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第29話 テレサ
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テレサは王宮の広間で腕輪を受け取ることになった。わたしは聖女親衛隊に制服を作ることを提案した。その案はすぐに採用されて侍女長が我が物顔に仕切っている。
いくつかデザイン画を描かせて、わたしは自分の親衛隊の制服を決めた。
地味な分、いい生地を使うように指示を出した。王妃の予算からも費用を出すように手配をした。
そして、テレサに腕輪を渡すとともに親衛隊の発足を宣言する日がやって来た。
テレサは特例で学院の卒業資格を得たようだ。
わたしとトニーは王座に並んで親衛隊の入場を待った。まわりには貴族が並んでいる。娘が親衛隊に選ばれた家は前列にいる。そのなかでひときわ大きな態度なのは、アイリスが選ばれたアイボーナ侯爵。ガーベラが選ばれたリシッド伯爵だ。
トニーの前には腕輪がビロードの台座の上に置かれている。わたしが町の露店で買った安物だけどね。
やがて、扉が大きく開き聖女親衛隊が侍女長を先頭に入って来た。侍女長の後ろに二列に並んでいる。列の五番目にテレサがいる。
そして聖女親衛隊が着ている制服はわたしが選んだものではなかった。
とっくに知っていたけど・・・覗きをしていたから・・・驚いた演技をした。
部屋で練習したのよ。
「え?」と声を出し立ち上がりかけて寸でのところで自分を抑えて、だけど・・・だけど椅子の肘掛を握りしめる。
わたしを見た侍女長が微かに得意顔になったし、親衛隊は全員が笑いをこらえた顔になった。
こいつら遠慮なく叩きのめしていいなと思うと力が沸いて来た。
「テレサ、こちらへ」とトニーがテレサに声をかけた。公式の場で直接声をかけたことはテレサの後押しになる。
「はい」と返事をしたテレサは最後尾からゆっくりと歩いて前に出た。制服をひらひらなびいている。ふふふ、侍女長も同じ制服を着ている。
ひざまづこうとしてテレサを止めてトニーが立ち上がり、彼女の腕を取って腕輪をはめた。腕輪は彼女の腕にピタリとはまった。
テレサが振り向くと髪のひと房の色が変わっていた。
部屋のなかにいた貴族がいっせいに拍手した。
テレサが段を降りると侍女長の隣りに並んだ。
わたしは、テレサに話しかけた。
「こうしてみると侍女長とは違う美しさね」
「わたくしは祖母に似ております。祖母は聖女様のお世話をなさった方に似ているそうでございます。母は母の父方の祖母に似ております。それでわたくしと母はあまり似ておりません」
「なるほど、そうなのですね。神託があなたを名指しした理由はそこなのでしょう。テレサ。よろしくお願いしますね」とわたしは言った。侍女長には声をかけなかった。
この後親衛隊の家族を招待して食事会を催した。立食式で行なわれたそこで親衛隊とその家族はトニーを取り囲んで話をした。
いろいろ腹が立ったから部屋の温度を少し上げてやった。
わたしは、頃合を見てトニーより先に退出した。そして赤毛に変わると隠蔽で姿を隠し会場に戻った。
「・・・この制服を見た時・・・見ものだったわね」
「あの方に仕切るおつもり・・・笑えるわ・・・」
「シャトレニアのやつら・・・負け戦を誤魔化して・・・」
「誤魔化したとは?」気にしていた話題だ。わたしはそっとそばに寄った。
話しているのは得意顔のアイボーナ侯爵だ。
「やつら、聖女に感銘を受けたとか言って休戦を持ちかけて来たのだ」
「聖女にですか?それはどういう?」と周りで話を聞いている一人が質問した。
「あぁそれな!聖女が相互不可侵の平和条約を結べと言って来たと言うのだ。敵軍までやって来て・・・」とアイボーナ侯爵は馬鹿にした口調で説明を続けた。
「あちらが言うには聖女が陣まで来て戦争をやめろ。シャトレニアの負けで終わりにしろと言ったとか・・・まぁわたしの軍が叩きのめしてやった後なので、終わりにしたいと思ったのだろうが、我が侯爵軍に負けて終わりと言いたくなかったようで、聖女のことを持ち出したんでしょう。平和を望む気持ちはわたしも持っておりますので、顔を立てましたがね・・・あの聖女様がのぼせ上がってもいけませんので・・・単なる休戦協定としました」とアイボーナ侯爵が喋っているところにリシッド伯爵がやって来て
「随分、お手盛りの武勇伝ですな・・・我が伯爵軍がいてこその勝利だったことをお忘れですか?」と割り込んだ。一瞬いやな顔をしたアイボーナ侯爵だったが、にっこり笑ってリシッド伯爵の肩を叩きながら
「いやだな、ともに轡を並べた戦友の武勇伝は今からじゃないですか?」と言った。
「そうだな。ともに娘が聖女となった。これからだな」とリシッド伯爵は言うと盆に飲み物を乗せて会場を回っていた給仕に目配せをした。
