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29 アーヴァインの失敗
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うわあああーー!斬り合いの声がする。一体何が起こっているのか分からない……。私はどこに連れていかれるんだろう……。
執事のアーヴァインは有能な男だが流民の捨て子だった。ジェス領は小さくて貧しかったが、流民にも寛大であり
「施してはやれないが、庇くらいなら入って行きなさい」
と言う領主達が多かった。だから流民は流れてきて……子供を捨てて逃げて行く事も多かった。
アーヴァインもそれに漏れず、置いていかれた。しかし運が良かったのはその直後にフレデリックが奮起した事だ。
「はあ?!麦?んなもんウチで育つかよ!甘芋?!無理無理!ジャガイモくらいだろ!芋植えろ、芋ぉ!」
「それは毒芋ですじゃ……」
「穴掘って深く植えるんだよ!緑の食うから腹壊すんだ!育ってきたら根元に土被せてな!芋食え芋!あと花植えろ、花!」
「いくらお嫁様に花畑を見せたいからと言って花を植えても飢えは凌げませぬ」
「うるせぇ!この種植えたら黄色い花が咲くからな!増やすぞ!!」
頼りない領主の次男が訳ありのお嫁さんを貰った途端、人が変わった。
「はあ?!アージェが乗る馬車がダサすぎる!道も最悪!駄目!絶対駄目!!」
今まで自分が使ってきた馬車と道路なのに突然ダメ出しを始めるし。
「浮浪児多すぎ!洗ってやる!痩せすぎ!芋が出来るまで気合いで生きろ!」
なんかよく分からない文句もつけられた。水を飲み、草の根を齧り……芋が膨らむ季節になるとすぐに配給が始まった。
「緑のは食ったら駄目!種芋にするから捨てない!ほれ、ふかし芋食え!」
毎日毎日毎日毎日ふかし芋だ。調味料、塩すらない。でも腹だけは膨れた。
「お腹いっぱいだよぉ、もう食べられないよう」
「はぁ?!まだ鍋に入ってんだよ!出来たてが美味いんだから、全部食え!!」
そして芋が余り始めると
「あの花の出番だ」
菜種油の登場でふかし芋がポテトフライになり、皆で食べる用から名物になってきた。
「売るんだよぉ!手ぇ洗って油に気を付けて揚げろ!」
親も子も、流民も総出でポテトフライを作らされた。
「余ったら揚げる前に冷凍だ!氷魔法使える奴ゥ!」
全員が魔法適性を調べられたり
「汚すぎて販売員にできねええ!」
共同の炊事場と洗濯場と水風呂が出来て
「冷たい風呂なんてえええ!」
そのうち風呂はあったかくなった。
「売り上げが合わないだとおお!勉強しろ、勉強!」
読み書き計算を教えてくれた。こうして飢えず、仕事も割り振られ、流民は流れることをやめ、領民として住み着き始める。病気の子供達は
「アージェのありがたーい施しであーる」「やめて!フレイ恥ずかしいわ!」
格安で見てくれる治療院も出来て、徐々に健康になって行く。
「フレデリック様とアージェ様が救ってくれた」
そうしてアーヴァインは下働きから始め、めきめきと仕事を覚えてゆき執事の座へと上り詰めた。それもあってアーヴァインの忠誠心は領主より、フレデリックとアージェに向いていたし、アージェが不慮の事故で亡くなってしまい、壊れたフレデリックを支えていくのは当然だと思っていた。
そのアーヴァインの前で、今しがた主人が攫われたのだ。
「あれは間違いない、カルセニア伯爵!」
事もあろうにフレデリックを殴って気絶させると、担ぎ上げて生け垣をぶち破る。そして待機させていた馬車に乗り込んだのを確認する。
「誰かッ!メロウ!カイラス様を呼んで来い、フレデリック様が攫われた!ハンスは全速力でヴィオル家に向かえ!」
「わ、分かりました!」
「手の空いているものはあの馬車を追うぞ!王都から出るようならどの入り口を通るか見極めろ!急げ!!」
「はいっ!」
走る馬車に追いつける人間などほぼいない。アーヴァインの命令は無理で無茶だったが、何もしないよりマシだろう。それにかなりの速度で走る馬車は目立つ。どちらの方向に逃げるのか分かれば主人を取り返すのに役に立つはずだ。
「しまった……しまった……やはりお傍を離れるべきじゃなかった!」
