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47 俺、しーらね

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「帝国の太陽にご挨拶致します!」

「……」

 扉を開けさせると満面の笑みの男がツカツカと入ってきて、執務机についたままのラムに口上を述べ始めた。俺はラムの後ろに立っている。
 その男の後ろを真っ赤な物体がついて来て……横幅が広いもんで、窮屈そうだ。
 腰を屈めて女性特有の跪礼カーテシーをしている。まあ、礼は綺麗だと思う、礼はね。

「何用か、ウォルター・レジム公爵」

 硬質なラムの声が飛ぶ。あーかなりご立腹だ。皇帝であるラムは基本あまり感情を表には出さない。だから気が付かない人もいるかも知れないが、これはかなり怒っている。
 いや、流石に公爵家当主なら陛下の気持ちにくらいは気がつくよね?

「本日は我が娘リリシアを陛下の御前に連れて参りまして……」

 気づいて、ない、のか?!にこにこと何故か上機嫌で、自分の言いたい事を言い始めた。おーい、礼儀どうした?偉い人から聞かれたらまず答えなきゃいけないんだぞー。お前の娘の話なんて誰も聞いちゃいないぞー。

 これはレジム公爵家はだな。娘の教育が悪いだけじゃない。この家ぐるみで「ダメ」なんだ。教育もマナーも家柄が良いならばそれ相応のレベルがないと駄目なんだからな!

「私は今、武官と文官の軋轢について側妃と議論をしていた。それを邪魔するそちとそちの娘とやらはさぞかし素晴らしい解決策を持っているのであろうな」

「は……?」

 まさかそう来るとは思わなかったらしく、レジム公爵はぽかんと口を開けた。いや、だってここは執務室。仕事する場所よ?仕事の話をするのは当然だよ。
 ……過去に何回がむにゃむにゃして、侍従達とメイドちゃんにやんわり叱られたことはあったけど、今は綺麗さっぱり忘れた!

「発言を許そう、さあ解決策を述べよ。その不快な色の服を我が前で纏う理由もあるのであろう!」

「え……」

 俺はじぃっと公爵令嬢を観察する。突然言われ、言葉を失ってしまっているが……何故この令嬢は真っ赤なドレスなど着ているのだろうか……。

 皇帝ラムシェーブルの前で赤い服は禁止、もっと言えば赤いドレスは禁忌とされているのに。
 赤はラムの嫌いな色だ。俺の何着入っているか分からないワードローブの中にも赤い服は一つもない。しかも真っ赤なドレスはラムの大っ嫌いな服装だ。王宮の皇帝の側で働く者ならば誰もが知っている事なのに、公爵令嬢は何故真っ赤なドレスをまとっているんだ?

 憎しみの眼差しすら向けるラム。俺は理由をソレイユ様から聞いて知っている。赤い服は飛び散った血を連想させるから……ラムの母親は真っ赤なドレスを着ていた時に暗殺者に斬られて死んだらしい。まだ10歳程だったラムの目の前で起こった惨劇。赤いドレスはラムにとってトラウマの塊であり、それを克服するのにかなりの時間を要した……。
 先日は公爵令嬢だから見逃したが、また赤いドレスで来るとは。正気を疑うぞ。

 きついラムの視線にレジム親子は石像のように固まっている……どうすんだ?コレ。まーしばらく放置だな。見栄えが悪いから早目に徹去して欲しい。

「誰かジョエルを医務室へ。ルト、窓を開けて」

「あ!はい!」

 扉の前で青い顔をしているジョエル。相当強く打ったのかな……お前の仕事っぷりは評価されてるぞ!そしてジョエルが戦線離脱で代わりにルトが戦場に。何で窓かって?

 あの太ましい真っ赤令嬢、香水のつけすぎで臭いんだよ……。しかもラムの嫌いな甘ったるい薔薇の香水。
 こんなに機嫌の悪いラムを見たのは初めてかも……俺、しーらね……!




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