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21.魔女の過去 ――最悪の始まり
しおりを挟むスティーナの人生が狂わされたのは、今から三年前、彼女が十八歳の時。
高い魔力を持っていると露呈してしまったからだ。
魔王の側近である、ブラエ・ノービスに。
スティーナは元々魔界の住人だった。
父エンリ・ウェントルと、母ペトロ・ウェントル、彼女の妹アグネ・ウェントルの四人家族で、魔都から離れた森の中で自給自足をし、他の魔族達とはほぼ会わずにひっそりと暮らしていた。
何故そんな生活をしていたのか。それは、母ペトロが人間だったからだ。
どこからか魔界に迷い込んできたペトロをエンリが発見したのが二人の馴れ初めだ。
ここ魔界では、人間が入り込んできたら、発見次第問答無用で殺さなくてはならない。それは、今代魔王の統治から制定されたものだった。
優しい心を持ち、争い事が嫌いなエンリは、ペトロを見殺しには出来ずに彼が一人で住む家に匿った。
ペトロに最初から魔界の毒が効いていなかったのも、二人がここで長く一緒にいられるきっかけとなる。
活発で豪快なペトロと、いつも穏やかで優しいエンリは相性が良く、極自然に二人は友人から恋人へ、恋人から夫婦へと形を変えていった。
そして程なくして、髪の色がエンリ似の、エメラルドグリーンの瞳を持ったスティーナが産まれ、それから二年後に、ブラウンの髪と瞳の色がペトロに似たアグネが誕生した。
自給自足の生活は不便な事もあったが、ペトロが人間界では調合師をしていた為、魔界の薬草で熱冷ましや風邪薬を調合出来たのも生活に大いに役に立った。
スティーナが十二歳の頃、風魔法を使用出来る事が分かり、彼女は家族の為に沢山勉強して様々な風魔法を習得した。
何より四人はとても仲が良く、スティーナはこの幸せな生活がずっと続きますようにといつも祈っていたのだった。
その生活が一変したのは、エンリが一人で狩りに出掛けた際に野獣に襲われ、重症を負ってしまった時だった。
傷が深く、もう助からない程の大怪我で、エンリの命の灯火が徐々に小さくなっていくのが分かった。
しかし、ペトロとアグネが泣きながら父の名を呼んでいる隣で、スティーナは彼の命を諦めていなかった。
(嫌だ……こんなの……。絶対に嫌だっ! お父さんを必ず助けるんだからっ!! お願い、どうか私に力を下さいっ!!)
スティーナはありったけの力を両手に込める。
すると両手が淡いピンク色に包まれ、それがエンリの身体全体を覆う。眩い輝きと共に、みるみる怪我が治っていったのだ。
傷も消え、すっかり元気になったエンリに三人は抱きつき、安心感からワンワン声を出して号泣する。
「お父さんの先祖に、二系統の魔法が使える偉大な魔道士がいたそうなんだ。もしかしたら、スティーナは先祖返りをしたのかもしれないね。ありがとう、スティーナ」
三人をしっかりと抱き留め、エンリはスティーナの頭を撫でながらそう言った。
その時に、スティーナの瞳はピンクとエメラルドグリーンのグラデーションに変わったのだった。
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