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番外編
1 側妃様の拳
「なんですか……これ?」
新しく騎士団に入った新人が必ず聞くもの。それは訓練場の壁からにゅっと出た金属製の籠手だ。サイズは成人男性の拳くらいであり、隙間から覗けば中に誰かの手を模したモノがあり、それを金属で覆ってある装甲手袋だと言う事が分かる。
「あーそれはなあ……フェブロー副団長の……あ、来た来た。あ、離れろ、すぐにわかる」
「へ?」
身長が2Mに届く熊のような大男のマキシマ・フェブロー副団長は眉間にこれでもかと皺をよせ、訓練場に現れた。何か辛い事があったのか、叱責を受けたらしくものすごく落ち込んでいるように見える。
マキシマ・フェブローはその壁からつきでた金属製の籠手の前でぴたりと止まり
「うおおおおおおお!!申し訳、申し訳ございませんーーーーー!側妃様アアアアアア!!!」
トゲトゲの生えたガントレットに頭突き、いや頬で当たりに行った、物凄い勢いで。ブシャアッと血が噴き出して、マキシマは後ろにひっくり返る。頬からドクドクと血が流れているが、誰も止めようとしない。
「ヒイッ!?何ですかアレ!」
「ま、一種の儀式みたいなもんだ、気にすんな」
「気にすんなって凄い血が出てますけど!?」
しかし先輩騎士は涼しい顔で
「フェブロー副団長ならすぐ止まるし、ほっといても平気だから」
とドン引きしている新人に笑いかける。
「すいませんっ!すいませんっ!!」
ドコ!バキッ!盛大に音が響いてマキシマの頬は思いっきり腫れて行くが皆、苦笑しながら見守っていた。
「え、ええええ……」
「有名な話を教えてあげよう、新人君」
先輩が後輩に伝える話はこうだった。新年の警備で大きな失敗をしたフェブロー副団長が側妃であるディエスに殴られ、許された事。
「えっ!?あのお美しいスラリとした側妃様が殴ったんですか!?」
「うむ。それはそれは力を入れて思いっきりあの副団長を殴ったらしい。その拳は副団長の心に突き刺さり、そこからフェブロー副団長はそれまで以上に働いた……んだが、やはりそこはあの嫋やかな側妃様だろう?指の骨が折れちゃったらしくてね」
「あー……副団長の顔、めちゃくちゃ硬そうですもんね」
「うむ。それでも側妃様は怒りもせずに励めと叱咤激励してくださったんだ。しかしね、フェブロー副団長はまたやらかしてね」
「あ、もしかして……」
「うむ。また側妃様に殴られたんだ。当然側妃様はまた指の骨を折ってね……」
「あちゃあ……無理をするお方だなあ」
二人はそこで苦笑する。
「流石に陛下が黙っていなかった訳だ。そこで側妃様の拳と腕の型を取って、金属の手を作ってあそこに設置したんだ。もう勝手に自分でぶつかって反省しろ、ってね」
「あは……あははは……」
笑いが漏れたが、なるほどと新人君は納得した。
「しかし、金属で作った手なのに、どうも薬指だけ何度も何度も折れるんだ。そのたびに修繕が必要になってしまってねえ」
「へえ、不思議な事もあるもんですねえ」
「うん、そうしてあの籠手を被せる事になった訳だ。金属で守られるようになってやっと折れなくなって助かったよ」
「なるほどね……」
まだ籠手にガツンガツンと頬を打ち付けているフェブロー副団長を、二人は悟った目で見ている。
「ま、側妃様に叱られたい気持ちになったらアレにぶつかってみてもいいかもしれないよ。結構気持ちが晴れるって人気なんだよね」
「えっ!そうなんですか?じゃあ私も何か失敗したらやってみます!」
「ああ、ほどほどにしておけよ。また薬指が折れたら大変だからな」
「はいっ!!」
ぶつかってゆく人間の顔の心配ではなくて薬指の心配をするところが騎士団らしいと新人君は思う。彼は一か月ほど後に大失敗をやらかして、反省の為にあの拳に頬を打ち付けていた。
「うわっ!」
「この大馬鹿者ーーー!落ち込んでいる暇があったら剣でも振るんだーーー!」
その日の夜の夢に紫の髪が美しい側妃様があの籠手を嵌めた姿で現れて、思いっきり頬を殴られると言うのを見てしまう。
「は、はわ……凄い美人だった……」