遠ざかる馬車を必死で見失うまいとするが、無情にもその姿はどんどん掻き消えていくのであった。
執事のアーヴァインは有能な男だが流民の捨て子だった。ジェス領は小さくて貧しかったが、流民にも寛大であり
「施してはやれないが、庇くらいなら入って行きなさい」
と言う領主達が多かった。だから流民は流れてきて……子供を捨てて逃げて行く事も多かった。
アーヴァインもそれに漏れず、置いていかれた。しかし運が良かったのはその直後にフレデリックが奮起した事だ。
「はあ?!麦?んなもんウチで育つかよ!甘芋?!無理無理!ジャガイモくらいだろ!芋植えろ、芋ぉ!」
「それは毒芋ですじゃ……」
「穴掘って深く植えるんだよ!緑の食うから腹壊すんだ!育ってきたら根元に土被せてな!芋食え芋!あと花植えろ、花!」
「いくらお嫁様に花畑を見せたいからと言って花を植えても飢えは凌げませぬ」
「うるせぇ!この種植えたら黄色い花が咲くからな!増やすぞ!!」
頼りない領主の次男が訳ありのお嫁さんを貰った途端、人が変わった。
「はあ?!アージェが乗る馬車がダサすぎる!道も最悪!駄目!絶対駄目!!」
今まで自分が使ってきた馬車と道路なのに突然ダメ出しを始めるし。
「浮浪児多すぎ!洗ってやる!痩せすぎ!芋が出来るまで気合いで生きろ!」
なんかよく分からない文句もつけられた。水を飲み、草の根を齧り……芋が膨らむ季節になるとすぐに配給が始まった。
「緑のは食ったら駄目!種芋にするから捨てない!ほれ、ふかし芋食え!」
毎日毎日毎日毎日ふかし芋だ。調味料、塩すらない。でも腹だけは膨れた。
「お腹いっぱいだよぉ、もう食べられないよう」
「はぁ?!まだ鍋に入ってんだよ!出来たてが美味いんだから、全部食え!!」
そして芋が余り始めると
「あの花の出番だ」
菜種油の登場でふかし芋がポテトフライになり、皆で食べる用から名物になってきた。
「売るんだよぉ!手ぇ洗って油に気を付けて揚げろ!」
親も子も、流民も総出でポテトフライを作らされた。
「余ったら揚げる前に冷凍だ!氷魔法使える奴ゥ!」
全員が魔法適性を調べられたり
「汚すぎて販売員にできねええ!」
共同の炊事場と洗濯場と水風呂が出来て
「冷たい風呂なんてえええ!」
そのうち風呂はあったかくなった。
「売り上げが合わないだとおお!勉強しろ、勉強!」
読み書き計算を教えてくれた。こうして飢えず、仕事も割り振られ、流民は流れることをやめ、領民として住み着き始める。病気の子供達は
「アージェのありがたーい施しであーる」「やめて!フレイ恥ずかしいわ!」
格安で見てくれる治療院も出来て、徐々に健康になって行く。
「フレデリック様とアージェ様が救ってくれた」
そうしてアーヴァインは下働きから始め、めきめきと仕事を覚えてゆき執事の座へと上り詰めた。それもあってアーヴァインの忠誠心は領主より、フレデリックとアージェに向いていたし、アージェが不慮の事故で亡くなってしまい、壊れたフレデリックを支えていくのは当然だと思っていた。
そのアーヴァインの前で、今しがた主人が攫われたのだ。
「あれは間違いない、カルセニア伯爵!」
事もあろうにフレデリックを殴って気絶させると、担ぎ上げて生け垣をぶち破る。そして待機させていた馬車に乗り込んだのを確認する。
「誰かッ!メロウ!カイラス様を呼んで来い、フレデリック様が攫われた!ハンスは全速力でヴィオル家に向かえ!」
「わ、分かりました!」
「手の空いているものはあの馬車を追うぞ!王都から出るようならどの入り口を通るか見極めろ!急げ!!」
「はいっ!」
走る馬車に追いつける人間などほぼいない。アーヴァインの命令は無理で無茶だったが、何もしないよりマシだろう。それにかなりの速度で走る馬車は目立つ。どちらの方向に逃げるのか分かれば主人を取り返すのに役に立つはずだ。
「しまった……しまった……やはりお傍を離れるべきじゃなかった!」
遠ざかる馬車を必死で見失うまいとするが、無情にもその姿はどんどん掻き消えていくのであった。
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