王妃はわたくしですよ

朝山みどり

文字の大きさ
26 / 38

26 遭遇

しおりを挟む
 ジュディはバージルから毎日来るように言われていたが、バーバラ・ジェーンと会いたくなかった。幸いドレスの注文で忙しくそれどころでないと言い訳が出来た。

 何故なら、王妃が予定より刺繍を追加したがるのを阻止するのが、大変だったからだ。

「王妃殿下、刺繍を全体に入れる必要はありません。お茶のテーブルに着きますので、上半身に力を入れましょう。

 装身具はなしで行きます。当然話題になります。ならなければわたくしが話題にします。そしたら慎ましやかに言いましょう。いいですか。こう言いましょう。装身具の代金を寄進すると」とジュディが言うと

「まぁ素晴らしい。いいわね。それで行きましょう」

「刺繍は清らかな優しい百合をいれましょう」とジュディが言うと

「任せたわ」と王妃が両手を打って言った。


 王妃の採寸をすませデザインが決まった。王妃のドレスは袖をふくらませた。カフスに王妃に内緒でこっそり刺繍を入れることにした。予算が余ったからだ。お茶席でカフスが映えるだろう。

 ジュディは細い袖でカフスもつけない。完全なお揃いは恐れ多いからと言い訳をするつもりだ。王妃が、本心からお揃いを望んでいるにしても、お揃いにした時の軋轢が怖いし、面倒だ。

 生地は下から二番目の値段のものにした。それが気に入ったし、目的に叶っている。予算が余ってジュディは困った。寄付に回す分に混ぜる?いやーー自分のお金ならそうするが・・・寄付だって最初からそのつもりで予算が・・・

 それでバージルに相談しようと執務室を訪ねた。バーバラ・ジェーンがいると思うと気が重い。だが、王妃もバージルも味方だ。その威を借りて戦おうとジュディはドアをノックした。

 ミックがドアを開けて

「よく来たね。待ってたよ」

「ご指導頂きたいことがありまして」

「あら、ジュディ、その格好は侍女でしょ。ここで教えて貰うってなんでしょうか?皆さんは忙しいのですよ。わたくしが教えます。こちらへ」とバーバラ・ジェーンが腰に手を当てて言った。

 バージルが頷いたのを見たジュディは

「王妃殿下の予算ですが」

「なに、あなた、王妃殿下の使い走りになったの?勉強してると思ったけど・・・妥協したのね。増額は聞かないわ。あるものでやりなさい」
「大司教様の」
「あぁ大司教様ね、王妃殿下から助けを求められてるのよ。何度も断ったけど、手伝うわ。お茶会に出てあげる。予算は」とジュディの手から書類をひったくって金額を見て
「まぁ!二本線で強調してるのね。この金額でわたくしのドレスを作ります」
「予算が」
「別から持ってくればいいのよ。これだから、困るのよ。時間がないわ。どこのドレスメーカーに頼んだの?あぁここね。無理が聞く所よ。すぐ行くわ」

「デザインについて説明しま」

「あちらが詳しいわ。直接話します」と言うとバーバラ・ジェーンは部屋を出て行った。

 ミックは侍女とバーバラ・ジェーンが去って行ったのを廊下を見て確認すると

「いやぁ、飛びつきましたね」と言った。

「本当だ。ここの仕事が手に余るってわかっただけで、それなりだが」とバージルがよく飲み込めていないジュディを見て言うと

「ちょっと説明するね」」とライリーは言うと、座れとジュディに合図した。


「つまりね、あの娘は自己評価が高い。王宮で切れ者と言われたい。そしてバージルを狙っている。王妃の下で華やかな役割もしたいが、バージルにも認められたい。そこにこれだ。ジュディは王妃の代理をやってもいいのだろう。

 今、止めてやるのが親切だが、最後までやらせてみよう。それをジュディ、王妃として断罪してみろ」

「えーー?確かにわたくしは王妃だけど・・・」

「あの娘は多分、豪華な衣装を作るだろうな」とバージルが言うとジュディは

「お茶の席では指摘しません。多分別の間違いを起こします。そこを咎め立てしてから、予算のことは家の問題として責め立てます」

「いい線行ってる」とライリーが言うと

「わたくし、なんだか楽しみになって来ました」


 そう言ったジュディは、バージルが入れたお茶を飲んで、ビスケットを食べながら

「王妃殿下って意外といい人だと感じます。いろいろ聞いていたからでしょうね。それに比べるとってことで」

 と言うと戻って行った。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...