26 / 26
26.娘は幸せを取り戻す
しおりを挟む「お二人が仲直り出来て良かったですけど、今度はひどくお疲れですわね、アスタディア?」
テトディニス公爵家のいつものテラスで、優雅にお茶を飲んでいるユリアンヌの向かいで、アスタディアはグッタリとテーブルに顔を突っ伏していた。
「だ、だって……。シンが……シンがいけないのよ……!」
矛先を向けられた、アスタディアの斜め後ろに立っていたシンは、目に見えて上機嫌で。いつもは真っ直ぐに結んでいる口が緩んでいる。
「アスが可愛過ぎて止められなかったんだ……ゴメンな」
「だ、だからって、夕方からずっとで、夜も一晩中だなんて……! 流石に途中で寝てしまったけど! ねぇユリアンヌ、男の人ってそんなに続けて何回もできるものなの!? それが当たり前なのっ!?」
「え、えぇ……? そうですわね……それは人それぞれなのですが、一般的に考えますと、当たり前ではないかと……。シンラン様はアレですわね、所謂“性欲大魔人”ですわね」
「せいっ……だ、だいまじんっ!?」
「ユリアンヌ、またそういうことを平気で……」
「勿論アス限定のな」
「……シンラン、巫女の身体の管理も聖獣の役目です。くれぐれも無理はさせないよう」
「分かってるって。――ホントゴメンな? アス。今日は体が辛いだろうし、オレがアスの足代わりになるよ。さっそく抱えて――」
「結構です! 世間の目も考えて!? 今日はこれから巫女のお役目があるから、ちゃんとしないと――あら? ユリアンヌ、このハーブティーすごく美味しいわ!」
「ふふ、疲労回復の効果もあるハーブティーですから、たっぷり飲んで無事にお務めをこなしましょう」
今日は《太陽の巫女》と《月の巫女》の定期のお務めがある日だ。
大公の屋敷へ行き、そこに集まった巫女の力が必要な人々の治療や浄化を行うのだ。
「そろそろ大公家行きの馬車が公爵家に到着している頃ですわ。行きましょうか」
「えぇ」
ユリアンヌとアスタディアは立ち上がり、二人並んで雑談に花を咲かせながら歩く。
アスタディアの楽しそうな姿を、口元に微笑みを浮かばせながら見ているシンに、ソウは一瞬躊躇したが、思い切って口を開いた。
「シンラン。その……里にいた頃、君の気持ちを汲み取ることが出来ず申し訳ありませんでした」
シンは驚いたようにソウを振り返って見た。やがて、その顔にニッと笑みを浮かべる。
「いーよ。オレもバカだったんだ。悪いことして皆の気をオレに惹かせようだなんて。里に行くことがあったら、皆に謝るよ。許して貰えないかもだけど、精一杯謝る。今のオレにはそれくらいしか出来ないから」
「シンラン……。本当に変わりましたね……」
「そうか? ……そうだな。アスに出会えてなかったら、オレは里にいた頃の、燻ってどうしようもないクズで最低なオレのままだったな……。オレ、ホント《月の聖獣》で良かった。心からそう思う。そのお蔭でアスに会えたんだから」
「……そうですか」
「初めて愛する喜びを知って、愛される嬉しさも知った。“尊い”って、こういうことを言うのかな。――オレは今、すごく幸せだよ」
アスタディアを温かな眼差しで見つめながら、素直に己の気持ちを語るシンに、ソウは眩しいものを見るように目を細めた。
「今の君は、誇れるくらい立派な《月の聖獣》ですよ」
「ははっ、そーか? お前からそんな言葉が聞けるなんて嬉しいぜ」
「けど、アスタディア様に無理をさせたのは良くないですね。しかもお務めの前日に……。もう少し自重して下さい」
「あー……。分かってるんだけどさ、アスを目の前にすると、その自重がどっか行っちまうんだよ。なぁソウテン、お前だってそうだろ? 《太陽の巫女》を抱いたことはないなんて言わせないぜ」
「……それは……まぁ……そうですが……」
「ははっ、認めてやんの。な? お互い様だろ?」
「……フッ、そうですね」
後ろでソウとシンが並んで笑い合っている姿に、ユリアンヌとアスタディアは目を見開いて二度見し、前を向くと自然と顔を寄せ合ってコソコソと話し出す。
「ちょっ、ちょっとユリアンヌ! あの二人ってあんな目に見えて仲良かったっけ!?」
「いえ、わたくしも初めて見ますわ……。ビックリですわね。けれど美形殿方二人が肩を寄せ笑い合う光景は眼福ですわ……」
「ユリアンヌもそう思う!? 私もあの光景を脳裏に焼き付けて永久保存したいわ。あ、そう言えば、ソウさんも聖獣姿に変身出来るのよね? 聖獣姿のシンと二人並べてセットで愛でたいわ!! 想像しただけですごくニヤけちゃう!」
「あら、それはいい提案ですわね。けれどソウはなかなか聖獣の姿になってくれませんのよ。あの姿、とても可愛らしいですのに。でもアスタディアのお願いとあれば彼に頼んでみますわ。弱みをチラつかせればきっと――」
「えっ、弱み……?」
「何の話をしているのですか? ユリアンヌ」
気付くとすぐ近くにソウがいて、ニコニコと微笑んでいる。その笑顔がすごく怖い。
「いえ? ただのありきたりな女同士の雑談ですわ。気にしないで下さいませ」
ソウの迫力ある笑みに屈することなく、ユリアンヌもニッコリ笑って返す。
(この二人、ホントいいコンビよね……)
アスタディアが二人を眺めながら改めてそう実感していると、手に温もりが触れ、そのまま指が絡んできた。
見上げると、シンがこちらを見つめていて、ニッと笑みを見せる。アスタディアも笑い返し、どちらともなく身体を寄り添って前へ歩き出す。
――暗い世界から必死に這い上がり、取り戻した光り輝く幸せは、これからも変わらず続いていくだろう。
二人の絆と愛と、幸せを心から願う気持ちがある限り、きっとずっと、永遠に――
応援ありがとうございます!
24
お気に入りに追加
650
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
沙吉紫苑様、こんにちは(^^)
おぉっ! 確かに……どうなるんでしょう!?←全く考えてなかった奴
私的には、ヨセフに関しては紫苑様のご意見を積極的に採用したいです!(笑)
役に立たなくなるだけなんて生温いわ!『腐って落ちるがよい』!!(言い方もステキです(^□^))
そして……そうですそうです!!ピアスもといイヤリングです!
教えて下さり本当にありがとうございますm(_ _)m 直しておきます!
実は最初考えていたのが、もう一つの装飾品がイヤリングではなくネックレスだったんです。その名残が残ってました(^o^;
クスリとさせる感想と、間違いを教えて下さりありがとうございました♡
かめきち様、こんにちは(^^)
かめきち様の感想に思い切り吹き出しちゃいました(笑)
ですよねっ!!(大きく頷く)
きっと、窃盗のプロとしての感か何かが働いたのでしょう(笑)
作者の中でもヨセフはすごくムカつく奴ですが、情けなくてちょっと憎めない奴でもあります……
けど、もげてしまえ!!
笑顔になれる感想をありがとうございました♡