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19 私が主人公なのに(エリーゼ

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「エリーゼ、表情が暗い、どうしたんだい」
「大丈夫よ、カイン様」

 私は笑顔を作って王太子カイン様に微笑みかける。黒竜の巫女にルシダール様が選ばれる事件があってから何もかも上手く進まなくなってしまった。小説の中にあるイベントがまったく起こらなくなってしまったのだ。

「あの、カイン様……何かお困りごとはありませんか?」
「エリーゼに心配かけるようなことは何もないよ?」
「えっと、魔獣が氾濫したり……」

 小説「エリーゼの為に」ではこの頃、魔獣の氾濫があり、騎士団が出動するはずなのに、全然その気配がないのだ。ここで騎士団長のチャールズが大怪我を負い、わたしが最前線まで出向き、チャールズを助け、魔獣を追い払うの。そして今私の存在と名声は一気に膨れ上がるのに……何故か魔獣氾濫の知らせが来ないの!

「ははっ!そんな知らせがきたことはないよ?最近はとても落ち着いているって騎士団も安堵しているし、チャールズなんて腕が鈍るって笑ってるくらいだ」
「そ、そうなんですね。平和であることはいいこと、ですわ」

 ほほほ、と笑ってみせたけど、何も良いことなんてない!毎日、この国の作法作法と勉強ばかりであとはのんびりお茶を飲んでいるだけ。暇すぎるの!
 買い物とか行きたくてもお金を持ってるわけじゃないし、それに街は危ないから行っちゃダメっていわれている。

 こんなに退屈なんて、元の世界の方が楽しかったんじゃない……?!

「どうしたの? エリーゼ」
「な、なんでもないわ」

 確かに王太子のカインは美形だし、チャールズもカッコいい。でも美形は見慣れちゃうのよ。私はもっとたくさんの美形に囲まれたいの!

「ねえ、カイン様。ルシダール様のことなんだけど」
「……デフィタ公爵がどうかしたか?」

 ルシ様の話をした途端、カイン様の表情が曇る。えっ? ルシダール様とカイン様って仲が悪かったっけ?? 小説ではそんなこと書いてなかったわよ??

「あ、あの……何かありましたか?」
「え、ああ……デフィタ公爵とアスガン宰相がね……少し、その反感を持つ貴族が多くてね。それに何かと我々への締め付けも」
「締め付け?」
「ああ、王家の予算を削ると言い出して……国が混乱しているのに、いつも通りといきますまいと。聖女に関わる予算も削られ……国が混乱しているからこその聖女でなはないかと思うのだが」
「まあっ! なんてこと!」

 それって私が使えるお金が減らされてるってことでしょう!? なにそれ、納得できないわ!

「私! ルシダール様に言ってくる!」
「やめろ、エリーゼ! デフィタ公爵もアスガン宰相も今は非常に忙しい。約束を取り付けても会えないぞ」
「聖女である私が会いたいっていってるのにですか?! そんなの絶対認めないわ!!」

 私が会いたいっていったら、会わないといけないのよ!だって私はこの世界の主人公なんだから!



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