笑って言う。
「ここはダメだよ。ちょっと騒がしいところだし、怖い人もたくさんいるから」
ヒトキはノゾミの肩をちょんちょんと突っつく。
「それよりも、少し言ったところに新しいクレープ屋ができたんだ。良かったら行ってみない?」
ノゾミは頷いた。
「送ってくれてありがと、ヒトキ」
「気にしないで。今日は楽しかったよ。また出かけようね」
「うん」
ノゾミはそう言ってシオンの家に入ろうとして……振り返り、へらっと笑って「またね」と言った。
ヒトキは笑顔でノゾミに手を振り、家に帰ったのを確認してから、その場にしゃがみ込んだ。
耐えきった……!今日の俺も耐えきった!何度元素記号を唱えて平常心を保ったことか!変な顔してないといいな。
いやぁ、それにしても、すごく可愛くてちゅーしそうだった……!
我慢した俺エライ!
あとさぁ、最後の笑顔で『またね』ってナニ!?可愛すぎない!?
天使かよ。あ、天使か。
余韻に浸りながら街への道を戻るヒトキ。
その足は麻雀店に向かっていた。
ノゾミを遠ざけた麻雀店(ここ)は普段の俺の遊び場だ。
だから、決してここにノゾミを近づけるわけにはいかなかった。
だって、本当の俺はノゾミの理想とは程遠い。
あんなことやこんなことがしたい、と思うし、今まではその欲に忠実に生きてきた。しかし、純粋無垢なノゾミは何も知らない。絶対に怖がらせたくない。大切にしたい。ゆっくり距離を縮めたい。だから、絶対に、本当の俺を知られるわけにはいかないのだ。
ノゾミの前では紳士的で王子様でいなければならないのだ。
実際、そんな風に振る舞ってきたしな!孤児院時代の俺のことなんてノゾミは覚えてないし!そもそも、女遊びが激しいチャラ男だってことバレるわけには!いかないんだ!
だって、ノゾミの前にいる俺は、ノゾミが好きになってくれた俺は、やさしい王子様なのだから。
「なぁ、アズサ。女の子が好きそうで、手を繋いでも違和感がない場所って知ってるか?」
ヒトキの問いに、呆れたようにアズサはため息をつく。
「経験豊富なくせに、本当に好きな人にだけは奥手なのね」
「お、奥手なわけではない!ただ、ノゾミを怖がらせて、がっついて、嫌われるのが嫌なだけだ!」
「それを奥手って言うのよ!」
ぴしゃりとアズサは言い放つ。
「全く、女の子と手どころか肩も腰も何もかも抱いたことがあるのに、どうやって自然に手を繋げるかを悶々と考えているなんて……」
「わ、笑うなよ」
「笑っていないわよ。ヒトキが、ノゾミちゃんの好きそうかつ、手をつないでも違和感がない場所、手をつなげるよい雰囲気の場所を必死に探しているなんて、初めての彼女ができた童貞みたいで面白いなって思っただけよ」
「面白がってるじゃねぇか!」
ヒトキは頭を抱える。
「それにしても、よく、ノゾミちゃん、ヒトキなんかと付き合おうと思ったわね。ヒトキの良いところって、魔術管理部に勤めていることくらいよ」
「ヒトキなんかってなんだよ、おい」
「だって、女遊びばかりしている【ピ――】じゃないの」
「【ピ――】言うな!事実だけど!」
「私だったら、絶対に付き合わないわね。だって、簡単に浮気しそうだもの」
「浮気しないし!」
「あら。いつだか、三股してたじゃないの」
「だいぶ前の話だろ」
「浮気する奴は何回だって浮気するのよ」
「もうしない!ノゾミと付き合ってる間は絶対にしない!女遊びもしない!」
ヒトキの口からそんな言葉が出るとは思わず、アズサは目を丸くする。
「だって……ノゾミに愛想つかされるの嫌だもん……」
「ひ、ヒトキが本気だ!」
「本気だよ。ってか今まで疑ってたのかよ!」
「いや、手をつなぐのに四苦八苦しているあたりで特別なんだろうな、とはわかってたわよ。それにしても、アンタが、まさか、ひとりに入れ込むなんてねぇ。アンタは誰に対しても平等に好意に応じているし、受け身だとばかり思ってたから、意外だったわ」
「俺だって、自分にびっくりしてる。まさか、自分が、こんなに……」
ヒトキはそこまで言って赤面した。
アズサがニヤニヤしながらヒトキを眺める。
「でも、本当の俺を知ったらノゾミはきっと失望するだろうな」
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