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5 その手には乗らんよ?

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「ディエス様におかれましては……」

「……はぁ」

 今日は隣の領の領主代行というおっさんが訪ねてきた。ちょっとイヤな感じがするおっさんで、騎士達や使用人達もピリピリした雰囲気を漂わせている。つまりはだ、失脚したはずの俺をどうにか担ぎ上げてうまい汁を吸おうとしてるやつなんじゃ?って思ってるって訳だ。うん、俺もその線が濃い気がする。やめろ、俺のスローライフを邪魔すんじゃねえ!

「このような田舎暮らし、首都育ちのディエス様にはお辛いでありましょう?宜しければわたくしが……」

 あーなんか腹の探り合いめんどい。俺、知ってるんだ~楽する方法。

「エルサウ卿」

「はっ」

 俺につけられた監視の騎士の中で一番偉い人がこのマーキス・エルサウ卿。こいつにふっとけば何かとOK!傲慢で横暴な元王太子ぶってマーキス君の名前を呼んで、席を立ちあがり部屋から出て行けばまるっと解決。解決っていうか丸投げ!そしてこのおっさんが帰るまで部屋でごろごろおやつを食べながら魔導書を読んでればいいって寸法よ。パーフェクト。

「デグルス領主代行殿。ディエス様は療養中なのです。それを押しての面会、何用かこのわたくしめに全てお伝えください、ええ、残さず報告させていただきます故」

「え、いえ、あの……その」

 どこに報告か、護衛とは名ばかりの監視であるマーキスが報告する相手は中央以外ない。ディエスを担ぎ出そうものなら地方の弱小貴族などはきれいさっぱり消されてしまう。ちょっと考えればわかる事だろう?馬鹿かな??

「あ、はは、はははは。いえ、も、もう……」

「そう言わずに」

 駄目押しをしてすぐに追い払ったようだ。おっさんが持ってきた手土産のお菓子の2段目は金だったし、何かするなら手を貸しますよ、という手紙まで入っていてどんだけアホなのかと俺は驚いた。

「菓子は皆で食べよう、お金と手紙はマーキス、何とかしといて」

「心得ましてございます、ディエス様」

 わーい、有能有能。俺のスローライフは始まったばかりだぜ!!



「ディエス様って良いよね」

「触れないけどね!あはは!」

 俺は知らないんだが、メイドや使用人の間で俺は人気者らしい。

 ディエスは美形だ。きれいな紫色の髪に金色の目、色はここに来てから少し焼けたけどまだまだ真っ白と行って良いくらい白い。背も高いし手足も長くて立っているだけで絵になる男だ。その辺りは流石王太子だったと言う感じがする。
 顔つきはやっぱり高貴だし、動きも品が少しだけある。6歳までのちゃんとした教育のおかげかも。

「おはよー」

「おはようございます、ディエス様!」

 で、中身が俺なもんで貴族のツンケンした感じがない……そりゃないわな!その辺りも親しみやすいと人気者らしいよ。嫌われてるよりよっぽどマシだよな!俺は田舎のアイドルの地位まで築いているようだった。





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