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17 フリーマーケット
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朝から、ずっとバタバタしていた。
「タマちゃん、ちょっとどいてね。そこに積んだの、割れ物だから」
納戸の整理をしていて、ずいぶん昔の食器やら、着物やら、ワンピースやらが出てきた。古びてはいるけれど、どれもこれも思い出の詰まったものばかり。でも、わたしがこの世を去ったあと、誰が片付けるというのか。
だから思い切って、フリーマーケットに出してみることにしたのだ。
朝の空気は思ったよりもひんやりしていて、トランクを開けようとしたとき、勢いあまってガコーンと開いてしまい、わたしは腰を引きつつ、ほとんど後ろにひっくり返りそうになった。
「もーう、これもディーラーの子に言わなくちゃ」
ひとりでぶつぶつ言いながら荷物を詰めていると、物陰から複数の猫の視線を感じた。タマちゃんのお友達猫だ。面倒見のいいタマちゃんを慕って集まって来た。なんと犬までいるのだから驚きだ!
「あなたたちも行く?」
彼らは、心なしか「うん」と頷いた感じで、荷物の上に陣取った。
助手席で堂々と座るタマちゃんの首輪が、朝の陽射しにきらりと光る。わたしが買ってきた、青くて可愛い首輪。タマちゃんによく似合う。
会場に着くと、ブルーシートを広げて持ってきた荷物を並べる。着物、ワンピース、子供のおもちゃに食器。もっと持ってきたかったけれど、車のスペースには限界がある。
「ふう」
隣に小さな椅子を並べて、わたしが腰を下ろすと、タマちゃんも自分の椅子にちょこんと座った。まるで招き猫のようなポーズで、あたりを見渡している。ああ、タマちゃんは何をやっても映えるわね。
お友達猫たちも負けじと、お客さんの周りを行ったり来たりして愛想を振りまくものだから、すぐに人だかりができた。猫が並んで何かしている、それだけで人は足を止めるものだ。
「このお皿、可愛いわねぇ」
「え、こんな値段でいいの?」
そんな声が聞こえてくるたび、猫たちが品物の前に座ったり、ちょっと前足で押したりして、自然と関心を引き寄せる。彼らは見事な商売人だ。
お昼過ぎ、ヨシオさんとマロンちゃんがやってきた。
「まぁまぁ、マロンちゃん、今日も綺麗にしてもらって」
そう言って笑うと、タマちゃんがするりとマロンの背中によじ登り、くつろぎ始めた。まるで当然のように。
ヨシオさんが少し渋い顔をしていたけれど、きっと嬉しいに違いない。マロンもタマちゃんも、初めて会った時から妙に息が合っていたし、仲良くしてくれるのは何よりだ。
タマちゃんが帰ってきてからというもの、わたしの日常は静かに、けれど確かに変わっていった。あの子が座っているだけで、部屋の空気が違って感じられる。こうして外に出る元気も湧いてきた。
誰かが買い物袋を抱えて立ち去り、誰かが次に足を止める。そのたびに、タマちゃんはちょこんと首をかしげてみせる。お友達猫も、人の視線を集めるのに余念がない。
わたしの納戸の中の思い出たちが、今、誰かの手に渡って新しい場所へと旅立っていく。その光景が、なぜかとても嬉しかった。
「タマちゃん、ありがとうね」
小さく呟くと、タマちゃんは一度だけこちらを見て、「にゃ」と鳴いた。まるで「いいのよ」とでも言うように。
わたしのそばには、いつも誰かがいる。猫たちも、マロンも、ヨシオさんも。そして、帰ってきてくれたタマちゃんが。
もう、寂しくなんかない。
それだけで、今日はとても素敵な一日だった。
「タマちゃん、ちょっとどいてね。そこに積んだの、割れ物だから」
納戸の整理をしていて、ずいぶん昔の食器やら、着物やら、ワンピースやらが出てきた。古びてはいるけれど、どれもこれも思い出の詰まったものばかり。でも、わたしがこの世を去ったあと、誰が片付けるというのか。
だから思い切って、フリーマーケットに出してみることにしたのだ。
朝の空気は思ったよりもひんやりしていて、トランクを開けようとしたとき、勢いあまってガコーンと開いてしまい、わたしは腰を引きつつ、ほとんど後ろにひっくり返りそうになった。
「もーう、これもディーラーの子に言わなくちゃ」
ひとりでぶつぶつ言いながら荷物を詰めていると、物陰から複数の猫の視線を感じた。タマちゃんのお友達猫だ。面倒見のいいタマちゃんを慕って集まって来た。なんと犬までいるのだから驚きだ!
「あなたたちも行く?」
彼らは、心なしか「うん」と頷いた感じで、荷物の上に陣取った。
助手席で堂々と座るタマちゃんの首輪が、朝の陽射しにきらりと光る。わたしが買ってきた、青くて可愛い首輪。タマちゃんによく似合う。
会場に着くと、ブルーシートを広げて持ってきた荷物を並べる。着物、ワンピース、子供のおもちゃに食器。もっと持ってきたかったけれど、車のスペースには限界がある。
「ふう」
隣に小さな椅子を並べて、わたしが腰を下ろすと、タマちゃんも自分の椅子にちょこんと座った。まるで招き猫のようなポーズで、あたりを見渡している。ああ、タマちゃんは何をやっても映えるわね。
お友達猫たちも負けじと、お客さんの周りを行ったり来たりして愛想を振りまくものだから、すぐに人だかりができた。猫が並んで何かしている、それだけで人は足を止めるものだ。
「このお皿、可愛いわねぇ」
「え、こんな値段でいいの?」
そんな声が聞こえてくるたび、猫たちが品物の前に座ったり、ちょっと前足で押したりして、自然と関心を引き寄せる。彼らは見事な商売人だ。
お昼過ぎ、ヨシオさんとマロンちゃんがやってきた。
「まぁまぁ、マロンちゃん、今日も綺麗にしてもらって」
そう言って笑うと、タマちゃんがするりとマロンの背中によじ登り、くつろぎ始めた。まるで当然のように。
ヨシオさんが少し渋い顔をしていたけれど、きっと嬉しいに違いない。マロンもタマちゃんも、初めて会った時から妙に息が合っていたし、仲良くしてくれるのは何よりだ。
タマちゃんが帰ってきてからというもの、わたしの日常は静かに、けれど確かに変わっていった。あの子が座っているだけで、部屋の空気が違って感じられる。こうして外に出る元気も湧いてきた。
誰かが買い物袋を抱えて立ち去り、誰かが次に足を止める。そのたびに、タマちゃんはちょこんと首をかしげてみせる。お友達猫も、人の視線を集めるのに余念がない。
わたしの納戸の中の思い出たちが、今、誰かの手に渡って新しい場所へと旅立っていく。その光景が、なぜかとても嬉しかった。
「タマちゃん、ありがとうね」
小さく呟くと、タマちゃんは一度だけこちらを見て、「にゃ」と鳴いた。まるで「いいのよ」とでも言うように。
わたしのそばには、いつも誰かがいる。猫たちも、マロンも、ヨシオさんも。そして、帰ってきてくれたタマちゃんが。
もう、寂しくなんかない。
それだけで、今日はとても素敵な一日だった。
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