グラスを一つ取りアイボーナ侯爵に渡すと自分も一つ取り
「聖女に」と言うと飲み干した。アイボーナ侯爵は
「親衛隊に」と言って同じように飲み干した。
わたしは隠蔽を解くと隅に置いてある果実水を二杯飲むとそのまま会場を出た。
いくつかデザイン画を描かせて、わたしは自分の親衛隊の制服を決めた。
地味な分、いい生地を使うように指示を出した。王妃の予算からも費用を出すように手配をした。
そして、テレサに腕輪を渡すとともに親衛隊の発足を宣言する日がやって来た。
テレサは特例で学院の卒業資格を得たようだ。
わたしとトニーは王座に並んで親衛隊の入場を待った。まわりには貴族が並んでいる。娘が親衛隊に選ばれた家は前列にいる。そのなかでひときわ大きな態度なのは、アイリスが選ばれたアイボーナ侯爵。ガーベラが選ばれたリシッド伯爵だ。
トニーの前には腕輪がビロードの台座の上に置かれている。わたしが町の露店で買った安物だけどね。
やがて、扉が大きく開き聖女親衛隊が侍女長を先頭に入って来た。侍女長の後ろに二列に並んでいる。列の五番目にテレサがいる。
そして聖女親衛隊が着ている制服はわたしが選んだものではなかった。
とっくに知っていたけど・・・覗きをしていたから・・・驚いた演技をした。
部屋で練習したのよ。
「え?」と声を出し立ち上がりかけて寸でのところで自分を抑えて、だけど・・・だけど椅子の肘掛を握りしめる。
わたしを見た侍女長が微かに得意顔になったし、親衛隊は全員が笑いをこらえた顔になった。
こいつら遠慮なく叩きのめしていいなと思うと力が沸いて来た。
「テレサ、こちらへ」とトニーがテレサに声をかけた。公式の場で直接声をかけたことはテレサの後押しになる。
「はい」と返事をしたテレサは最後尾からゆっくりと歩いて前に出た。制服をひらひらなびいている。ふふふ、侍女長も同じ制服を着ている。
ひざまづこうとしてテレサを止めてトニーが立ち上がり、彼女の腕を取って腕輪をはめた。腕輪は彼女の腕にピタリとはまった。
テレサが振り向くと髪のひと房の色が変わっていた。
部屋のなかにいた貴族がいっせいに拍手した。
テレサが段を降りると侍女長の隣りに並んだ。
わたしは、テレサに話しかけた。
「こうしてみると侍女長とは違う美しさね」
「わたくしは祖母に似ております。祖母は聖女様のお世話をなさった方に似ているそうでございます。母は母の父方の祖母に似ております。それでわたくしと母はあまり似ておりません」
「なるほど、そうなのですね。神託があなたを名指しした理由はそこなのでしょう。テレサ。よろしくお願いしますね」とわたしは言った。侍女長には声をかけなかった。
この後親衛隊の家族を招待して食事会を催した。立食式で行なわれたそこで親衛隊とその家族はトニーを取り囲んで話をした。
いろいろ腹が立ったから部屋の温度を少し上げてやった。
わたしは、頃合を見てトニーより先に退出した。そして赤毛に変わると隠蔽で姿を隠し会場に戻った。
「・・・この制服を見た時・・・見ものだったわね」
「あの方に仕切るおつもり・・・笑えるわ・・・」
「シャトレニアのやつら・・・負け戦を誤魔化して・・・」
「誤魔化したとは?」気にしていた話題だ。わたしはそっとそばに寄った。
話しているのは得意顔のアイボーナ侯爵だ。
「やつら、聖女に感銘を受けたとか言って休戦を持ちかけて来たのだ」
「聖女にですか?それはどういう?」と周りで話を聞いている一人が質問した。
「あぁそれな!聖女が相互不可侵の平和条約を結べと言って来たと言うのだ。敵軍までやって来て・・・」とアイボーナ侯爵は馬鹿にした口調で説明を続けた。
「あちらが言うには聖女が陣まで来て戦争をやめろ。シャトレニアの負けで終わりにしろと言ったとか・・・まぁわたしの軍が叩きのめしてやった後なので、終わりにしたいと思ったのだろうが、我が侯爵軍に負けて終わりと言いたくなかったようで、聖女のことを持ち出したんでしょう。平和を望む気持ちはわたしも持っておりますので、顔を立てましたがね・・・あの聖女様がのぼせ上がってもいけませんので・・・単なる休戦協定としました」とアイボーナ侯爵が喋っているところにリシッド伯爵がやって来て
「随分、お手盛りの武勇伝ですな・・・我が伯爵軍がいてこその勝利だったことをお忘れですか?」と割り込んだ。一瞬いやな顔をしたアイボーナ侯爵だったが、にっこり笑ってリシッド伯爵の肩を叩きながら
「いやだな、ともに轡を並べた戦友の武勇伝は今からじゃないですか?」と言った。
「そうだな。ともに娘が聖女となった。これからだな」とリシッド伯爵は言うと盆に飲み物を乗せて会場を回っていた給仕に目配せをした。
グラスを一つ取りアイボーナ侯爵に渡すと自分も一つ取り
「聖女に」と言うと飲み干した。アイボーナ侯爵は
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