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1.君との出会いは偶然だった
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明くる日、昨日よりも少しだけ早い時間に家を出た。愛用しているショルダーバッグは、猫缶ひとつ分だけいつもより重たい。今日もあの場所にいるだろうか。いたらいいな。荷物の重さに反して、僕の心は軽く、どこか浮足立っていた。
黒猫と出会った路地に入り、立ち止まる。黒猫の姿を探して、ぐるりと辺りを見回した。
「にゃあん」
鈴の音のような鳴き声がした後、黒猫は姿を現した。そして、足元にじゃれるようにして纏わりついてくる。ズボンの裾を捲り上げているから、滑らかな毛並みが素肌の足首に擦れて、こそばゆい。
「おはよ。よく眠れたか?」
「にゃあ」
「はは。おまえ、僕の言葉がわかるみたいだな。なあ、今日はごはん持ってきたんだ。食べるか?」
「にゃあん」
黒猫は舌をちろりと出して、僕の顔を見上げる。ショルダーバッグから猫缶を取り出し、上蓋を開けて黒猫の前に置いた。
「口に合うといいんだけど」
黒猫は匂いを嗅いだ後、缶に顔を突っ込んで食べ始めた。その様子を座り込んで眺めることにした。
「うまいか?」
「…………」
黒猫の背中をそっと撫でた。一瞬びくりと動いたが、黒猫は脇目も振らずに食べ続けていた。しばらくすると、食べ終わったのか黒猫の動きが変わる。缶の内側まで丁寧に舐めているようだった。
「おいおい。もうそれくらいにしとけって」
「にゃあん」
黒猫は顔を上げると、口の周りをぺろりと舐めた。腕時計に目をやると、もうそろそろ職場に向かわなければいけない時間だった。すっかり空になった缶詰を回収して立ち上がる。
「ごめん、僕もう行かなきゃ。またね」
黒猫は毛繕いに夢中のようで、僕の呼びかけには答えない。自由なその姿に、少しだけ羨ましくなった。
黒猫と出会った路地に入り、立ち止まる。黒猫の姿を探して、ぐるりと辺りを見回した。
「にゃあん」
鈴の音のような鳴き声がした後、黒猫は姿を現した。そして、足元にじゃれるようにして纏わりついてくる。ズボンの裾を捲り上げているから、滑らかな毛並みが素肌の足首に擦れて、こそばゆい。
「おはよ。よく眠れたか?」
「にゃあ」
「はは。おまえ、僕の言葉がわかるみたいだな。なあ、今日はごはん持ってきたんだ。食べるか?」
「にゃあん」
黒猫は舌をちろりと出して、僕の顔を見上げる。ショルダーバッグから猫缶を取り出し、上蓋を開けて黒猫の前に置いた。
「口に合うといいんだけど」
黒猫は匂いを嗅いだ後、缶に顔を突っ込んで食べ始めた。その様子を座り込んで眺めることにした。
「うまいか?」
「…………」
黒猫の背中をそっと撫でた。一瞬びくりと動いたが、黒猫は脇目も振らずに食べ続けていた。しばらくすると、食べ終わったのか黒猫の動きが変わる。缶の内側まで丁寧に舐めているようだった。
「おいおい。もうそれくらいにしとけって」
「にゃあん」
黒猫は顔を上げると、口の周りをぺろりと舐めた。腕時計に目をやると、もうそろそろ職場に向かわなければいけない時間だった。すっかり空になった缶詰を回収して立ち上がる。
「ごめん、僕もう行かなきゃ。またね」
黒猫は毛繕いに夢中のようで、僕の呼びかけには答えない。自由なその姿に、少しだけ羨ましくなった。
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