黙ってすっこんどいたら良かったのに

朝山みどり

文字の大きさ
33 / 43

33 社長交代の日 アサト目線

 社長交代を発表した日、用事が済むと倉庫に戻ろうとするカオリを誘って早く帰った。

 話があるというカオリに風呂を勧めて、夕食の支度を始めた。風呂上がりのいい女になるカオリを想像して、ニヤニヤしてしまうが、多分今日のことで怒るだろうから、言い訳をどうしようかと考える。

「いい匂いね」と言いながら、カオリがやって来た。

「梅酒の水割り、冷蔵庫に入ってるよ」と言うと、
「おぉ」と言いながら取り出して、立ったまま一口飲んで、
「美味しい」と笑ったが、すぐに真顔になって
「何故?内緒だったの?」と一言。じっと俺を見て
「わたし、黙ってられたわよ。信用しなかったの?」
「違う、違う、驚かせたかっただけ」と言うとじっと見つめられた。

「わかったわ。確かにあそこは、テコ入れが必要だと思う。あなたが適任かどうかはわからないけど」

「ちゃんとやるよ。これでやっと明日からは一緒に出勤できるね」と当たり前の口調で言うと、
「そうかな?一緒?」
「だって、同じ所に出勤だろ」
「そうだけど、わたし、もう大丈夫だから部屋を探すね」
「そんな必要ないよ。今、別に困ってないだろ。僕たち。」
「うん」
「だったら、このままでいいよ。そろそろグラタンが出来上がる。席についていて。あっ俺のワインを食卓に持って行って貰える?」と料理しながら、飲んでいたワインを見た。
 カオリはワインの瓶を食卓に持って行って、そのまま席に着いた。

 今日はカオリの好きな献立だ。クラッカーにクリームチーズを載せたもの。千切り野菜のコンソメ。アスパラガスのサラダ。カボチャと挽肉のグラタン。
 カオリは献立に何にも言わないけど、嬉しそうにしている。さりげなく梅酒のおかわりを作った。

 彼女はこれを俺の得意料理だと思っているが、俺はこれを得意料理にしたんだ。

 カオリがいつにない食欲で食べていくのを俺は見ていた。

「このコンソメの野菜の口当たりが真似しても出ないのよね。わたしも自分で作ってたんだけど。だって野菜を千切りにするだけでしょ。まぁわたしはざく切りで作ってたけどね。でも時間がある時、丁寧に千切りにしてもこんなにおいしくできなかった。スープはキューブよね」

「うん、キューブだよ。いつものメーカーだけど」

「うーーん不思議、かわりはないと思うけど」とカオリが言うけど、これは包丁を研いでないと美味しくないんだ。カオリの包丁は切れが悪いし、はっきり行って手際も悪い。千切りに時間をかけるのがおかしい・・・だけど、種明かしはしない。これは俺だけが作れる味だ。

 デザートのレモンゼリーを食べながら俺はカオリに言った。

「カオリ。カオリは俺の特別だ。再会できたのは神が俺にチャンスをくれたのだと思っている。俺はカオリを傷つけた二人を許せない。君の成果を横取りした奴らを許せない。君は好きにしていい。だけど俺をそばに置いて欲しい」

 カオリが俺をじっと見ている。

「信じていいの?本当に信じていいの?」

「あぁ、信じてくれ。絶対に裏切らない。愛してる。昔からずっとカオリだけを愛しているんだ」

「わたしも愛してる。大切よ。信じてる」

 席を立ってカオリの前にひざまずいた。手をとって自分の手で包み込んだ。


 それから俺は紅茶を淹れなおしてカオリの前に置いた。


 紅茶を飲みながらカオリは、いたずらっぽく笑うと、

「よかったこれで食べることにことかかない。アサトレストランを手に入れた」と言った。

 それから俺たちは、ソファに移って隣同士に座った。今、流行りの映画の話やラベンダーランドの話をした。

 いつの間にかカオリの肩を抱いていた。

 俺はカオリの腰をしっかりと抱いて寝室へ導いた。












感想 0

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

彼女の微笑み

豆狸
恋愛
それでも、どんなに美しいとしても、私は彼女のように邪心のない清らかな微笑みを浮かべるよりも、穢れて苦しんで傷ついてあがいて生きることを選びます。 私以外のだれかを愛しながら──

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。