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8.君のことばかり考えてしまう
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鈴音のお気に入りのショートパンツは朝一で洗ってしまっていた。水分をたっぷりと含んだままベランダに干されているのを鈴音は恨めしそうに見ていた。買ってから一度も着ていなかった黒いワンピースを勧めると、苦渋の表情で手に取った。
「タクミ、やっぱりこれは恥ずかしい」
そう言いながら洗面所から出てきた鈴音にどきりとした。長い髪はまだ結わえていなくて、それがまた大人っぽく見える。すごく、綺麗だと思った。思わず見惚れてしまった。
「ほら。タクミも変だと思うだろう?」
何も言わない僕に、鈴音は不安げに視線を送ってくる。しまいには目の前でワンピースを脱ごうとするから慌てて止めた。
「それで行こう。前も言ったけど、すごく似合ってるよ。だから大丈夫だって」
「本当か?」
「本当だって。綺麗だよ」
気恥ずかしいけれど、ちゃんと口に出して伝える。もう少しその姿を見ていたいから。
「……わかった。これで行く。けど、あんまり見るな。恥ずかしい」
鈴音は顔を真っ赤にして俯いてしまった。こちらまで顔が熱くなってくる。鈴音は梨花さんにもらった服もスカートはあまり選ばない。すーすーするのが落ち着かなくて嫌なのだと言っていた。何度か着ているうちに慣れるのだろうか。
「タクミ、髪結んでくれ」
「いいけど、今日はそのままでもいいと思う」
「どうしてだ? タクミからもらった髪飾り使いたいんだ。結んでくれ」
僕があげた髪飾りを身につけたいと言ってくれるのは嬉しくて。でも、髪を結んでしまうのも勿体なくて。いつもより丁寧に髪を梳かして、ハーフアップにしてあげた。これなら鈴音の希望も叶う。
「タクミ、早く行こう」
あんなに恥ずかしがっていたのに、ワンピースにはもう慣れたのか、スカートの裾を翻して鈴音が笑う。そんな彼女の姿と僕の服装を見比べて、これはまずいなと思った。適当に落ちていたTシャツとジーパンを着ただけの僕はなんだかだらしなくて、いつもより大人っぽくて綺麗な鈴音とは釣り合わない気がした。
「ごめん、ちょっとだけ待って」
急いでタンスの中を確認する。身だしなみなんて気にしたことがなかったから、たいした服は持っていないけれど、襟付きのシャツを一枚羽織って、色褪せたジーパンは紺色のチノパンに変えてみた。
「お待たせ。行こうか」
声をかけると、鈴音は僕のことをじっと見て変な顔をしている。鈴音が呆れるくらいセンスのない服を選んでしまったのかと心配になってくる。
「タクミ、いつもとちょっと違う」
「変かな?」
「いや。すごくいい。かっこいい」
「……ありがと」
褒められること自体慣れていないのに、見た目のこととなると余計に気恥ずかしい。平静を装う僕を鈴音は嬉しそうに見つめていた。
「タクミ、やっぱりこれは恥ずかしい」
そう言いながら洗面所から出てきた鈴音にどきりとした。長い髪はまだ結わえていなくて、それがまた大人っぽく見える。すごく、綺麗だと思った。思わず見惚れてしまった。
「ほら。タクミも変だと思うだろう?」
何も言わない僕に、鈴音は不安げに視線を送ってくる。しまいには目の前でワンピースを脱ごうとするから慌てて止めた。
「それで行こう。前も言ったけど、すごく似合ってるよ。だから大丈夫だって」
「本当か?」
「本当だって。綺麗だよ」
気恥ずかしいけれど、ちゃんと口に出して伝える。もう少しその姿を見ていたいから。
「……わかった。これで行く。けど、あんまり見るな。恥ずかしい」
鈴音は顔を真っ赤にして俯いてしまった。こちらまで顔が熱くなってくる。鈴音は梨花さんにもらった服もスカートはあまり選ばない。すーすーするのが落ち着かなくて嫌なのだと言っていた。何度か着ているうちに慣れるのだろうか。
「タクミ、髪結んでくれ」
「いいけど、今日はそのままでもいいと思う」
「どうしてだ? タクミからもらった髪飾り使いたいんだ。結んでくれ」
僕があげた髪飾りを身につけたいと言ってくれるのは嬉しくて。でも、髪を結んでしまうのも勿体なくて。いつもより丁寧に髪を梳かして、ハーフアップにしてあげた。これなら鈴音の希望も叶う。
「タクミ、早く行こう」
あんなに恥ずかしがっていたのに、ワンピースにはもう慣れたのか、スカートの裾を翻して鈴音が笑う。そんな彼女の姿と僕の服装を見比べて、これはまずいなと思った。適当に落ちていたTシャツとジーパンを着ただけの僕はなんだかだらしなくて、いつもより大人っぽくて綺麗な鈴音とは釣り合わない気がした。
「ごめん、ちょっとだけ待って」
急いでタンスの中を確認する。身だしなみなんて気にしたことがなかったから、たいした服は持っていないけれど、襟付きのシャツを一枚羽織って、色褪せたジーパンは紺色のチノパンに変えてみた。
「お待たせ。行こうか」
声をかけると、鈴音は僕のことをじっと見て変な顔をしている。鈴音が呆れるくらいセンスのない服を選んでしまったのかと心配になってくる。
「タクミ、いつもとちょっと違う」
「変かな?」
「いや。すごくいい。かっこいい」
「……ありがと」
褒められること自体慣れていないのに、見た目のこととなると余計に気恥ずかしい。平静を装う僕を鈴音は嬉しそうに見つめていた。
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