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婚約破棄の真っ最中に思い出した
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そろそろ時間だなとエリザベート・バンドリンはペンを置いた。先ほど追加が届けられた書類をみてため息をついたが、席をたつとカーテンを閉めて部屋をでた。
一人、廊下を急ぎ会場として指定されたあずま屋がみえた瞬間、やや目を見開いた彼女はすぐに表情を消し歩みを進めた。
近づく彼女をみた、ピンクのフリルが可愛いドレス姿の令嬢が
「お義姉様、遅いですわ」と声をかけた。
「遅れて申し訳ございません」と頭を下げた彼女にそれ以上声を掛けるものはなく、しばらく彼女はそのままの姿勢を続けた。
テーブルについた面々は目線を交わし少し笑いあった。
「いつまでそうしておる。ただでさえ遅れたのだ。さっさと席に付け」とピンクのドレスの令嬢の隣に座っていた男が声を出した。
黙って頭をあげたエリザベートは自分で椅子をひいて席についた。
一同を見回してうんざりした。こんなことなら執務を続けたほうがよかったなと思いながら、全員の服装を観察した。
エリザベートは執務に忙しく流行にうといが、王妃が着ているのは座ったときに美しくみえるように上半身にレースを使ったドレスだ。多分コルセットは緩めだろう。国王は仕立ての良いシャツの胸ポケットに王妃とおそろいのレースをのぞかせている。
右隣のバンドリン夫妻はめかしこんでいるが、どことなく垢抜けない。あの光沢のある生地は肌の色にあっていない。高い物を着ているのに勿体無い。
左隣の婚約者の王太子と義妹はお揃いの服装だった。義妹のピンクを王太子は胸ポケットからのぞかせ、義妹の耳を飾る宝石は王太子の目の色の青だ。
そうしていると、侍女がお茶のカップをエリザベートの前に置いた。みるからに冷めている。不味そうだ。しかし休憩もなしに執務していた彼女はカップを取りあげお茶を飲んだ。
まだカップを手に持っている彼女に向かって王太子が
「エリザベート、お前との婚約は白紙にした」
はくし・・・・はくし・・・・王太子の言葉は耳に届いたが意味がわからなかった・・・・
エリザベートは機械的にお茶を飲んだ。コクッ。コクッ。コクッ。
見知らぬ場所。明るい棚に並ぶカラフルな・・・それ知ってるプリン。ゼリー。レモンパイ。
レモンパイを手元のカゴにいれる。そうこれはペットボトルのお茶・・・・どうして知ってるの?
袋にいれたそれらを持って歩いている。私だ。部屋に向かっている。本が待っている。自然と顔が微笑む。覚えているこの幸福感・・・・
それからヘッドライト・・・・白紙・・・婚約を・・・・
「王太子妃にふさわしいのはこのシャーロットだ」エリザベートの意識は鮮明になった。
カップを置いたエリザベートは
「かしこまりました。婚約の白紙でございますね。お知らせくださいましてありがとうございます。あっそれとご婚約おめでとうございます」
座ったまま一気に言ったエリザベートは、侍女に向かって
「お茶を入れ直して頂戴」と言った。
侍女が入れ直したお茶を一口飲んで
「さっきよりましね」と小声でつぶやいた。
半泣きで立ち去るだろうと予想していた一同は驚いてエリザベートの態度を咎めることができなかった。
ゆうゆうとテーブルのレモンパイを自分で皿にのせたエリザベートにシャーロットが話しかけた。
「お義姉様、ごめんなさい。わたしがエドワード様のお心を奪ってしまって」
美味しそうにレモンパイを食べていたエリザベートはパイを飲み込むとシャーロットに向かって
「謝ることはありません。婚約とはいえ正式なものではありませんでした。シャーロットは王太子殿下と学園でいつも一緒に行動してましたし、皆さん察していたのではありませんか?・・・・」
そういうとエリザベートはなにか不愉快なことがあったと言わんばかりにナプキンで口でぬぐった。それからレモンパイを食べ終えた。
エリザベートはテーブルを見回しオレンジピールのはいったバウンドケーキをお皿にとってフォークで口に運んだ。
「皆様、わたくしの事を気にせず婚約式のことなど相談なさって下さい。いつものようになさって下さい。わたくしの存在など気にかけることでないかと・・・」
そして、ビスケットを何枚か取ると侍女に合図してお茶をおかわりした。
バンドリン侯爵は口を開きかけては閉じを何度か繰り返していたが、意を決して
「お前はさっきからなにをやっているんだ」と声を出した。出してからしまったと思った。なんとも間抜けな質問だと自分でも思ったからだ。
エリザベートは落ち着き払って、ビスケットを飲み込むとお茶を一口飲みこう言った。
「なにをと・・・・ごらんになっているとおり、お茶を楽しんでいます。お昼も食べずに書類を片付けておりましたので、お菓子が美味しくて・・・・」
こう答えると侯爵をみて
「申し訳ありません、質問の意図を汲み取ることができませんで・・・・わたくしのマナーになにか誤りがございましたでしょうか?」
「いや、なにもない」
「さようでございますか?」と侯爵に答えたあと、ナプキンで口をぬぐった。
◇◇◇◇
「なに、あの態度。ほんと嫌いよ。あのすまし顔」
エリザベートが立ち去った後でシャーロットが言うと
「気にすることない。あいつのことなんか」と王太子が答え
「そうだ、婚約ができなくて悔しいのを隠すのに必死だったじゃない。わたしの目はごまかせないわ」と侯爵夫人がシャーロットを慰めた。
王妃は
