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3.君は嵐のように僕の心を乱す

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「それで? 鈴音はどうしてその姿になったのか教えてくれる?」
「今は……言えないんだ」

 鈴音は表情を曇らせる。言っても信じてもらえないとか、そういうことなのだろうか。俯いてしまった鈴音の表情が見えなくて、不安になる。

「今はってことは、いつかは教えてくれる?」
「言えたらいいと、思っている」

 顔を上げた鈴音は泣きそうな顔で笑った。それ以上聞くなという表情に見えた。

「もう猫の姿に戻ることはないの?」
「そのはずだ……タクミは鈴音のこと、怖いか? 気味悪いと思うか?」

 どう答えるべきだろうか。猫が人間になるということは理解しがたいことだ。だけど。

「鈴音は綺麗だよ。今も、猫の姿のときも」
「猫の姿も、綺麗だと思ったのか」

 そう問いかけてきた鈴音は、不安そうに眉尻を下げ、揺れる瞳でこちらを見つめていた。

「綺麗だったよ。野良猫とは思えないほど艶々の毛並みだったし、瞳も満月みたいで、綺麗な色で。……それは今もだけど」

 そう返事をすると、鈴音はほっとしたように表情を緩めた。

「そうか。それはよかった。ちなみに今はどんな姿だ?」

 頭の中に疑問符がいくつも浮かび上がる。鈴音は自分の姿を認識できていないということなのだろうか。手首を掴んで洗面所の鏡の前に連れていく。

「これが今の鈴音」
「ほう」

 鏡の中の鈴音がぱちぱちと目をしばたたかせる。首を傾けたり、腕を上げてみたり、自分の姿をしばらく観察した後、突然振り返る。

「タクミ、この姿気に入ったか? 鈴音のこと、好きか?」

 唐突な問いに動揺する。たしかにすごく綺麗でかわいい女の子だとは思うけれど。
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