昨日から痛む頬のせいで早起きしてしまったが、心は晴れていた。
「す、凄い……これが側妃様パンチのお力か……!」
よくわからない信者がまた増えたが、ディエスはやっぱり何も気が付いていなかった。
新しく騎士団に入った新人が必ず聞くもの。それは訓練場の壁からにゅっと出た金属製の籠手だ。サイズは成人男性の拳くらいであり、隙間から覗けば中に誰かの手を模したモノがあり、それを金属で覆ってある装甲手袋だと言う事が分かる。
「あーそれはなあ……フェブロー副団長の……あ、来た来た。あ、離れろ、すぐにわかる」
「へ?」
身長が2Mに届く熊のような大男のマキシマ・フェブロー副団長は眉間にこれでもかと皺をよせ、訓練場に現れた。何か辛い事があったのか、叱責を受けたらしくものすごく落ち込んでいるように見える。
マキシマ・フェブローはその壁からつきでた金属製の籠手の前でぴたりと止まり
「うおおおおおおお!!申し訳、申し訳ございませんーーーーー!側妃様アアアアアア!!!」
トゲトゲの生えたガントレットに頭突き、いや頬で当たりに行った、物凄い勢いで。ブシャアッと血が噴き出して、マキシマは後ろにひっくり返る。頬からドクドクと血が流れているが、誰も止めようとしない。
「ヒイッ!?何ですかアレ!」
「ま、一種の儀式みたいなもんだ、気にすんな」
「気にすんなって凄い血が出てますけど!?」
しかし先輩騎士は涼しい顔で
「フェブロー副団長ならすぐ止まるし、ほっといても平気だから」
とドン引きしている新人に笑いかける。
「すいませんっ!すいませんっ!!」
ドコ!バキッ!盛大に音が響いてマキシマの頬は思いっきり腫れて行くが皆、苦笑しながら見守っていた。
「え、ええええ……」
「有名な話を教えてあげよう、新人君」
先輩が後輩に伝える話はこうだった。新年の警備で大きな失敗をしたフェブロー副団長が側妃であるディエスに殴られ、許された事。
「えっ!?あのお美しいスラリとした側妃様が殴ったんですか!?」
「うむ。それはそれは力を入れて思いっきりあの副団長を殴ったらしい。その拳は副団長の心に突き刺さり、そこからフェブロー副団長はそれまで以上に働いた……んだが、やはりそこはあの嫋やかな側妃様だろう?指の骨が折れちゃったらしくてね」
「あー……副団長の顔、めちゃくちゃ硬そうですもんね」
「うむ。それでも側妃様は怒りもせずに励めと叱咤激励してくださったんだ。しかしね、フェブロー副団長はまたやらかしてね」
「あ、もしかして……」
「うむ。また側妃様に殴られたんだ。当然側妃様はまた指の骨を折ってね……」
「あちゃあ……無理をするお方だなあ」
二人はそこで苦笑する。
「流石に陛下が黙っていなかった訳だ。そこで側妃様の拳と腕の型を取って、金属の手を作ってあそこに設置したんだ。もう勝手に自分でぶつかって反省しろ、ってね」
「あは……あははは……」
笑いが漏れたが、なるほどと新人君は納得した。
「しかし、金属で作った手なのに、どうも薬指だけ何度も何度も折れるんだ。そのたびに修繕が必要になってしまってねえ」
「へえ、不思議な事もあるもんですねえ」
「うん、そうしてあの籠手を被せる事になった訳だ。金属で守られるようになってやっと折れなくなって助かったよ」
「なるほどね……」
まだ籠手にガツンガツンと頬を打ち付けているフェブロー副団長を、二人は悟った目で見ている。
「ま、側妃様に叱られたい気持ちになったらアレにぶつかってみてもいいかもしれないよ。結構気持ちが晴れるって人気なんだよね」
「えっ!そうなんですか?じゃあ私も何か失敗したらやってみます!」
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「うわっ!」
「この大馬鹿者ーーー!落ち込んでいる暇があったら剣でも振るんだーーー!」
その日の夜の夢に紫の髪が美しい側妃様があの籠手を嵌めた姿で現れて、思いっきり頬を殴られると言うのを見てしまう。
「は、はわ……凄い美人だった……」
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