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42.首謀者
しおりを挟む「はぁーー……ったく、息を吐くようにデタラメ言うんじゃねぇよ。アンタが先に飲みモンをブッ掛けようとしたんだろうが。更にアンタがコイツに平手打ちしようとして、危険を感じたコイツが水をブッ掛けたんだろ? 立派な正当防衛じゃねぇか」
顰め面で長い溜め息をつきながら、セリュシオンはミリシャにそう言葉を投げつけた。
「しかも、以前あった舞踏会ん時もコイツに飲みモンブッ掛けたって? コイツがアンタに掛けたのが色のない水だったことをありがたく思えよな。優しいんだよコイツは。すっげぇ濃い色の飲みモン百回ブッ掛けても良かったのにさ。オレだってアンタに超濃い飲みモンを樽ごとブッ掛けてぇのガマンしてんだよ」
「……っ!」
……分かって、くれた……。
前回の舞踏会の時、自分の言い分を全く聞かず、ボラードはすぐにミリシャの味方をした。
セリュシオンのことは信じていたけれど、心の何処かでその出来事が棘となって残り、ビクビクしていた自分がいて。
それが全て杞憂だったことにフレイシルは嬉しくなり、セリュシオンの背中にギュッと両腕を回した。
「な……何でそれを……?」
ミリシャはワナワナと震えながら独り言のように呟く。
自分にしがみついているフレイシルを、締まりのない顔で抱きしめ返しているセリュシオンの代わりにカイが答えた。
「辺境伯は最初から最後まで貴女達の様子を見ていましたよ。フレイシルさんから離れても、辺境伯はずーっと彼女を見ていましたからね。陛下と謁見中もずーーっと目を逸らさずフレイシルさんを見つめていましたから、いつ不敬を言い渡されるんじゃないかとヒヤヒヤしていましたよ」
「だってお前、オレが離れた途端独身の男どもがコイツに群がるに決まってんじゃねーか。だから少しでも近付こうとするヤツに『威圧』を掛けてビビらせてたんだよ。それでもコイツに寄ろうとするヤツは即行『凍結』させてたけどな」
「『凍結』の犠牲者が出なくて本当に良かったですよ……」
「アンタ達がコイツに近付いていったのは分かってたけどな、もうコイツはやられっ放しにはならねぇし、何か尻尾を出すんじゃねぇかって警戒しながら様子を見てた、ってワケさ」
「……っ!!」
ミリシャの顔が一気に青褪める。
「それにコイツと会うのは“初めて”じゃねぇぜ? 以前あった舞踏会で、デッセルバ商会の息子のパートナーとして出たのがコイツだ」
「…………は?」
「アンタらもそこにいただろ。で、コイツの悪口を言いまくった。それがコイツのニセモノの姿であることを知らずに。今はコイツに『ブス』や『デブ』って言われても全く反論出来ねぇよな? ま、コイツはそんな人が傷付く言葉、ぜってぇに言わねぇけど」
「え……。うそ……。……そんな……」
ミリシャと取巻き達は、信じられないといった顔で、セリュシオンに抱かれるフレイシルを見る。
「じゃ、本題に移らせて貰うぜ。コイツには『とことんやってくれ』って許可を得てるからな。――ミリシャ・フェブラーン。六年前の【フェブラーン子爵領少女暴行未遂事件】の“首謀者”はアンタだと、ここでハッキリさせて貰う」
「は……?」
取巻き達が、驚いたようにミリシャを見る。彼女の表情はピシリと固まっていた。
「その話、聞いたことがありますわ……」
「えぇ、でもミリシャ様は証拠がないとして罪に問われなかったはず……」
「そ……そうですわ!! 証拠もないのに勝手なことを言わないで下さいまし! いくらセリュシオン様とは言え、そんな戯言を――」
「――証拠がある、と言ったら?」
「え……?」
セリュシオンは胸のポケットから、色褪せて古ぼけた一枚の紙を取り出した。
「これ、六年前にオレがボコボコにした暴漢どもが持ってた、アンタと交わした誓約書だ。地面に落ちてたから拾って仕舞っておいたんだ。当事者のフレイシルの意向も聞かずにアンタを罰することは出来なかったから、そのまま持ってて、コイツに会えた時訊こうと思ってたんだよ。で、快諾を貰ったんで、遠慮なくアンタの罪を暴くぜ」
セリュシオンのバリトンの声は、広い会場にもよく響く。
いつの間にか会場は静まり返り、セリュシオン達の様子を皆が興味津々に見守っていた。
セリュシオンが紙を広げて見せると、その内容は銀色の髪の少女を好きなように暴行していい旨と、それに支払う金額が書いてあり、確かにミリシャの直筆の署名があった。
「アンタ、親が留守がちで殆ど家にいないから、好き勝手していたみたいだな。親の金を使って、夜は毎日出歩いて男どもと遊んでいた。だからあんなゴロツキどもとも面識があったってわけだ」
「……こ、こんなもの偽物だわ!! 私が少女を暴行しろだなんて、そんな残酷な依頼を出すはずがないでしょう!? 私は誰かに嵌められたのです!!」
「ここにこんなに堂々と署名しているのにか?」
「それも私の字に似せて書かれたに違いありません! 言い掛かりもいい加減にして下さいまし!!」
断固として否定してくるミリシャに、セリュシオンは深い息を吐いた。
「……チッ、筆跡を調べればすぐにバレんのに……。往生際が悪ぃな……」
「こんな大勢の前で、私に大恥をかかせて……。もうお嫁にいけないかもしれません……。責任を取ってセリュシオン様が私を娶って下さいましね?」
これ以上証拠がなく、勝ったと確信したミリシャは、ギラついた瞳でセリュシオンを見上げニヤリと笑った。
「……おいコラテメェ、フザケんのもいい加減にしろよ。オレは女だからといって容赦はしねぇ。フレイシルを苦しめたヤツら全員グッチャグチャにしてブッ殺してぇのを必死にガマンしてんだよ。これ以上クソな発言したら、マジでブッ殺すからな」
「ヒィッ……!」
セリュシオンの鋭く、人をも一瞬で消滅させそうな冷酷で威圧感のある眼光に、ミリシャは肩を大きく跳ね上がらせ悲鳴を上げる。
「――おやおや、何やら面白いやり取りをしているね?」
その時、低音で落ち着いた声が会場に響いた。
全員が声のした方を見ると、いつの間に近くにいたのか、長身で、紅色の腰まで届く艷やかな長い髪と薄桃色の瞳を持った、四十代前半の誰もが見惚れるほどの美丈夫が、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
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