「これから忙しくなるけど、楽しくもあるわね」
「そうだ。王太子も立場を大切にな」
全員、エリザベートの態度に気圧されたことに気づかない振りをして、しゃべり続けた。
一人、廊下を急ぎ会場として指定されたあずま屋がみえた瞬間、やや目を見開いた彼女はすぐに表情を消し歩みを進めた。
近づく彼女をみた、ピンクのフリルが可愛いドレス姿の令嬢が
「お義姉様、遅いですわ」と声をかけた。
「遅れて申し訳ございません」と頭を下げた彼女にそれ以上声を掛けるものはなく、しばらく彼女はそのままの姿勢を続けた。
テーブルについた面々は目線を交わし少し笑いあった。
「いつまでそうしておる。ただでさえ遅れたのだ。さっさと席に付け」とピンクのドレスの令嬢の隣に座っていた男が声を出した。
黙って頭をあげたエリザベートは自分で椅子をひいて席についた。
一同を見回してうんざりした。こんなことなら執務を続けたほうがよかったなと思いながら、全員の服装を観察した。
エリザベートは執務に忙しく流行にうといが、王妃が着ているのは座ったときに美しくみえるように上半身にレースを使ったドレスだ。多分コルセットは緩めだろう。国王は仕立ての良いシャツの胸ポケットに王妃とおそろいのレースをのぞかせている。
右隣のバンドリン夫妻はめかしこんでいるが、どことなく垢抜けない。あの光沢のある生地は肌の色にあっていない。高い物を着ているのに勿体無い。
左隣の婚約者の王太子と義妹はお揃いの服装だった。義妹のピンクを王太子は胸ポケットからのぞかせ、義妹の耳を飾る宝石は王太子の目の色の青だ。
そうしていると、侍女がお茶のカップをエリザベートの前に置いた。みるからに冷めている。不味そうだ。しかし休憩もなしに執務していた彼女はカップを取りあげお茶を飲んだ。
まだカップを手に持っている彼女に向かって王太子が
「エリザベート、お前との婚約は白紙にした」
はくし・・・・はくし・・・・王太子の言葉は耳に届いたが意味がわからなかった・・・・
エリザベートは機械的にお茶を飲んだ。コクッ。コクッ。コクッ。
見知らぬ場所。明るい棚に並ぶカラフルな・・・それ知ってるプリン。ゼリー。レモンパイ。
レモンパイを手元のカゴにいれる。そうこれはペットボトルのお茶・・・・どうして知ってるの?
袋にいれたそれらを持って歩いている。私だ。部屋に向かっている。本が待っている。自然と顔が微笑む。覚えているこの幸福感・・・・
それからヘッドライト・・・・白紙・・・婚約を・・・・
「王太子妃にふさわしいのはこのシャーロットだ」エリザベートの意識は鮮明になった。
カップを置いたエリザベートは
「かしこまりました。婚約の白紙でございますね。お知らせくださいましてありがとうございます。あっそれとご婚約おめでとうございます」
座ったまま一気に言ったエリザベートは、侍女に向かって
「お茶を入れ直して頂戴」と言った。
侍女が入れ直したお茶を一口飲んで
「さっきよりましね」と小声でつぶやいた。
半泣きで立ち去るだろうと予想していた一同は驚いてエリザベートの態度を咎めることができなかった。
ゆうゆうとテーブルのレモンパイを自分で皿にのせたエリザベートにシャーロットが話しかけた。
「お義姉様、ごめんなさい。わたしがエドワード様のお心を奪ってしまって」
美味しそうにレモンパイを食べていたエリザベートはパイを飲み込むとシャーロットに向かって
「謝ることはありません。婚約とはいえ正式なものではありませんでした。シャーロットは王太子殿下と学園でいつも一緒に行動してましたし、皆さん察していたのではありませんか?・・・・」
そういうとエリザベートはなにか不愉快なことがあったと言わんばかりにナプキンで口でぬぐった。それからレモンパイを食べ終えた。
エリザベートはテーブルを見回しオレンジピールのはいったバウンドケーキをお皿にとってフォークで口に運んだ。
「皆様、わたくしの事を気にせず婚約式のことなど相談なさって下さい。いつものようになさって下さい。わたくしの存在など気にかけることでないかと・・・」
そして、ビスケットを何枚か取ると侍女に合図してお茶をおかわりした。
バンドリン侯爵は口を開きかけては閉じを何度か繰り返していたが、意を決して
「お前はさっきからなにをやっているんだ」と声を出した。出してからしまったと思った。なんとも間抜けな質問だと自分でも思ったからだ。
エリザベートは落ち着き払って、ビスケットを飲み込むとお茶を一口飲みこう言った。
「なにをと・・・・ごらんになっているとおり、お茶を楽しんでいます。お昼も食べずに書類を片付けておりましたので、お菓子が美味しくて・・・・」
こう答えると侯爵をみて
「申し訳ありません、質問の意図を汲み取ることができませんで・・・・わたくしのマナーになにか誤りがございましたでしょうか?」
「いや、なにもない」
「さようでございますか?」と侯爵に答えたあと、ナプキンで口をぬぐった。
◇◇◇◇
「なに、あの態度。ほんと嫌いよ。あのすまし顔」
エリザベートが立ち去った後でシャーロットが言うと
「気にすることない。あいつのことなんか」と王太子が答え
「そうだ、婚約ができなくて悔しいのを隠すのに必死だったじゃない。わたしの目はごまかせないわ」と侯爵夫人がシャーロットを慰めた。
王妃は
「これから忙しくなるけど、楽しくもあるわね」
「そうだ。王太子も立場を大切にな」
全員、エリザベートの態度に気圧されたことに気づかない振りをして、しゃべり続けた。
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