私、自立します! 聖女様とお幸せに ―薄倖の沈黙娘は悪魔辺境伯に溺愛される―

望月 或

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43.心配症にも程がある

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 その美丈夫は、すぐにフレイシルに目を向けた。
 彼女は美丈夫と同じ薄桃色の瞳を大きく目を見開き、呆然と彼を見つめている。
 美丈夫は突然フレイシルに向かって大股で歩き、セリュシオンが止める間もなく彼女をギュッと抱きしめた。


「ああぁっ! 愛しの我が娘よっ! 会いたかったよ~~っ!! この二年の間に、ママに似て更に美人さんになっちゃって……! パパはすごく嬉しいよ~~っ!!」


 そう叫ぶと、美丈夫台無しのとんでもなくだらしない顔になりながらフレイシルに頬を擦りつけ、ギュウギュウと強く抱きしめてきた。
 フレイシルは固く目を瞑ってイヤイヤと首を振り、美丈夫を一生懸命押し返そうとしている。


「オイコラッ! コイツがすっげぇ嫌がってるだろ!? さっさと離せよなっ!」


 セリュシオンは勢い良く美丈夫とフレイシルをベリッと引き剥がし、彼女を急いで自分の腕の中に隠した。


「んん? 何だい君は。僕の可愛い可愛い愛娘と二年ぶりの再会なのに邪魔をして……。それに僕の許可なく娘に触らないでくれないか?」
「あぁ? さっきから聞いていれば……娘だぁ? フレイシル……まさかこの男、お前の父親なのか? 確かに瞳の色が同じだが……」


 セリュシオンの問い掛けに、フレイシルは何とも言えない顔で小さく頷く。
 セリュシオンは驚愕の表情で美丈夫を見返した。


「はぁ? ――おいおい、マジかよ……。こんな変態クセェ男がフレイシルの父親だなんて……。信じらんねぇな……」
「…………君ね、さっきから態度といい言葉遣いといい最悪だね。君は娘の何なんだい? しかもどこかで聞いたことのある声だが……」
「オレは――」
「オクトバル国王陛下! 遠路遥々いらして下さりありがとうございます! 騒がしくて申し訳ない――」


 すると、向こうから国王が急いで駆け寄ってきた。
 国王の言葉に、その場にいた殆どが驚き両目を剥く。


「オクトバル国王っ!?」
「あぁ、そうだ。今回の国境付近の魔物殲滅の件で、逃げ出した魔物達を誘導してオクトバル王国に向かわせてくれ、その殲滅をしてくれたことと、辺境伯の中にいる『頭領』とは別に、もう一匹いた魔物の『頭領』を倒してくれたのだ。なので、その感謝の意と友好の永続の証として、国王陛下と王妃陛下も本日この場にお招きしていたのだ」
「自己紹介が遅くなって申し訳ないね。僕はラセイン・カーン・オクトバル。隣国のオクトバル王国国王です。以後お見知り置きを」


 ラセインは誰もが腰に響く低音な声音で、優美に一礼をした。


「して、オクトバル陛下。王妃陛下のお姿が見えませんが……」
「あぁ、妻は娘を迎えに預けた家に行ったのですが、ここに娘がいるから擦れ違いになったみたいですね。なに、すぐにこちらに来ると思いますよ」
「娘……とは、そちらの――」
「えぇ。――フレイシル・フィーア・オクトバル。僕の可愛い可愛い一人娘ですよ。ほら、実際に可愛いでしょう?」
「は、はぁ……」


(……やっぱり、な)


 セリュシオンは、フレイシルがオクトバル王国の王女だということは、薄々気付いていた。
 オクトバル王国は魔法王国で、優秀な魔導士が多く、国王も最上級の魔導士だと噂で聞いていた。
 フレイシルが魔力が高く様々な属性の魔法を使えるのは、王族の血を引いているからと考えたのだ。


「フレイシル、早くその野蛮で乱暴な男から離れてパパのところに来なさい?」


 ラセインは優しくフレイシルに声を掛けたけれど、彼女は本気で嫌がり、首を左右に強く振ってセリュシオンの腰に腕を回した。
 セリュシオンはそんな彼女を抱きしめ返しながら、心の中で吹き出していた。


(……あーぁ……。嫌われてんなぁ、このオヤジ)


「クッ……! 僕の大切な娘に手を触れているこの野蛮乱暴男の処罰は後で厳格に行うとして、さっき興味深い話をしていたね? 【少女暴行未遂事件】の首謀者がそこのお嬢さんだと……。――君、名前を教えてくれるかな?」


 ミリシャはフレイシルが王女ということに大きなショックを受けていたようだが、美丈夫のラセインにニコリと微笑まれ、顔を赤くしながら口を開いた。


「ミリシャ・フェブラーンです……。あの、私は首謀者なんかじゃ――」
「あぁ、君がフェブラーン子爵令嬢、ね……。成る程、うん、そうだね。君、首謀者“確定”だね」
「えっ!?」



 唐突に断言したラセインに、誰もが驚いて彼を見た。


「僕さ、娘が四六時中心配で心配で堪らなくて。コッソリ娘に、僕が作った『音声録音機』を付けておいたんだ。娘が産まれた時からずっとね。何がいつ起きてもすぐに駆けつけられるように」
「…………」


 セリュシオンはラセインのその発言に、フレイシルが父を苦手としている訳が何となく分かった気がした。
 フレイシルは、酷く驚いたように父を見ている。『音声録音機』を赤ん坊の時から付けられていたことは初耳だったようだ。


「だから、六年前のあの日のことも録音されているよ。――フレイシル、皆に聞かせても大丈夫かい? 君がホンの少しでも嫌なら止めるよ」


 ラセインの言葉に、フレイシルはゆっくりとセリュシオンから離れると、父に向き合い真剣な表情で頷いた。


「……うん、分かったよ。フェブラーン子爵令嬢が首謀者だと分かる部分だけしか聞かせないから安心しておくれ」


 ラセインは上着の裏ポケットから小さな箱のようなもの取り出すと、そこに魔力を込めた。
 

『――嬢ちゃんよぉ、恨むんだったら、この依頼を俺達に寄越したフェブラーン子爵令嬢と、アンタのその可愛さを恨むんだな』
『お……おい、依頼人の名前を言っていいのかよ。バレたらマズくねぇか?』
『構わねぇさ。これからこの嬢ちゃんを、頭がおかしくなるくらい犯して犯しまくるんだからな。それがフェブラーン子爵令嬢の指示でもあるしさ。お前らもちゃんと聞いてただろ?』
『あぁ、嗤いながら言ってたな、フェブラーン子爵令嬢……。そんなにこの子が嫌いなんだな。女って怖えぇ』


 すると、箱に付いている丸い形の網目の所から男達の声が聞こえてきた。雑音が混じっているが、会話の内容はちゃんと理解出来る。



 会場内はいつの間にか、シンと痛いほど静まり返っていた……。




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