極悪魔女は英雄から逃亡する 〜勇者を求め逃げ続ける魔女と、彼女を溺愛し追い続ける英雄の、誤解から始まる攻防〜

望月 或

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20.帝国魔道士団団長室にて 5

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「……勇者と魔王が戦って、勝った方の世界に束の間の平和が訪れる。程なくして生まれ変わりが現れ、周囲を巻き込み再び互いが戦う。人間界の歴史はその繰り返し。……きっとこれからも。“神が定めし宿命”、か……。何だか人間界の神のお遊戯に付き合わされてるみたいだな。魔界の神はどうだか知らないが」

 イグナートの独白めいた台詞に、バルトロマがぎょっと目を剥く。

「ちょっ、それ他のとこで絶対言っちゃ駄目だからね!? 神を冒涜したって事で即処刑されちゃうから! この帝国がトゥディルム神の信仰が厚いって事知ってるよね!?」


 このサブルフェード帝国の住民達は、殆どの者がこの世界の神とされるトゥディルムを崇拝し、信仰している。
 勇者は、この世界の何処かで産まれると、“神が己の代わりに魔王を倒す為遣わした者”とされ、帝国にあるトゥディルム神殿の直属になる。
 なので勇者の地位は、皇帝や神殿の総主教に次ぐものとなるのだ。


「分かってるって。けど俺は神殿の孤児院で育ったけど神なんてどうでも良かったし、ラルスは『神の信仰? それより人を助けたい』って根っからのお人好しだったし、スティーナは『神? 別に何とも思ってない』だったし。俺の周りがそんなヤツらだったから、つい口が滑っちまった」
「……君やスティーナちゃんはまぁいいとして、神の代理人である勇者様まで……。とんでもなく信仰心の薄い勇者パーティー……。神様泣いちゃいそう……」

 バルトロマは額に手を当て、左右に頭を振る。

「まぁとにかくだ、あの魔族が言ってた内容だと他に何か企んでる感じだったから、騎士団と協力して警戒しておいた方が良さそうだ。それに、スティーナがあの魔族を知っている風だったのも気になる。別れる前、何だか思い詰めたようにも見えたし……」
「うん、それは気になるね……」
「アイツは『私に逃げさせて』って言ったけど、逃がすもんか。アイツ、俺の為にラルスを捜してるんだ。旅の目的はそれだったんだよ。アイツはいつでも自分より他人優先なんだ。無茶をする前に、絶対に捕まえてやる」

 イグナートは立ち上がると、執務机を拳でドンと叩いた。

「そうだね、早く捕まえないとだね~。スティーナちゃん可愛いから、放っとくと男達がわらわらっと寄ってきそうだしね~?」

 バルトロマがニヤリとして茶化すと、怒ると思っていたイグナートは何とも言えない表情になり、目を伏せる。


「それについては、その……大丈夫、つーか……。不可抗力だが、“虫除け”を目立つとこに付けといた、つーか……。男ならソレ見れば分かるだろうし……」


 その台詞でピンときたバルトロマは、キッとイグナートを睨み付けた。

「……ホンットに何してんのさ君はっ!? 不可抗力じゃなくて君の理性の問題だろ!? これ以上スティーナちゃんに嫌われたくなかったら、その弱っち過ぎな理性を何とかしなよ!!」
「……返す言葉も無い……」

 帝国一、二を争う美貌の持ち主が、雨に濡れた子犬のようにシュンとしょげている。


「全く……。心底スティーナちゃんに同情するよ……」


 バルトロマが額に指を当て盛大に溜め息を吐いている頃。

 ドラゴン解決の件をスティーナから聞いて歓喜に湧いているネークスの町で、恩竜として大歓迎されたエルドと共に宿屋に泊まった彼女は、鏡に映った自分の首にある痕に気が付いた。


「これ……赤い痣がいくつも付いちゃってる……。イグナート、何度も噛んでたから……。じっくりといたぶってから殺すつもりだったのかな……。痛くはないから、これくらいならほんの僅かな魔力で治せそう」


 と、言い終わったと同時に回復魔法を掛け、一瞬で“虫除け”を無くしていたスティーナなのだった……。


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