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◆本編◆
10.今日も彼は私に愛を囁く
しおりを挟む「……あ! けど、私をずーっと睨んでいましたよね? だからてっきり嫌われているとばかり……」
「……っ! そ、それも断じて違うっ!! その、暇さえあれば書物ばかり読んでいたら、視力が急激に落ちてしまって……。遠くのものが、目を細めないとボヤけてよく見えなくなってしまったんだ。君のその可愛い顔をしっかりと見たいばかりに、君を見る時はずっと目を細めていた。婚姻式の君は、いつも以上に素敵で綺麗だった……」
……あぁ、近視かぁ!
それがいつも私にだけ睨んでくる理由だったのね……。全く紛らわし過ぎるわ!!
……ん? 聞き慣れない言葉が……? “可愛い”? “綺麗”?
近くても視力が悪くなっちゃったのかな? それって危険レベルでは!?
「あの、眼鏡は買われないのですか?」
「買いに行く時間が無かった。あと、眼鏡なんて買ったことないから、どれを選んだらいいか分からない……」
「……ヴァルフレッド様のお時間が出来たら、一緒に買いに行きましょう?」
「……あぁ、是非ともだ! 勿論二人だけで、一日中だよな? 君とデートが出来るなんて夢のようだ! 仕事も漸く落ち着いたし、近い内に必ず時間を作るからな。約束だぞ?」
うわっ、めちゃくちゃ良い笑顔戴きましたー!!
煌めいて眩し過ぎて直視出来なくてこっちまで目が細くなっちゃうわ。
「あぁ、色々と誤解が解けて本当に良かった。――アディル」
「はい?」
「君は俺の“顔”が大好きなんだろ?」
「え? ――あ、はい。ドンピシャ好みですね」
「……そうだな、俺は君のことをよく分かっているが、君はまだ俺のことを“顔”だけしか知らない。けど、今はそれで十分だ。結婚して、君は一生俺だけの伴侶になったんだ。今までは多忙で一緒にいられる時間が無かったが、これからはある。君の気持ちは今から変えていけばいい。きっと近い内に、君は俺の全てを『愛してる』と言うようになるだろう」
……んんっ? かなり自信満々ですねヴァルフレッド様? その自信は一体どこからくるのですか?
「そういうわけで、アディル」
「はい?」
何が『そういうわけ』なんだ?
「今から“初夜のやり直し”を行う。今夜は何が来ても天変地異が起きても絶対に中断はしない。覚悟してくれ」
「え、えぇ? あの――あっ」
言われると同時にベッドに押し倒され、私は切実な理由で何とかソレを阻止しようとアレコレもがいたのだけれど、結局敗北してしまい――
一晩が過ぎ、朝が過ぎ、その日のお昼頃まで、休む間も無く泣かされ続けたのだった……。
**********
その後のジェニーさんなのだが、ヴァルフレッド様とローレンさんにこってりと絞られたようで、私に頭を下げて謝ってきた。
勿論私はそれを許した。嫌がらせは受けたけど、「次はどんな意地悪をしてくるのかな?」って密かな楽しみになっていたし、それで使用人さん達と更に仲良くなれたから、嫌な思いはしていないしね。
ジェニーさんに、ヴァルフレッド様のどこを好きになったのか聞いたら、即座に
「顔よ」
と、答えた。
……うん、彼女とは良い友人になれそうだわ。
そんな彼女は、遅ればせながら、旦那様捜しの為に社交場に出るようになった。
けれど、嘘の噂を流した張本人なので、皆の目と態度はとても冷たくて……。
社交場から帰る度、涙を流す彼女を慰めることしか出来ないのが歯痒かった。
私とヴァルフレッド様も社交場に出る時、彼女はとても反省していること、私とは仲良くやっていることを真剣に周囲に伝えているけれど、信じてくれるかはその人次第だから……。
それでも彼女は、折れずに社交界に立ち向かっていく。
きっと、皆からの信用を取り戻すには、沢山の努力と時間が必要になるだろう。
けれど、彼女なら乗り越えていけると私は信じている。
そして、ヴァルフレッド様だけれど。
やり直した初夜の翌日から、私と顔を合わせる度に、どこにいても誰といても抱きしめられ、
「愛してる」
とイケボで囁いて頬や額にキスをし、顔を真っ赤にする私の反応を楽しんで、嬉しそうに笑うのだ。
ローレンさんと使用人さん達は、そんな私達に温かい眼差しを送って。
……あ、ローレンさん達は、私がオブラスタ公爵家に嫁ぐ前から、ヴァルフレッド様が私を好きなことに分かっていたらしい。
仕事がお休みの時、毎回いそいそと浮足立って私の家に向かう彼をいつも見送っていたって。
だからあんなに温かく迎え入れてくれたのね……。今もこんな温かい視線を――っていやいや!? 全員顔文字にありそうなニヤニヤーッな視線だぞ!?
「ヴァ……ヴァルフレッド様、も、離して……」
「まだ君の唇にキスをしていないが?」
「ヒェッ!? そこは皆の前では止めて下さい!?」
「あぁなるほど、皆の前以外ならいいんだな? では早速俺の部屋に行くか」
「~~~っ!?」
「フフッ。そんなに顔を赤くさせて……。本当に可愛いな、君は」
――私が彼に身も心も陥落する日は、結構近いのかもしれない……。
※後書き※
本編はこれでおしまいです。ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました!
皆様の口角が少しでも上がってくれたのなら、幸せの極みです。
次からは『初夜やり直し編※R18』になります。
全六話で短く、一日三回更新予定ですので、宜しければ最後までお付き合い頂けたら幸いです。
このお話もまぁ……本編以上にアレですので、生温かい目で見て頂けたらと思います。。
●オマケ●
婚姻式を挙げた後の、仕事仲間との会話 ↓
「……ん? 公爵様、その左手の薬指の指輪……お前結婚したのか!?」
「あぁ、つい先日身内だけで婚姻式を挙げた。結婚式は後日だ」
「そうなのか!? 水臭ぇなぁ、教えてくれよ! とにかくおめでとさん! 結婚式には呼んでくれよ? やっぱり相手はあの彼女か?」
「ラヴェイン伯爵家の一人娘だ。彼女の笑顔がとても可愛くてな。綺麗な翠色の瞳がいつも輝いて喜怒哀楽も豊かで、見ていて全く飽きない。俺の顎や頭を撫でる手が慈愛に満ちて気持ち良くて、いつまでも撫でていて欲しいくらいだ。俺の腹に顔を埋めグリグリされた時は正直かなり戸惑ったが、その時の嬉しそうで無邪気な笑顔に、彼女になら俺はどんなことをされてもいいと……」
「(へ!? いきなり惚気が始まった!? 口元かなり緩んでるし!? 珍し過ぎるぞコイツのこの表情! しかも顎や頭を撫でる? 腹に顔を埋める? 何を聞かされてるんだオレは? ――って、ちょっと待て……ラヴェイン伯爵家の一人娘!?)お、おい、お前の結婚相手って、噂の義妹さんじゃねぇのかよ……?」
「……噂? 義妹!? ――どういうことだ。詳しく聞かせろ。今すぐにだ」
「(ヒェッ! 表情が一気に豹変した……! こえぇーっ!)」
……そこで詳細を知り、噂の発生源の特定をローレンさんに頼んだ次第です。
彼は社交場には出ていましたが、そういった関係の噂には一切興味がなく、周りもそれが分かっていたので何も言わず、結果彼の耳に入ることはありませんでした。。
教訓:公爵たる者、流行も社交界の噂もしっかり取り入れよう。
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